二日酔いを避けるには、どんな飲み方が効果的なのか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は酒1杯に対して、水1杯を鉄則にするといい。水を飲むと胃結腸反射が起こるので、深酒で吐き気を催すことも避けられる」という――。

※本稿は、小林弘幸『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

お酒は飲めば飲むほど「脱水」が進んでしまう

深酒の何が悪いかと言えば、次の日にダメージが残ることですよね? 私もそういう経験があります。深酒はしないにこしたことはありませんが、「つきあい文化」も残っていますから、そうも言っていられません。

ではどう対処するか。ダメージを最小限にする簡単な方法があります。それは、「酒1杯に対し、水1杯の割合で飲むこと」です。こうすることで、翌日に残らないお酒の飲み方ができるようになります。

具体的に解説しましょう。

アルコールが体内に入った際、肝臓で分解されていることは皆さん、ご存じだと思いますが、実はこの分解・解毒のプロセスで、水分が消費されてしまうのです。ですから、アルコールをとればとるほど、脱水が進んでしまうのです。しかも深酒をすると、大量のアルコールが分解しきれずに体内に残ってしまいます。寝ている間に、徐々に分解・解毒をしていくのですが、この過程で水分を消費していくのです。

翌朝、強い喉の渇きを感じることがありませんか? これは、寝ている間に脱水症状になっていた、ということなのです。

脱水が進むとどうなるでしょうか? 血管が収縮し、血流が悪くなりますので、頭痛や下痢、倦怠感などを引き起こします。いわゆる二日酔いの症状ですね。疲労感や倦怠感の原因は、末梢の血液不足から来ているのです。

■「酒1杯に対し、水1杯」がいい

そこで、「酒1杯に対し、水1杯」です。これによって、分解で消費される水分を補うことができますので、アルコールによる脱水を防ぐことができます。

また水を飲むことで、消化器の麻痺を防ぐこともできます。

アルコールには興奮作用があるので、飲むと交感神経を刺激し、副交感神経を低下させてしまうのです。副交感神経と腸の働きは連動していますので、お酒を飲み過ぎると腸の動きが止まってしまいます。深酒で吐き気を催すのは、腸の動きが止まってしまい、逆流してしまうことが原因なのです。

水を飲むと、胃結腸反射が起こりますので、ゆっくりですが腸は動きます、腸が動いていれば、吐き気も起きずに済みますし、副交感神経も刺激されるので、極端に副交感神経が下がり、自律神経のバランスが崩れるということもありません。

■「お酒」と「睡眠」を両立する方法は

眠る前にお酒を飲む、という習慣の方がいます。

酔うと寝やすい、と勘違いしているのだと思いますが、これはまったくの誤りです。今、お話ししたように、アルコールは興奮剤です。体内にアルコールが残ったままで寝ると、血管が収縮し、心拍が高い状態が続きます。興奮した状態が続く、というわけです。興奮した状態で、良質な睡眠が確保できると思いますか? つまり、寝酒の習慣のある人は、実は深い睡眠ができていない可能性が高いのです。

では、お酒と睡眠を両立させるためにはどうしたらいいでしょうか。

「酒1杯に対し、水1杯」はもちろんのこと、食事同様、遅くとも寝る3時間前までに飲酒を終えておくことです。それが難しい場合は、せめて寝る1時間前までは、口にするものは水だけにしてください。

飲酒後すぐにベッドに直行することはもってのほかです。寝る前には、カフェインフリーのハーブティーやホットミルクを飲むと、眠りが浅くなることを防ぐ効果が期待できます。特にミルクには、快眠に繋がるアミノ酸の一種「トリプトファン」が多く含まれています。

■「酔い醒ましにひとっ風呂」は禁忌

もうひとつ言うと、酔った状態での入浴はかなり危険です。

発汗などで、より一層、脱水が進み、血流が悪くなります。極端な血流の悪化は、心筋梗塞などを引き起こす可能性もあります。

もしどうしても入りたい場合は、最低でもコップ1杯、分量にして250ccの水を飲んでから入るようにしてください。さらにお湯はぬるめの40度。入浴時間は最大で15分間です。これならば、心筋梗塞のリスクを低減することができます。

