【町岡 マチ子】成婚数「200組超」とはいうけれど…東京都が税金7億円を投入する「婚活事業」に都民から疑問の声

写真拡大 (全7枚)

今や4人に一人がマッチングアプリで出会い、結婚する時代。そこで行政が主導となった「マッチングサービス」も増加している。しかし、それで使われる何億もの予算は税金だ。民間のサービスは充実しているなか、そこまでして婚活に力を注ぐ必要はあるのか――。マッチングアプリ活動家の町岡マチ子が斬り込む。

婚活を応援する7億円の予算

少子化対策として全国の自治体が競うように取り組みを強化するなか、東京都の婚活支援事業『TOKYO 八結び』(令和8年度のキャンペーン名)が注目を集めている。都内の婚姻数は2年連続で増加しており(2024年:前年比5.9%増、2025年:同4.8%増)、都はこの流れをさらに加速させるべく、令和8年度予算に7億円(前年度比4億円増)を計上した。

この規模の予算を、行政が婚活支援に投じることは妥当なのか。事業の設計は、本当に利用者の結婚を後押しするものになっているのか。

元葛飾区議員で、ゆうこく連合幹事の門脇翔平氏は、これまでもこの政策について問題提起してきた。実は門脇氏自身も自ら国内最大手の結婚相談所で100人以上の女性と面会、「真剣交際後」は3ヶ月というスピードで成婚を果たした経験を持つ“婚活経験者”の一人なのだ。そこで門脇氏に話を聞くとともに、東京都への質問状に対する公式回答を示しながら、その実態を検証していきたい。

目標は婚活をしていない人を半減させること

東京都が運営するAIマッチングシステム「TOKYO縁結び」は、独身証明書の提出を必須とし、安全性を担保した婚活プラットフォームとして設計されている。2026年4月20日時点の実績は、申込数が約3万4000人、真剣交際が660組、成婚が208組。さらに今年度からは独身証明書のオンライン取得にも対応し、交流イベントの規模も前年度の1250人から2500人規模へと拡大する方針だ。

この事業の目標設定について都はこう回答している。

「結婚支援事業は、利用者の拡大を目的とするものではなく、婚活の具体的な行動をとっていない方の割合(令和3年:69.3%)を令和17(2035)年までに半減させることを政策目標としている」

さらに申込数と本登録数の乖離を問う質問に対しては、「申し込むことは、活動への一歩を踏み出した結果であり、成果として捉えている」と回答している。

「一歩を踏み出す後押し」という位置づけは一見謙虚だが、申込数3万4000人に対して成婚208組という数字を前にしたとき、その論理だけで7億円の予算規模を正当化できるのか、という疑問は残る。

成果を語るうえで避けられないのが、「成婚」という言葉の定義だ。

実質的に出会える母数は減る…!

結婚相談所業界では、「成婚」の定義は各社によって異なる。プロポーズ=成婚とするケースもあれば、入籍まで確認するケースもある。業界最大手クラスの相談所でも、成婚率は一般に10〜15%程度とされる水準だ。

門脇氏が語る。

「申込者3万4000人のうちの208組と見れば0.6%程度。しかし真剣交際660組を分母にすれば%を約31.5%を超える。どこを切り取るかで印象はまったく変わります。都の回答を読んでも、『成婚』の定義が明示されていません」

都は、成婚の定義や確認方法については触れていない。数字の透明性という観点では、都が自ら定義を開示することが最低限必要ではないだろうか。

また、構造的な課題として門脇氏が繰り返し強調するのが、登録者の「母数」と婚活における伴走機能の問題だ。

「私が登録した相談所は、登録者数5万人以上といわれる規模でした。年齢や職業などの条件を絞っても候補が残る。

「これが婚活の成否を左右する母数の力です。都の事業は申込数こそ3万4000人ですが、東京都の人数が多すぎることが寧ろ疑問です。そのうち実際にアクティブに動いている会員数が見えない。休眠会員が増えれば、実質的に出会える母数はさらに絞られます」(同前)

都の事業は婚活の伴走型ではない

マッチングアプリが共通して抱える「休眠会員問題」は、行政運営の事業では特に深刻になりやすい。民間サービスであれば有料課金の継続が活動のインセンティブになるが、都の事業は1万1000円の初期登録料のみで2年間有効という設計だ。登録したまま動かない会員が増えても、それを是正する仕組みが現状の設計から見えてこない。

