「結婚するんじゃなかったのか」美少女AI Vtuberに“ガチ恋”したファン、開発者が語る恐怖体験
「結婚してくれ」
そんなプロポーズの言葉を繰り返し送ってきたのは、オンラインでつながった男性だった。だが、結婚を迫られていた相手は、実在の女性ではない。画面の中でAIによって動く“美少女AI Vtuber”だった──。
関東在住の30代の会社員男性は、生成AIブームが広がり始めた2023年ごろ、自作の「AI V チューバー」を開発した。
ファンタジックな美少女キャラクターがライブ配信をおこない、視聴者のコメントにAIが自動で返答する。さらに、その返答を音声合成で読み上げる仕組みだったという。
しかし、運営を始めて間もなく、ある男性視聴者から執着的なコメントが寄せられるようになった。
男性は「相手が人間ではなくAIだとわかっているはずなのに、どんどん距離感が近くなっていった」と振り返る。
AI配信者に対する“ガチ恋”や依存は、なぜ起きるのか。開発者本人に話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●「AIが全部返事する美少女」を自作
男性が開発したのは、いわゆるVtuberの“AI版”だった。
YouTubeライブで視聴者がコメントすると、AIが自動で返答を生成。その内容を音声化し、3Dキャラクターがリアクションする。
キャラクターデザインはAIで生成し、3Dモデリングや配信システムは自作したという。
「ChatGPTが出てきた直後くらいに、“これはすごいぞ”と思って作りました。完全に趣味ですね。海外ではAI Vtuberがスーパーチャットで稼いでいる例もあったので、“もしかしたら伸びるかも”とは思っていました」
男性はVR・MR分野を学び、現在も技術職として働いている。AIや3D技術への興味から制作を始めたという。
配信は毎日1時間ほど。ただ、AI配信者ならではの悩みもあった。
「人が来ないと、本当に何も起きないんです」
人間の配信者であれば、一人でしゃべり続けられること自体が“才能”とも言われる。一方、AI VTuberは技術的には延々と話し続けることも可能だ。
そこで男性は、スマホから自分でコメントを書き込み、“盛り上がっている配信”を演出することもあったという。
●「結婚してくれ」にAIが肯定返答
しばらくすると、定期的に配信を見に来る“固定ファン”が現れた。
「最初は普通の雑談でした。“好き”みたいなコメントが来ることもありましたが、VTuber文化では珍しくないので、あまり気にしていませんでした」
しかし、やり取りは次第にエスカレートしていく。
「だんだん、“結婚してくれ”みたいなことを毎回言うようになってきたんです」
問題は、AI側にそうしたコメントへの“適切な距離感”を学習させていなかったことだった。
「ChatGPTに“結婚して”と言うのと同じで、AIが肯定的に返しちゃうんですよ。“いいよ”みたいな感じで」
さらに、当時のシステムには長期記憶機能がなく、配信を終了すると過去のやり取りを忘れてしまう仕様だった。
そのため、翌日に同じ視聴者が来ても、AIの美少女は前日の“プロポーズ”を覚えていない。
「そうすると、“結婚するんじゃなかったのか”みたいなコメントが来るんです。でもAIは“そうなんだ”みたいに返してしまう」
男性は「見ていて怖かった」と振り返る。
●“唯一の固定ファン”が原因で終了
視聴者数自体は決して多くなかった。
しかし、その“唯一の固定ファン”の存在が、逆に配信継続を難しくしたという。
「配信を開くたびに“求婚してる人がいる”状態になってしまって、新規視聴者が入りづらい空気になっていたと思います」
さらに、配信を休むと「なんで昨日やらなかったのか」と責められることもあった。
「彼がどこまで本気だったのかはわかりません。でも、だんだん執着っぽくなってきて、これはもう無理だなと思いました」
開発に5カ月かかったが、配信は1カ月もたたずに終了した。
●IQ200で人間を小馬鹿にする「くまのプーさん」
男性はその後、新たなAI VTuberの開発にも挑戦した。
モチーフにしたのは、あの「くまのプーさん」だった。2022年にプーさんの原作が著作権保護期間が終了し、パブリックドメインになったことに着目したという。
ただ、そのキャラクター性は、一般的な“かわいいぷーさん”とは大きく異なっていた。
「AIって、人間を全肯定する方向に寄りがちなんです。でも逆に、人間をちょっと小馬鹿にしてくるAIのほうが面白いんじゃないかと思いました」
そこで作ったのが、「引退してやさぐれたプーさん」だった。
「IQ200」という設定で、人間を少し皮肉りながら人生相談に乗るキャラクターだったという。
「一回、相手をちょっとけなしてから、“でもこうしたらいいんじゃない?”ってアドバイスする感じでした」
開発は順調だった。しかし、男性はふと疑問を抱く。本当に著作権は切れているのか──。
実は、プーさんをめぐっては事情が複雑で、ディズニー版アニメの著作権はいまも保護期間中だった。
●法テラスにも相談、法的リスクから断念
さらに、男性が「法テラス」に相談したところ、著作権だけでなく、著作者人格権など別の法的リスクも指摘されたという。
男性は、ディズニー版と原作版の差異を意識し、赤いTシャツではなく“ジャージ”に変更。さらに、原作にはないディズニー版特有の“もったりした喋り方”を直接再現しないよう、高齢男性風の合成音声を使うなど工夫していた。
「もし訴えられても、“これはプーさんではなく、おじいちゃんです”って言い訳できるようにしていました」
それでも最終的には、「ただの会社員がディズニーと戦うのは無理だ」と考え、公開は断念した。 現在は、個人的に楽しむ範囲にとどめているという。
