「最前列に海軍」北朝鮮軍の指揮官会合に見る、金正恩の“新たな戦争シナリオ”
北朝鮮メディア特有の誇張表現を差し引いても、今回の会合で語られたのは単なる“精神論”ではない。ロシア・ウクライナ戦争の戦訓を踏まえた、北朝鮮軍の本格的な軍制改革の予告と見るべき内容だ。
金正恩政権は近年、新型駆逐艦「崔賢」号の核戦力化や原子力潜水艦構想など、海軍近代化を異常なほど強調してきた。従来の北朝鮮海軍は沿岸防衛中心の「茶色い海軍」に過ぎなかったが、現在は核巡航ミサイルやSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を運用する「戦略海軍」への転換を目指している。
一方、今回の会合で金正恩氏は「南部の国境線を守っている第1線部隊を強化し、国境線を難攻不落の要塞につくる」とも強調した。一見すると、米韓軍と対峙するDMZ(軍事境界線)正面の陸軍強化と海軍重視は別の話に見える。だが実際には、両者は一体の戦争構想として結びついている可能性が高い。
北朝鮮軍は長年、「大量砲兵と歩兵突撃で短期決戦を狙う軍隊」だった。しかし現在、その戦法は韓米軍の圧倒的な航空優勢、ドローン監視、精密誘導兵器の発達によって現実性を失いつつある。さらに深刻な燃料不足や機械化部隊の老朽化も重なり、「大軍を南へ突進させる戦争」は困難になっている。
そこで浮上しているのが、「前線固定+後方戦略打撃」という新たな戦争シナリオだ。DMZの第1線部隊は地下化・要塞化によって韓国軍を拘束する“盾”となり、その背後から核・ミサイル・長距離砲、さらには海上戦力が戦略打撃を加える。
今回、KCNAが「全ての空間における作戦概念」と表現したのは、この変化を示唆している可能性がある。従来の陸軍中心ドクトリンから、陸・海・空・宇宙・サイバーを統合した「多領域戦」への移行だ。
(参考記事:北朝鮮、艦艇ミサイルと「データリンク戦」模索か 早期警戒機・大型無人機と連動も)
特に海軍の役割は大きい。北朝鮮は近年、韓米軍の“斬首作戦”や先制精密打撃への警戒感を強めている。そのため、核戦力を地上基地だけでなく海上へ分散配置し、「第二撃能力」を確保しようとしているとの見方がある。
今回の会合で最前列に海軍指揮官らしき白帽集団が並んだ光景は、単なる演出ではないのだろう。金正恩氏は今、北朝鮮軍を「DMZで耐える軍」と「海から核反撃する軍」に再編しようとしているようにも見える。
