どうなる?米大統領選、金持ち優先主義のトランプの勝利はあるか?
米大統領選への再出馬を表明したドナルド・トランプ。2つの調査結果の報道に注目が集まっている。ひとつはFOXニュースによる世論調査で、仮に1対1の勝負を挑んだ場合、トランプはジョー・バイデンとバーニー・サンダースに破れるだろう(ただし、他の民主党候補には勝利する)という結果。もうひとつは、トランプ政権内で行われた独自の内部調査のリーク情報で、トランプはバイデンとの直接対決で大きくリードされているという、記者を喜ばせる調査結果だった。
調査結果は別にして、トランプによる出馬表明で、彼が推進しようとする政策に既に注目が集まっている。2019年6月17日に公開した動画の中でトランプは、2016年に掲げたポピュリスト政策を再び持ち出した。現職の大統領が自国の政府に挑戦状を突きつけるのは、そうあることではない。しかしトランプはやってのけた。「我々は機能していない既成勢力に対抗し、国民の国民による国民のための政治を取り戻そうとしている。選挙に勝利したのは、あなた方国民なのだ」と彼は言う。我々は今後、彼によるさらなる言葉巧みな演説を耳にすることだろう。
前回の大統領選では、莫大な財産を相続したビリオネアの御曹司が一般有権者の代表として立候補し、勝利するという極端な大胆さが目立った。今回トランプがホワイトハウスから政治の素人として再び立候補し、勝利するようなことがあるのだろうか? ABCネットワークの特別番組で、エアフォースワンや海軍のヘリコプターで移動するのがどんなに凄いかを1時間にわたり自慢げに語るトランプに匹敵する詐欺師は、歴史を遡ってもエッフェル塔を2度売った男ぐらいしかいないだろう。
トランプがポピュリストのように振る舞うのは不思議なことでない。なぜなら前回はポピュリスト戦略が功を奏したからだ。興味深いのは、民主党候補者の多くも同様の戦略を採る準備をしているらしいこと。2016年の戦略からの離脱といえるだろう。前回選挙の争点は「経験と適性」対「チェンジと大改革」というテーマに絞られ、最終的には民主党が敗北することとなった。トランプが全てを蹴散らしながら突き進み、勝利したのだ。
今回の民主党側の選挙キャンペーンは、有権者が今なお怒りを爆発させる雰囲気にあることを認識しているようだ。Yahooファイナンスは最近投稿した論説で、2020年の大統領選が「経済的ポピュリズムの将来構想を巡る、バーニー・サンダース上院議員とドナルド・トランプ大統領との争い」になるだろう、と指摘している。
同記事が言わんとしているのは、本選挙がトランプとサンダースの一騎打ちになるだろう、ということではない。2020年夏に行われる国民的議論では、現代の米国資本主義の衰退に対し、どの候補者が最も現実的で広範囲に及ぶ是正策を提供できるか、という点が中心的論点になるだろう、ということを示唆しているのだ。
「国民と束縛のない自由市場との関係はますます問題をはらんでいる、と専門家らは言う。このような状況下で民主党の全有力候補は実質的に、ポピュリスト政策を推進し始めた」とYahooの記事は指摘する。
アイオワ州などの地区で遊説する民主党候補者に将来的な課題があるとすれば、政府を使って市場に介入し、わずか数年前までは成功の見込みのなかった政策で国中に浸透した不平等を是正しようとする考え方だったろう。
サンダースは、住宅供給、時給15ドルの適正賃金、単一支払者医療制度、退職後の収入等を保証する「経済の基本的人権」という確固たる政策を打ち立てた。
候補者の多くは、いわゆる「グリーン・ニューディール」に似た政策を提唱しているが、中でもワシントン州のジェイ・インズリー知事は特に力を入れている。知事の広報担当を務めるジャマル・ラードはインズリーの政策を「気候変動問題を克服するための連邦政府全体を挙げた対応」と表現し、今後10年間で800万件の雇用を創出する計画を打ち出した。
元米住宅都市開発長官のフリアン・カストロはウォーキー(アイオワ州)にあるトレーラーパークを訪れた際、賃貸料の高騰を目の当たりにし、救済手段を約束した。手頃な金額で住める住宅はひとつの「人権」だとし、住宅関連に収入の30%以上を費やす国民全員に対する減税策を掲げた。
教育面について、民主党から出馬する23人の候補者の内18人が、大学授業料の無償化に賛成している。フリアン・カストロ、エリザベス・ウォーレン、バーニー・サンダースは、全公立高等教育機関における授業料の無償化を公約とした。またサンダース、キルステン・ジルブランド上院議員(ニューヨーク州)、コーリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州)らを中心とする複数の民主党候補者が、連邦政府主導の雇用保障プログラムを支持している。世論調査の結果、トランプが勝利した州を含む全50州における有権者の大半が、何らかの雇用保障プログラムの導入に賛成していることが明らかになった。
医療制度に関して候補者の多くは、メディケア・フォー・オール(高齢者・身障者向け公的医療保険制度の全国民への適用)を支持している。ブッカーとカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)は、サンダースによるメディケア・フォー・オール法案の共同起草者だ(しかし2人は、法案支持のトーンをやや落としている)。
サンダースですら到達していない分野に踏み込んだ候補者も何人かいる。アントレプレナーのアンドリュー・ヤンは、「自由の分配」と呼ぶ全国民を対象とした月1000ドル(約10万円)の最低所得保障制度(ユニバーサル・ベーシック・インカム)を提唱した。