加えて問題なのが、婚活における「エージェント機能」が不十分であることだ。

「婚活は就職活動と同じで、自分の市場価値を客観的に把握し、戦略的に動かなければ成果が出ません。プロのエージェントは、プロフィール写真の選び方からメッセージの文体、告白のタイミングまで、耳の痛いアドバイスをしてくれる。その伴走機能があって初めて、短期で成婚につながると思います。都のマッチングシステムにもその機能はありますが、どの程度、懇切丁寧に手ほどきしてくれるかはわかりません」(同前)

さらに都の予算の内訳を確認すると、令和8年度の7億円は気運醸成イベント4回(1億円)、民間連携婚活交流イベント5回(0.5億円)、東京ポイント活用や広報施策(2億円)、AIマッチングシステム運営・イベント拡充(2億円)、戦略的広報(0.9億円)に配分されている。委託構造について、都は次のように説明した。

「都の結婚支援マッチング事業の受託事業者が、マッチングシステムの実施事業者を公募し、審査・選定をしており、マッチングシステムの専門的な知識と技術を有する事業者を選定している」

つまり都から受託事業者、そこからシステム会社へ、という二重委託の構造だ。

高知県は2万円を上限に助成

既存の民間プラットフォームを活用せず新たにシステムを構築した理由については、「先行する他自治体における活用事例や自治体のシステムの実施事業者による運用状況を参考にした」という回答にとどまっており、なぜその設計でなければならなかったのかの説明は十分ではない。

「行政にしかできないのは、独身証明の認証代行や信頼担保の部分です。マッチングそのものは民間の実績あるシステムに委ねるという選択肢もあったはずで、その議論がどこまでされたのかは問い直す価値があります」(門脇氏)

実際、他の自治体では異なるアプローチを取っているところもある。高知県は民間マッチングアプリの利用料を年2万円を上限に助成する制度を開始しており、宮崎県も2025年度から同様の利用助成を年1万円の上限で実施している。なぜ東京都はこの方向ではなく、独自プラットフォーム構築を選んだのか。都の回答からは、その判断の根拠が見えてこない。

批判的な論点が続いたが、門脇氏はこの事業の存在意義そのものを否定しているわけではない。

「婚活市場にはロマンス詐欺や投資詐欺、身体目的の既婚者の混入といった深刻なリスクがあります。独身証明書を必須とし、行政が運営主体に立つことで、そうしたリスクを構造的に排除できる。民間アプリでは対応しきれていない部分を、行政の信頼が補完する意義は確かにあります」(同前)

東京都の婚活事業は長期的な目線でみる

都も同様の認識を示している。ただし、「トラブルが報告されていない」=「トラブルが起きていない」ことの証明にはならない。軽微なトラブルの把握体制や、問題が明らかになった時のペナルティルールの明確さについて、都の回答からは具体像が見えてこなかった。

「独身証明書だけでは弱いと思っています。登録者の稼働率管理、性的接触に関するペナルティルール、金銭トラブル時の対応フロー……こうしたルールの明確化が、安心の実質を担保するはずです」(同前)

申込数3万4000人という数字は、結婚を望みながら動けずにいた都民が確かに存在することを示している。また、門脇氏は、この事業を長期的な税収投資として捉える。

「この事業でマッチングした夫婦が東京都内に住み続ければ、住民税という形で税収が戻ってくる。仮に年間20万円の住民税として、夫婦で40万円。それが100組なら年間1600万円。マッチング数が増えれば、将来的に予算の回収を見込める事業という考え方もできます」

ただしその論理が成立するには、マッチング数そのものが増えなければならない。問題は、その一歩の先にある設計だ。「婚活行動をとっていない人を半減させる」という目標は、言い換えれば成婚そのものへのコミットを避けた指標設定でもある。

委託構造の詳細、成婚定義の透明化、稼働会員数の実態--これらは引き続き検証が必要な課題として残る。

関連記事『東京都の「マッチングアプリ」サービス開始から約2年…多額の税金を投入しても「成婚」が増えない「納得の理由」』をさらに読む

【関連記事を読む】東京都の「マッチングアプリ」サービス開始から約2年…多額の税金を投入しても「成婚」が増えない「納得の理由」