逆に、熱すぎるお湯は、絶対にいけません。最近の実験で、43度近いお湯に長々浸かっている場合が、血流を一気に悪くすることがわかっています。

そして飲んだ次の日の朝は、忘れずにコップ1杯の水。寝起きの水を朝食前にとることによって、下がりきって反応しにくくなっている副交感神経が上がってきてくれます。

■お勧めのつまみはチーズ、ナッツ、豆腐

酒席が多い人は、つまみも一工夫してください。

唐揚げなどの揚げ物は、胃腸に負担がかかりますので、なるべく避けたいところです。できるだけ軽めのものがお勧め。例えばチーズ、ナッツ、豆腐や枝豆などの豆類。つまり、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えてくれるチーズや豆腐などの発酵食品、食物繊維が豊富なナッツ、上質なタンパク質を含んだ豆類中心の「軽めのつまみ」を酒のお供にするのです。これらを、ゆっくりよく噛んで食べる。

日本酒には肴(和食のつまみ)、ビールには枝豆、ワインにはチーズと相場が決まっていましたが、これらはどれも、お酒に合ったつまみです。お酒の味わいを引き立てるというだけでなく、体にとってもやさしい。これも先人の知恵でしょうか。

ただし、これら対策を講じるにしても、くれぐれも飲み過ぎには注意してください。

■飲み会がある日のランチは「腹六分目」

夜の会合の予定があらかじめ見えているなら、事前に対策の立てようがあります。それは、「その日の昼食を腹六分目にする」ということです。

腹八分目ではありませんよ、六分目です。

実は、お腹いっぱい、限度まで食べてしまうと、消化吸収にいつもより多くの血液を消費してしまいます。すると脳の血流が不足してしまい、頭がボーッとしてしまうのです。満腹の時に妙にやる気が出なかったり、集中力が欠如したりしてしまう時がありますが、これは、血流が影響していたのです。昼食後も、仕事のパフォーマンスを維持したいならば、常に「腹八分目」を肝に銘ずるべきでしょう。

さらに2次会、3次会など、ロングの飲み会や会食が入っているなら、「腹六分目」まで減らしてください。ちなみに私は、五分目にしています。酒席では、総じて高カロリーの飲食となりますので、バランスをとるために、昼から調整していくのです。

■生野菜や食物繊維を多くとる

酒席ではメニューの選択ができないことも多いですから、昼食はメニューにも留意したいところです。

夜の会食は、肉や魚の動物性タンパク質、脂肪が多いに違いありません。その分、生野菜などの野菜が不足しがちです。であるならば、昼のメニューは、量を減らすだけでなく、動物性タンパク質、脂肪を避け、不足しがちな生野菜や食物繊維を多くとるように心がけます。こうしておけば、会食の際、「脂肪が多すぎるな……」「これは食べないでおいたほうがいいかな」と鬱々としなくなります。

先にも述べましたが、食事の時に余計なことを考えると、ストレスが増すだけで、いいことはひとつもありません。昼、腹六分目で、かつメニューで工夫しておけば、夜のストレスは随分減ることでしょう。

■飲み過ぎても朝食を抜いてはいけない

お酒が中心の会が続くのなら、肝臓の働きを高める良質のタンパク質やビタミン、食物繊維をとるのがいいでしょう。肝臓は、アルコールの解毒を担っていますので、肝臓の働きが肝になってくるからです。

小林弘幸『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館新書)

具体的には、豚肉や牛肉を避け、低カロリーで良質のタンパク質がとれる豆類や大豆製品、魚類、鶏肉などがお勧めです。また、ビタミンをとるなら、ウナギ(ビタミンA、ビタミンE)、マグロや大豆(ビタミンE)、ごま(ビタミンE、ビタミンB1)、ナッツ(ビタミンB1)、ブロッコリー(ビタミンC)、チーズや卵(ビタミンB12)などがいいでしょう。ひじきやワカメなどの海藻類は、腸内環境の改善に役立つ食物繊維が多く含まれていますので、これらもお勧めです。

ようはちょっとの事前準備。昼食の量とチョイスを、いつもよりちょっとだけ工夫するだけで、腸内環境は整えられ、夜の飲み会に向かって最高の状態で挑むことができるのです。それによって、楽しさや、その後のダメージも変わってくることでしょう。

ただし、「昨日、ガッツリ飲み食いしたから、朝飯を食べるのをやめよう」という調整はマイナスです。朝食を抜くと腸内環境が乱れてしまいますので、量の調整はその日1日の中で実行してください。

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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。スポーツ庁参与。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)