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検察官から「裁判が終わったら、お酒を飲みたい気持ちはありますか」と問われると、被告人は「あります!」と間髪入れずに答えた。

法が、人の趣味嗜好そのものを禁じることはできない。仮に飲酒がトラブルの原因だったとしても「酒を飲むな」とは命じられない。

ただ、この法廷では、そのあまりにも力強い返答が、場の空気を重くした。

長野地裁は4月23日、過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱、公務執行妨害の罪に問われた30代男性の公判を開いた。検察側は拘禁刑1年6カ月を求刑し、結審した。

「過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱」という聞き慣れない罪名は、飲酒運転事故を起こした後、アルコールの影響を隠そうとする行為を処罰するものだ。

そして、この裁判では「被告人は酒とどう向き合うのか」が大きなテーマとなった。(裁判ライター・普通)

●事故、隠蔽、警察官への酒…すべてにアルコールがあった

刑務官に挟まれるようにして法廷へ入ってきた被告人は、メガネ姿で、一見すると穏やかな印象だった。だが、受け答えはハキハキとしていて、ときに刺々しさすら感じさせた。

起訴内容は3つ。

1つ目は、飲酒した状態で車を運転し、対向車線にはみ出して、路肩に避けて停車していた車両に衝突。相手に全治2週間のケガを負わせたこと。

2つ目は、事故後、警察が臨場するまでの間に「事故前に飲酒していた事実」を隠すため、車内でさらに飲酒をしたこと。

3つ目は、飲酒検知をしようとした警察官に抵抗し、ヘルメットに酒をかけるなどして職務を妨害したことだった。

被告人は、これらすべてを認めた。

●コンビニで13本購入…事故後も酒を飲み続けた

検察官の冒頭陳述などによると、被告人は個人事業主で、母と同居していた。前科はないが、交通違反歴は複数あった。

防犯カメラ映像などから、事件当日の行動もかなり詳細に明らかになった。

被告人は夕方ごろ、自宅を車で出発。まずコンビニで500mlの缶チューハイを3本購入した。その後、家電量販店に立ち寄り、さらに別のコンビニで今度は10本の缶チューハイを購入。

車内に残された缶の状況などから、この移動中だけでも少なくとも2本は缶を空けていた。

そのまま運転を続けた被告人の車は、片側1車線の道路を蛇行。後続車のドライブレコーダーには、対向車線にはみ出しながら走行する様子が残されていた。

危険を感じた対向車は、道路脇へ寄せて停車していた。それでも被告人の車はそこへ突っ込んでいった。

事故後、被害者が駆け寄り、飲酒を疑うような問いかけをすると、被告人はこう返したという。

「飲んでいない。そんなことを聞くのは失礼だ」

謝罪の言葉はなかった。

その後、被告人は、警察官が臨場するまで車内で酒を飲み続けた。その様子を確認した警察が制止しようとすると、2本目の缶を開け、最後はヘルメットに酒をかけて抵抗した。

●母親は知らなかった…部屋から見つかった大量の酒

情状証人として、同居する母親も証言台に立った。高齢で、柔らかな雰囲気の女性だった。ここ4〜5年は、親子の会話が減っていたという。

理由を問われると、母親はこう語った。

「何か言うと何倍も言い返してくる」、「理屈っぽく言ってくる」

その証言を聞く被告人は、無表情のまま。ときおり法廷の天井付近をぼんやり見つめていた。

母親は被告人が酒を飲んでいるとは知らなかったそうで、逮捕後、部屋から大量の酒が見つかり、大きなショックを受けたという。

それでも母親は、パートの合間を縫って、片道1時間以上かけて拘置先へと何度も面会に通った。再犯を防ぎたい、酒への向き合い方も変えてほしい──。そんな思いからだった。

証言の途中では、感情をあらわにする場面もあった。

「ぐちゃぐちゃ言われたら私も言います!何か投げられたら、私も投げます!」

法廷では、再犯防止策として「治療」や「監督体制」の話になることが多い。だが、この日は、母親として、どうにか息子を立て直したいという感情が表れていた。

この母の思いは、被告人に届いていたのだろうか。

●「飲酒運転がバレなければいい」

一方、被告人自身は、事件当日の記憶がほとんどないという。

家を出る際の状態についても「飲んでいないはず」と答えるにとどまり、その後に酒を飲んで運転を始めたことも、事故時にどのような運転をしていたかに関しても覚えていないと話した。

なぜ2回に分けて大量の酒を買ったのかと問われても、返ってきたのはこんな答えだった。

「月20回くらい買ってるんで、その2回を思い出せと言われても」

正直に供述しているのかもしれないが、どこか“自分のことではない”ようにも聞こえる。

事故後に酒を飲んだ理由については「飲酒運転がバレなければいい」と説明。そのうえで「(事故現場から家まで)歩いて帰れる距離だからというのもある」という趣旨の話もした。

●「治療が必要かは医者が決めることなんで」

普段から、酒は生活の中心にあった。大量購入は「安心して飲むため」。仕事中にも「余計なことを考えなくて済む」として酒に手を伸ばすことがあったという。

それでも、被告人は断酒に消極的だった。

検察官:断酒する気はないの?
被告人:1回、飲まずにやれるかはやってみます。

検察官:治療をする気はないの?
被告人:必要かどうかは医者が決めることなんで。依存症と決めつけていいものか。

検察官:やめる努力をする気はあるの?
被告人:正しく飲める努力をします。やめる努力が正しいかがわからないので。

●本当に原因は「酒」だけだったのか

裁判官は最後、被告人に静かに問いかけた。

「いろいろと分析してるような印象もありますけど、どうしたらこういう問題を起こさないかをよく考えてもらえますか?」

飲酒で判断能力が落ちたことは間違いない。

だが、飲むタイミングを選び、事故後に隠蔽し、警察官に抵抗したのは、被告人自身の性格や思考でもある──そんな趣旨の問いかけだった。

被告人は頷いていた。ただ、その言葉がどこまで届いていたのかは、最後までよくわからなかった。

最終陳述で、被告人は被害者や関係者、母親への謝罪を述べたあと、こう締めくくった。

「今回の原因は酒が一番大きいと思うが、生活態度を改めて今後生きていきたい」