「人生で初めての妊娠だったんです。マタニティマークをもらったので、バッグを変えるごとに付け替えて、一番目立つところにつけたりしていました。あの時は、女としての幸せに満たされていました」

 グレーの壁に囲まれた、四畳もない狭い面会室。分厚いガラス越しに置かれたパイプ椅子に座り、こう語るのは、岩本和子容疑者(43)だ。

 かつては“美熟女モデル”として人気を博した岩本。週刊誌ではセクシーなグラビアを飾り、昨年は「奇跡の42歳、初ヘアヌード! 人気モデルが砂漠のリゾート・ドバイで魅せた、むきだしの心とカラダ」というキャッチコピーで刊行したヌード写真集「神秘」(光文社)が話題となった。

 岩本は現在、検察の施設で生活している。5月18日、JR熱海駅の新幹線改札口で、交際中だった34歳の男性を刃物で切りつけ、殺人未遂と銃刀法違反の容疑で逮捕されたのだ。

 岩本は湯治客の間をすり抜けながら、逃げる男性の後を追い、男性が改札で立ち止まったところをカッターナイフで切りつけた。男性は頬を切られたが、傷は深く、「切り傷からは骨みたいなものも見えた」(事件を目撃した売店店員)という。付近には血しぶきが飛び散り、「週刊文春デジタル」では、暴れる岩本が駅の警備員らに取り押さえられる場面を収めた写真を入手、公開した。


警備員らに取り押さえられる岩本和子 

「メイクができないので、すみません」

 ガラス越しにうなだれる岩本に、かつての妖艶な美熟女モデルの面影はない。

 頬はこけ、艶を失った髪を二つに結び、華やかなネイルアートを施していた爪は短く切りそろえられている。すみれ色の無地のワンピースにカーディガンを羽織った彼女は、「メイクができないので、すみません」と俯いていた。今はトイレや洗面台のある三畳ほどの個室で過ごしているという。

 岩本の隣には女性刑務官が座り、記者と岩本の会話を時折メモしている。

「起床は朝7時なのですが、毎日6時には目が覚めてしまって。だから1時間ほどは、小さな窓から朝日を見ています。日中は小説を読んだり、考えごとをしたりしながら過ごし、21時には就寝する生活です。仕事などすべてキャンセルになってしまい、楽しみにしてくれていたファンや関係者の方には、本当に申し訳ないことをしてしまいました」

SNSに胎児が写ったエコー写真を公開

 事件3日前の5月15日早朝、岩本容疑者はフェイスブック、ツイッターにこんな書き込みをしていた。

 《皆さ、あお母さんさようなら どうか〇〇〇〇に極刑を……傘¥み様……かみさmあ》

 《○○○○という男に殺される 助けてください。。誰か》

 《生まれてきてごめんなさい。お母さん ○○○○なんかに殺されてごめんなさい》

 《相手 〇〇〇〇 理由 レイプによる妊娠》

 伏せ字にした「○○○○」は、事件の被害男性A氏の実名だ。これらのSNSは既に閉鎖されているが、岩本は胎児が写ったエコー写真も公開していた。

 岩本に確認したところ、このエコー写真は自分のものであると認めた。胎児の父親はA氏であるという。

「でも、もうお腹のなかに赤ちゃんはいません。事件を起こした前日(17日)に堕胎手術を受けたんです。その日はイベントに出演したのですが、何を話してどう振舞ったのか、まったく覚えていません」

嘘をついてA氏を熱海に呼び出した

 翌18日、岩本は仕事の衣装を取りに行くために、東京駅から新幹線で大阪の自宅に向かっていた。乗ったのは昼過ぎ発車の新幹線。4つめの停車駅が熱海だった。

「14時か15時頃だったと思います。ふと知らない土地で、違う空気を吸ってみたくなって、熱海駅で降りました。箱根でも小田原でもよかったのですが、温泉にでも寄れば現実から離れられるかもしれないと思った。広い空の下で、赤ちゃんはもういないんだなとぼんやり考えていました。そして、無意識に『熱海で堕ろすから同意書を書いてほしい』と嘘をついて、Aさんを呼び出していました」

 岩本は手術を受けたことを隠していた。A氏は熱海に来ることを了承し、岩本はA氏の到着を待つことになった。2、3時間ほど熱海の街を歩き、時間を潰していたところ、コンビニがふと目に入ったのだという。

「お菓子を買おうと思ったんです。でも、気がついたらカッターナイフを買っていました。そのとき……子供の苦しそうな声が聞こえた気がしたんです」

「この女は頭がおかしい。どうにかしてください!」

 静寂の面会室、岩本は声を詰まらせ、涙を流し、嗚咽した。横の女性刑務官からポケットティッシュを手渡され、涙を拭う。記者が「大丈夫ですか」と話しかけると、岩本は「すいません」と落ち着きを取り戻した。

