武者陵司「2024年なぜ米日が世界経済をけん引するのか」
他方で、米国の目に見えない対外取引の収入はこれから大きく増えていく。それはサービスと知的財産権、それから資産所得である。これらはいわばサイバーの世界の収入と考えると分かりやすい。
サイバー世界は米国企業の独壇場であるから、そこからの収入がどんどん増える時代に入ってきたのである(ストラテジーブレティン345号、11/28/2023を参照)。
(3)日本の時代到来
世界的な不安の種が大きければ大きいほど、日本の明るさが浮上する、という珍しい事態が起きている。過去30年間、日本は世界の劣等生であり続けた。世界で唯一長期デフレに陥り、名目GDPは30年間の長きにわたって500兆円強と横ばいで推移し続けた。世界で唯一30年にわたって賃金上昇が止まり、韓国にも追い抜かれるという有様であった。
世界株式のバスケットであるMSCIACインデックスの中で、かつて40%を超えていた日本の比率は5%とほぼ10分の1まで低下した。この間、世界の投資家は日本株を売り続け、日本株比率を引き下げれば運用競争に勝てたのである。日本人だけでなく、世界の投資家にも日本軽視、日本無視の態度が染みついてしまっている。
その日本が突如として世界最高のブライトスポットになりつつある。2023年の株価上昇率を見ると、日経平均株価の+28%は、米国SP500+24%、ドイツDAX+19%、英FT100+4%、中国上海総合-4%、韓国総合+19%と主要国株価の中で突出している。
●日本の明るさの背景にある2要因、(A)主体的変化
一体、日本に何が起きたのであろうか。二つの大変化に注目するべきである。第一は、主体的変化である。2013年以降のアベノミクスの時代に、日本企業と経済は大きく体質を改善させた。企業は改革と新ビジネスモデルの構築により、利益率は2倍になり、過去最高利益を更新し続けている。公的年金GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用益は108兆円と4倍増となった。税収は10年間で7割増となった。遅れていた賃金上昇も始まり、2%インフレが視野に入りつつある。
多くの日本企業は物まねではない独創的なビジネスモデルを打ち立て、企業統治の改革が大きく前進し、株主の要請に応え得る収益力を確保するに至っている。この企業で形成された価値は、今のところ潤沢な内部留保として、退蔵されている。
この企業に滞留する所得の還流を促進するべく、岸田政権は、貯蓄から投資へという好循環を引き起こす、新しい資本主義政策を遂行している。1)賃金引き上げ促進、2)PBR1倍以下企業の是正措置要求、自社株買い、増配促進など利益還元の誘導、3)NISA(少額投資非課税制度)改革など投資促進により、日本株の株式需給は大きく改善されるだろう。
●日本の明るさの背景にある2要因、(B)地政学環境の大変化
第二に外部環境、日本を巡る地政学環境の大変化がある。米中対立が深刻化し、かつて日本叩きに狂奔した米国が、対中デカップリングのために強い日本を必要とし、そのための円安を容認するようになったのである。過去30年間に中国+アジアNIES(韓国・台湾・香港)の台頭が顕著であったが、それは日本の競争力衰弱によって実現してきた。
この一人被害者日本の状態が逆転する。大幅な円安の定着により、日本経済の大きな枠組みが変わった。円高が原因となったデフレの時代が終わり、2023年の日本経済はバブル崩壊後最も明るい数量景気の年となったが、2024年はそれが加速するだろう。Jカーブ効果により円安初期の価格面でのマイナス場面が終わり、数量増の乗数効果が表れる後半の時期に入っている。円高で日本から海外に逃げて行った工場や資本、ビジネスチャンス、雇用が、円安によって日本に戻ってきつつある。企業収益、設備投資は空前になった。半導体ブームが一層進行し、TSMC熊本では第三期拡張が決まったようである。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激している。
