ロナウジーニョが逮捕された。このショッキングな事件は世界中で報道され、かつて彼の華麗なプレーに魅了されたサッカーファンを嘆かせている。日本でも、2002年W杯での彼の活躍を覚えている人は多いことだろう。


パラグアイ当局に逮捕されたロナウジーニョと兄のアシス

 それにしても、今回の事件には不可解なところがある。まずは何が起こったのか、順を追って整理してみてみよう。

 3月5日の午後遅く、ロナウジーニョと、その代理人を務める兄のアシス(かつてコンサドーレ札幌に選手として所属していたこともある)は、パラグアイの空港に降り立った。パラグアイに来た目的は3つ。新しくオープンするカジノの初日イベントのゲスト、自分の伝記本の宣伝、恵まれない子供たちのためのチャリティである。

 ロナウジーニョ兄弟は普通のイミグレーションには行かず、空港のVIPルームに通され、そこで入国手続きをした。南米には「メルコスール」と呼ばれる関税同盟があり、加盟国間であれば、パスポートではなく、IDカードだけで旅行ができる。だが、2人はなぜかそこでパラグアイのパスポートを提示した。

 入国管理官は、彼らのパスポートに問題点があることを発見したが、そのまま入国させてしまった(その後、入国管理の責任者は責任を取って辞任している)。

 それから2時間後、カジノがあるホテルの一泊900ドル(約10万円)はするスイートにいたロナウジーニョのもとに警察がやってきた。そこで彼らは問題のあるパスポートに加え、パラグアイの偽装IDカードも発見した。彼らに同行している、やはり偽物のIDカードを持っていたウィル・モンデスというブラジル人実業家はそのまま逮捕され、ロナウジーニョとアシスは公文書偽造の疑いで事情聴取されることとなった。

 パラグアイのパスポートは、それ自体は本物であったが、その旅券番号を調べると、2人の女性のものであることが判明した。この女性たちは数週間前に、アルゼンチンでの仕事を斡旋すると言われ、ビザ取得のために業者にパスポートを渡していた。その写真と名前をロナウジーニョとアシスのものに変えてあったのだ。一方、IDカードはまったくの偽物だった。カード番号は2人のものが連番になっており(普通はあり得ない)、おまけにその番号は政府のシステム上、使用されていない番号だった。

 翌6日、彼らは法廷で、パスポートとIDカードは同行していたウィル・モンデスから20日前にブラジルでプレゼントされたもので、自分たちは何も知らないと供述した。一時は「彼らは巻き込まれただけ」で釈放され、首都アスンシオンのホテルに泊まり、早朝の飛行機でブラジルに帰る予定だった。

 しかし、この事件にパラグアイの関係者は激怒した。検察当局も、事件には裏があると重く見て、2人はその夜の8時にもう一度拘束され、留置所に勾留されることとなった。彼らは国選弁護士から歯ブラシと石鹸が差し入れられ、ウーバーイーツで頼んだマクドナルドのハンバーガーを食べた。翌日の朝食はとらなかった。勾留は48時間しかできないので、そのぎりぎりまで留め置かれ、その間に、釈放するのか、それとも正式に逮捕・起訴されるのかが決められる模様だ(現地7日現在)。

 それにしても、わからないことが多すぎる。ロナウジーニョは選手としても、引退してからも、何度もパラグアイなど南米各国に行っている。ブラジルのIDカード示すだけで、入国できることは十分知っていたはずなのに、なぜわざわざ偽のパラグアイパスポートを提示したのか。

 ロナウジーニョはブラジルのパスポートも所有しているし(一時期、罰金未払いのため差し押さえられたが、返却されている)、スペインのパスポートも持っている。なぜそれを使わなかったのか。

 この事件を調べていくうちに、その背後に、国際的犯罪組織の影があることが感じられるようになった。

 そもそもパスポートを女性から取り上げ偽造したり、パラグアイの内務省の管轄であるIDカードのシステムのブランクをついたり、素人ではできないことが多すぎる。

 また今回、ロナウジーニョが行なうはずだった自伝本の宣伝とチャリティは、ダイヤ・ロペスというパラグアイの女性実業家が企画していたが、彼女は脱税とマネーロンダリングの疑惑で、パラグアイ政府のブラックリストに載っていた。彼女は今回逮捕されたウィル・モンデスの妻と親友であり、ウィル・モンデス自身は、あるブラジル人議員と非常に近しい。この議員はブラジル・パラグアイ議員協会のコミッショナーを務めている。

 今、わかっていることは氷山の一角にすぎず、なにやら大きな陰謀が絡んでいるのかもしれない。パラグアイ当局もそれを感じて勾留したのだろう。

 ロナウジーニョは、2015年にフルミネンセを去って以来、多くの問題を起こしている。妻を2人娶(めと)ったり、現政権を大っぴらに批判したり。ポルトアレグレに買った邸宅の近くの自然保護区に自分専用の桟橋を建ててしまい、罰金を課せられたがそれを滞納。それ以外にも多くの税金を滞納し、その額は莫大なものに膨らんだ。そして今回の事件である。

 手錠をかけられたかつてのヒーローの姿を見るのは、残念でならない。