160センチの大エース、日南学園・森山弦暉は「怪物」に迫れるか?
「そうですね、僕が一番小さいキャプテンでしょうね。でも、今までも慣れていることなので、気にしていません」
開会式が終わると、各メディアが全49代表校の主将にインタビューできる時間がある。甲子園球場の一塁側室内練習場に大勢の主将と報道陣がごった返すなか、一際小柄な主将がひっそりとたたずんでいた。
森山弦暉(もりやま・げんき)。身長160センチ、体重65キロ。日南学園(宮崎)の主将であり、絶対的なエースでもある。今夏、身長180センチを超える長身の本格派投手が勢ぞろいする中、森山の存在は異色と言えた。
だが、森山には「身長」がコンプレックスになったことが、まったくないという。
「小さいなりにできることはありますから。自分の持ち味はコントロールで、それを最大限に生かせれば戦える。これまでもそうしてやってきましたから」
小学生の頃から名の知られた存在だった。小学6年時にはエースとして全国大会(全日本学童軟式野球大会)でベスト4進出。現在、日南学園でショートを守る石嶋友翔は森山のことを「ずっと有名でした」と証言する。
幼い頃から培われた勝負度胸と成功体験。そうした下地があったからだろう。森山はたとえ身長が低くても臆することなく、高校野球で台頭してきた。今春はセンバツに出場し、明石商に初戦で敗れたものの3失点と好投。今夏の宮崎大会は貫禄の投球で、甲子園春夏連続出場の立役者になった。
「森山は思ったことをズバズバ言ってきます。僕が練習試合でエラーを連発したら『マジ、知らんぞ?』と(笑)。試合中でもマウンドから『オイ!』と怒鳴ってきますから」(石嶋)
ストレートの球速はほとんど120キロ台。スピードはなく、角度もない。それでも、森山には類まれなコントロールのよさと勝負強さがある。今夏の甲子園初戦で対戦した八王子(西東京)の2番打者・竹中裕貴は言う。
「120キロくらいでも、もうちょっと速く感じるし、思った以上にキレがありました。コントロールもすごくよくて、自分たちの野球ができず、相手のペースになってしまいました」
前出の石嶋は、八王子戦で実に11個ものショートゴロをさばいている。ノーエラーで処理できた要因のひとつに「森山のコントロールのよさ」があるという。
「テンポがいいので、すごく守りやすいんです。どんどん投げるし、初球からストライクを入れてくれるし、コントロールがいいから打球方向が予測しやすい。一歩目のスタートが切りやすいので、打球に追いつくことができるのだと思います。今日はもう、『オレのとこに打ってこい!』という感じでした」
八王子戦は8回を投げて4安打無失点。2回戦の市和歌山(和歌山)戦では2回途中からリリーフして7回2/3を7安打1失点。2試合連続の好投で、チームをベスト16に導いた。
森山の女房役である正捕手・萩原哲には、ある密かな楽しみがあるという。
「野球ゲームで架空の選手を育成できるモードがあるんですけど、それで日南学園のチームメイト全員を作ったんです。能力はできるだけ忠実に再現して。森山のコントロールは『S』(最高値)に設定しています。現実の森山もゲームのコントローラーのように構えたところへボールが来るので、リードをしていて楽しいですね。実際にゲームを使って試合のシミュレーションをしたり、配球の勉強をすることもあります(笑)」
ちなみに、萩原の「肩力」の設定も「S」だという。「ここは譲れません」と萩原は笑うが、実際に八王子戦、市和歌山戦でも盗塁を試みたランナーを1人ずつ刺し、盗塁を許さなかった。こんなS級強肩捕手の存在も、森山の投球を支えている。
日南学園の夏の甲子園最高成績は、寺原隼人(ソフトバンク)を擁した2001年夏のベスト8。「怪物」と言われた大先輩よりも20センチ身長が低く、30キロ近く球速の遅い森山が、はたして肩を並べることができるのか。北海(南北海道)との間で争われる3回戦で、その答えは出る。
菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