「自由の分配に反対できる者がいるだろうか?」と彼は言う。「そのようなバカ者は存在しないだろう。」
トランプによる介入主義的ポピュリズムは、イデオロギーというよりも日和見主義的で、テントの中で不平不満が聞こえたらラクダを分け与えたアジアの王族のやり方に似ている。2019年の初めトランプは、ルイジアナ州のLNGプラントへ向かう途中でカルカシュー川に掛かる橋を渡った。橋から受ける印象が悪かったトランプは最終的に、選挙に勝利した暁にはルイジアナ州へ新しい橋の建設費用を支出すると約束した。また最近、190億ドル(約2兆430億円)のフロリダ半島への災害復興支援法案に署名。さらに、中国との貿易戦争が米国の農業関連産業に対する報復関税につながる恐れが出てくるとトランプは、農場主への支援として160億ドル(約1兆7200億円)を支出した。
トランプは、過去から現在に至るあらゆる反体制キャンペーンからレトリックを拝借することで、ポピュリストとしての地位を確立している。ロン・ポールによる不介入主義から、非政治家のハーマン・ケインによる「既存の枠にとらわれない」政策、さらにはサンダースからもヒントを得ているのだ。トランプは遊説中によくサンダースを称賛したが、明らかにヒラリー・クリントンを攻撃するひとつの手段だった。トランプは2016年4月のある時、バーニーはヒラリーについての「真実を語っている」と述べている。
大統領に就任して以降トランプは、「忘れられた米国人」への献身を繰り返し口にしてきた。皮肉なことにこれは、2008年後半の民主党大統領予備選挙でヒラリー・クリントンが掲げた、怒れる白人中産階級の有権者を念頭に置いた選挙キャンペーンから借用したテーマだ。マーク・ペンの考え出した「目に見えぬ米国人」に関する演説は、ペンシルベニア州におけるヒラリー・クリントンの勝利を後押しし、あと一歩でバラク・オバマを相手にした選挙戦の状況をひっくり返すところだった。
「目に見えぬ米国人」という言葉自体は、ビル・クリントンによる「忘れられた中産階級」のコンセプトを真似たものだった。さらにビル・クリントンのコンセプトは、リチャード・ニクソンの「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」から来ている。偽ポピュリズム選挙キャンペーンは絶えずリサイクルされるため、虚偽の公約を最初に掲げた者まで遡るのはかなり困難だ。
2015〜2016年にかけてのトランプによる改革とは、電話を掛けて力ずくで流れを変えるトランプ流のやり方だった。自動車メーカーのフォードが国内工場をメキシコへ移転させようと計画した時は、「そんなことは私がさせない」とトランプ候補は断言した。
トランプはまた、「やりたい放題」だったウォールストリートの人々に対する規制を強化し、彼らに対する税の引き上げを公約に掲げた。「ヘッジファンドに関わる人々は、大金を稼ぎながら税金をほとんど支払っていない」と、大統領候補時代のトランプは指摘した。「中産階級の税負担を軽くしたいと思う」と語った彼は、ゴールドマン・サックスとのお金の問題でテッド・クルーズとヒラリー・クリントンを追求した。
数年後、あらゆる約束がひっくり返されたのは周知の事実だ。トランプは富裕層に対する税金を上げるどころか、むしろ逆に前代未聞の税優遇措置を実施した(中産階級の税負担もやや軽減されたが、大きくはない)。選挙後間もなく彼は、選挙中に自らが攻撃対象としていたゴールドマン・サックスの幹部を政権内に迎え入れようとした。トランプの行動に対しては多くの批判の声が上がり、オバマの選挙参謀のひとりだったカリーヌ・ジャン=ピエールは、将来的に有権者は門外漢のトランプを「全く信じなくなるだろう」と指摘した。
トランプが大統領に就任してから2年の間に、米国では多くの激しい変化や衝突が見られ、異様さが全国的に広がった。そのためトランプは、物ごとの違いが認知されるだけで恩恵を受けることになるかもしれない。2019年初めに実施されたCNNの世論調査によると、米国民の76%が、トランプは「大きな変革」をもたらしたと答えている。しかし彼の改革が良かったか悪かったかという点については意見が分かれ、33%が良い、37%が良くないとの結果が出ている。
このような数字も、前回の選挙でトランプに投票した有権者が彼の行う改革を盲目的に一貫して支持するようになるまでは、彼にとってたいした意味を持たない。トランプはトランプであるというだけで、大統領選の相手が誰であろうが、「改革の中心人物」とされる道が開かれているのだ。
そのためトランプの選挙参謀を務めたティム・マータフのように、トランプは「大統領に就任して改革を推進すると約束した彼は、その通りに実現した」と、皮肉でも何でもなく言ってのけるような人々が出てくるのだ。「ホープとチェンジ」を掲げたバラク・オバマに対し、トランプはただ改革のみを推進している。しかし、トランプの政治家としての手腕は過小評価されている。彼はいつでも、米国民の多くが正気を失い、悲観的で意気消沈し、現状に妥協してしまっていることをわかっていた。
2016年の民主党はドナルド・トランプを問題視せず、現状の闘い方で十分だと考えていたようだった。次の選挙も同じ戦略で通用するだろうという、複数の世論調査結果もある。それは危険な考え方だと思う。一方で積極的な行動を約束している民主党候補者は、たぶん事態をよく理解している。それは政権を奪還するための手段としてだけでなく、米国が必要とし、求めているからだ。大幅な構造改革は、米国にとって長年実現できていない課題となっている。民主党が現状に満足して構造改革を公約に掲げなければ、ドナルド・トランプがやるだろう。