「相手が来たのは17時頃だったと思います。新幹線で熱海駅に着いたAさんから《着いた》とメッセージが来たので、電話をしたんです。まず、新幹線のホームにいるという彼に、『駅の近くで落ち合いたい』と伝えたのですが、Aさんは『直接行くから病院の住所を教えてほしい』と言う。それで言い合いになったのですが、らちが明かないと思い、私は切符を買って新幹線のホームまで行ったんです。

 ホームに着くと、すぐに彼を見つけました。声を掛けたのですが、また口論になりました。何を話したかはよく覚えていません。ただ、彼は口論の最中に通りかかった駅員に、『この女は頭がおかしい。どうにかしてください!』と言ったんです」

 その刹那、岩本は我を失ったという。

逃げるA氏、あとを追う岩本

 A氏は岩本を振り払うように、1人で階段を下りていった。あとを追う岩本。2人は自然と早足になった。事件直後に取材班が話を聞いた売店の女性店員は、「2人が誰かから追われているように見えた」と証言していた。

 改札口まで追って来たところで、岩本はA氏をカッターナイフで切り付け、さらに逃げる男性を駅ビル内の商業施設の中を追いかけ回した。だが、岩本は「そのときの記憶がないのです。後になって防犯カメラに写っていた映像を警察に見せられ、自分のしたことに呆然としました」と振り返った。

「すでに堕しているのに、その時は本気で、まだ子供を宿しているんだという気になったのを覚えています。私は、子供を産みたかったんです」

 実は、事件の1週間ほど前、岩本がA氏の妻と直接向き合うという“修羅場”があったのだという。

「当時は“独身の人”の子を宿したと思っていたんです。彼とは出会って間もなかったのですが、子供の父親であると意識してから、大切な存在だと感じるようになりました」

 3月に妊娠の事実を告げ、岩本が「どうするの? 私は産みたい」と伝えると、A氏は当初、「産んでもいいよ」と答えていたという。だが、態度は急速に冷たいものになっていったという。

「避けられるようにAさんと連絡が取れなくなったのです。でも、直接ちゃんと話をしたいと思って、彼の自宅の最寄り駅まで会いに行きました」

突如やってきた修羅場 A氏の妻との“直接対決”

 その日、岩本は都内某駅近くの路上で、A氏と話し合いを持ったという。すると、1人の女性が通りかかり、A氏の名前を呼び、声をかけた。

「私がその女性に『どちらさまですか。お友達ですか』と聞いたら、『いいえ、嫁ですけど!』とおっしゃいました。すると、その瞬間、Aさんはその場から走って逃げ出したのです。私は咄嗟に彼を追いかけましたが、お腹の子が心配で途中で諦めました。あのときにAさんが見せた表情は、一生忘れられないと思います」

 A氏を追いかけるのをやめ、立ち尽くす岩本に、A氏の妻が声をかけたという。

「奥さんは『何があったんですか』と怪訝な顔をしていました。結局、2人で近くのお店へ移動しました」

 2人は近くのファミリーレストランで向かい合って座った。A氏の妻は「若くて、表参道にいるような最近風な感じ」だったという。

「私が妊娠していることを伝えると、奥さんから『私たちに何を要求する気ですか』『お姉さん、堕してくださいね』と言われました。そう言われて、簡単に納得できる話ではありません。後日、話し合いの場を持つことになり、連絡先を交換してその日は別れました」

 だが、それから1週間、岩本がA氏の妻に何度電話をかけても、繋がることはなかったという。

「私はただ、嘘をついていたことを謝ってほしかった」

「Aさんが熱海の改札から逃げ出したとき、(1週間前に)奥さんと私から逃げる直前に見せた顔が頭をよぎったんです。それで追いかけてしまいました。楽しく観光していた方々に怖い思いをさせてしまって、本当に申し訳なく思っています。

 本当にAさんにケガをさせるつもりはありませんでした。今はAさんにケガをさせたことは反省していますし、謝罪します。今振り返ると、もっとほかの解決方法があったと思っています。でも、正直に『実は結婚している』と言ってくれたら、私も大人なので、考える余地はあったと思います。私はただ、嘘をついていたことを謝ってほしかった。こんな事をするはずじゃなかった……」

 ここを出たら何がしたいですか、記者が聞くと、岩本は「お母さんに抱き付いて、謝りたいです」と大粒の涙を流し始めた。そして、記者の目の前で号泣し、「ごめんなさい!」と泣き崩れた。

 取材班では、こうした岩本の証言について、A氏にも見解を求めようと試みたが、期日までにコンタクトを取ることができなかった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)