あおり運転に腹を立てて相手を出刃包丁で…「やられたらやり返す」子供じみた“暴力の連鎖”

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あおり返して相手を刺した

あおり運転に腹が立った」

事故を起こした相手の男性の顔を刺して殺そうとした男は、取り調べでそう語ったという。

4月29日の夜、千葉県野田署は職業・住所不詳の井上純一容疑者(44)を殺人容疑で現行犯逮捕した。

「29日の夜8時半ごろ、野田市の国道16号で3台の車が絡む玉突き事故が発生しました。井上容疑者の運転する軽貨物車が前方の軽乗用車に追突。はずみで軽乗用車が前方の車に追突したのです。事故そのものはたいしたことはなかったようです。

しかし、軽乗用車を運転していた50代の男性が車から降りようとしたところ、井上容疑者がいきなり出刃包丁のような刃物で男性の頬を刺したのです。男性が井上容疑者を路上に押し倒して知人女性ら3人で取り押さえたそうです。右頬を刺された男性は全治2週間のケガをしました。

井上容疑者は取り調べに対し『殺すつもりはなかった』と、容疑を一部否認しています。事故については『あおり運転をされて腹が立ったので、後ろからあおり返したところ、追突してしまった』と供述しているようです」(全国紙社会部記者)

5月1日の朝8時すぎ、雨が降りしきる野田署から井上容疑者が姿を現した。警官に傘を差しかけられた井上容疑者はボサボサの長い前髪の隙間から、一瞬チラリとこちらを見ただけで、真っすぐに前を向いて歩いていた。

あおり運転をされたと腹を立て、相手をあおり返して追突事故を起こしただけでなく、刃物で襲いかかった井上容疑者。「あおられた」というのはあくまで井上容疑者の主張であり、実際に被害者がそういう行為をしていたかどうかは不明だ。だが、そこまで逆上するほどのことだったのだろうか。

あおり運転は’20年6月に道路交通法の改正により、「妨害運転罪」として取り締まられている。きっかけは‘10年代後半にあおり運転がもととなった事件・事故が次々と社会問題になったからだ。とくに社会に大きな衝撃を与えたのは’17年6月に神奈川県大井町で発生した『東名高速夫婦死亡事故』だろう。

建設作業員の男(当時26)が、パーキングエリアで所定のエリア以外の場所に駐車していたことを自営業の男性(当時45)に注意されて腹を立て、男性夫婦と娘2人が乗ったワゴン車を追いかけたのだ。男の車はワゴン車の前に割り込んで急減速するなどの運転妨害を繰り返し、あげく、車を停止させて男性に暴行を加えた。男が立ち去ろうとしたときにワゴン車に大型トレーラーが突っ込み、男性夫婦が死亡、娘2人と男本人も重軽傷を負う惨事となったのだ。

「危険運転」の適用は難しかった

その後、加害者の男は危険運転致死傷罪で起訴された。確かに男は被害者の車を路上に停止させ、その結果事故につながったが、実際に事故を起こしたのは第三者の車だ。当初から危険運転致死の適用は困難視されており、神奈川県警は一度断念していた。

裁判は男の行為が「危険運転」に当たるかが争点となった。結果的に、停車中の事故には危険運転致死傷罪が認められなかったが、進路妨害などの走行中の行為には危険運転致死傷罪が認められた。裁判は差し戻し審などを経て、’26年1月に男に懲役18年の判決が確定している。

他にも、’19年8月に茨城県守谷市で起きた『常磐道あおり運転事件』も話題になった。会社役員の男(当時44)があおり運転で被害男性の車を高速道路上で停止させ暴行、全治1週間のケガを負わせたのだ。

被害男性の車のドライブレコーダーには暴行の一部始終が映っていた。会社役員の男が肩をいからせながら迫ってくる様子や、男の車に同乗していた女も降りてきて、暴行を止めるでもなくガラケーで被害男性をずっと撮っている姿がテレビで流され、大きな反響を呼んだ。テレビで車や姿が公開されたことで、次々に余罪が発覚。男は強要罪と傷害罪で起訴され、懲役2年6ヵ月、保護観察付き執行猶予4年の判決を受けている。

このような悪質な「あおり運転」への規制として設けられた「運転妨害罪」は、車間距離を極端につめる「車間距離不保持」だけでなく、急な進路変更、急ブレーキなど10の行為を「妨害運転」として取り締まるとしている。違反すると「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」。また、高速道路上の停車など「著しい危険を生じさせた場合」は「5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」となる。どちらの場合も一発で免許取り消しだ。

では、’20年以降あおり運転は減ったのだろうか。

「実際に妨害運転罪が適用されたケースは’20年〜’23年の間は年間ほぼ100件前後で推移しており、’24年以降の細かい統計は出ていません。ただ、高速道路における車間距離不保持での検挙に限っていえば、あおり運転社会問題化した’19年には1万3797件でしたが、’20年以降は減少し、‘24年は4713件にとどまっています。この数字だけを見れば、減ったといえるでしょう。

しかし、昨年6月にチューリッヒ保険が公表した調査では、過去5年以内にあおり運転をされた経験があると回答した人が34.5%いました。減ってはいるけど完全にはなくなっていないという状況です」(交通ジャーナリスト)

あおり運転を巡る事故や事件は「やられたからやり返した」という子供じみた動機が多い。それは、自分の身体より大きい車で人間には出せないスピードを出すことで、ある種の全能感を得てしまうからだという説がある。だが、井上容疑者のように、やり返すだけでなく刃物まで持ち出すのは言語道断だろう。

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