(※画像はイメージです/PIXTA)

写真拡大

太宰治の『斜陽』は没落する華族を描いた名作ですが、本記事で紹介するのは、まさに“令和の斜陽”とも呼べる男性の転落劇です。祖父から受け継いだ5億円の資産を背景に、高級ベンツに乗り「俺は富裕層だぞ!」と豪遊していたIさん(仮名・70歳)。彼はなぜ、最終的に借金5億円を抱え、姿を消すことになったのでしょうか。業者のカモにされて没落する人間の心理と、“真の富裕層”に共通するマインドを、FPの大泉稔氏が事例を交えて解説します。

「俺は富裕層だぞ!」遺産5億円を継いだ70歳男性の豪遊

Iさんの祖父は戦後、東京のS区で個人商店を起業し、従業員を20人雇うまでに至りました。その後、再開発に伴い店はなくなったものの、補償金でA区に賃貸マンションを建て、大家さんとして成功を収めます。

Iさんの祖父が遺した総資産は十数億円にのぼりました。多額の相続税を納めるために一部の不動産を手放したものの、それでも、無借金で「5億円」もの資産があったのです。時は流れ、その資産を預かる当主はIさん(70歳・男性)になりました。

「俺は富裕層だぞ!」

それがIさんの口癖でした。愛車は左ハンドルのベンツ。助手席には美人な女性が座ることも珍しくありません。しかし、女性の顔は毎回、異なります。Iさんの趣味は高級クラブで、月に12回は通い詰める生活。助手席の女性はクラブのホステスだったのです。

口癖に違わぬ豪遊ぶりですが、Iさんは一体どのような仕事をしているのでしょうか。

空室だらけのマンションにホステスを無料招待…そして「夜間託児所」の開業

Iさんも祖父の代から続く大家さんでした。しかし、入居希望者が殺到した祖父のときとは違い、Iさんの賃貸マンションの入居率は45%ほど。老朽化した祖父の代の賃貸マンションは、外装も内装もリニューアルしていたのにもかかわらずです。

「夜の世界で働く女性には、事情を抱えた可哀想なやつが多いんだよ」

これもIさんの口癖でした。Iさんの賃貸マンションの入居者のうち、実に4分の1ほどが、店先で声を掛けてきたホステスたちでした。しかも家賃は無償、あるいは著しく安い金額で貸し出していたのです。

あるときIさんは突然「夜間に特化した託児所を作りたい」といい始めました。シングルマザーのホステスの願いに応えるためだったのです。

「これは俺の功徳であり、立派な社会貢献でもあるんだぞ!」と胸を張っていました。

資産5億円→“借金”5億円へ…ホステスも去った「裸の王様」の末路

しかし、いざ開業した託児所は、開店から半年経っても利用者は十数人ほど。それも従業員が連れてきた人ばかりで、肝心のホステスの女性の利用はゼロでした。

実は、Iさんの失敗は託児所だけではありません。過去にも「ホステスのため」と喫茶店やトリミングサロンなどを起業しては、ことごとく失敗を繰り返していたのです。さらに、空室を埋めるための莫大な広告費や度重なるリフォーム代、複数台の高級車のローン、そしてホステスへの高額な贈り物など、湯水のように金を使っていました。

このときのIさんが所有する不動産の時価は3,000万円にまで下がり、逆に借金は約5億円に膨れ上がってしまいました。資金繰りが完全にショートし、銀行からの督促が相次ぐようになると、事態は急転直下。

あれほどちやほやしてくれていたホステスたちも、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、一人、また一人とマンションから去っていきました。

見栄を張る相手も、守るべきプライドも失ったIさん。祖父が遺した5億円を食いつぶした末に借金5億円を残したまま、ある日を境にぷっつりと姿を消してしまいました。

現在、Iさんの行方を知る者は誰もいません。

【FP解説】「俺は騙されない」と豪語する男性が“格好の餌食”にされたワケ

祖父の代から続く5億円もの資産が、なぜIさんの代であっけなく終わりを告げてしまったのでしょうか。

転落へのマイルストーンはいくつもありました。たとえば、賃貸マンションのリニューアル工事や入居者の募集、複数の託児所や店舗の開業など。Iさんは、その都度、業者やコンサルタントの話に耳を傾ければよかったのですが、自身の思いを一方的に何時間も話し続けるばかりだったのです。

「俺は銀行や不動産屋、保険屋の口車には絶対に乗らないし、騙されないからな!」と、Iさんは常々豪語していました。

もちろん、業者の話を「鵜呑みにせよ」というのではありません。聞いたうえで、参考にできるところは学び、断るところはキッパリと断り、場合によっては代案を提案してもらえばよかったのです。

資産を減らし続けていたとはいえ、金払いのよいIさんは結局、銀行や不動産会社、工務店、保険代理店のカモになっていたのです。綺麗な女性をいつも隣に侍らせ、見栄を張っていたからというのもあったかもしれません。

真の富裕層と「没落する人」の決定的な違い

富裕層と思しき方にお目に掛かると、全員が全員、最初から金融リテラシーが高い方ばかりではありません。しかし、彼らには共通する特徴があります。それは恐ろしいくらい「聞き上手」であることです。

人の話にじっくりと耳目を傾け、ズバリ的を射た質問をしてきます。こちらが隠しておこうと思ったことも、巧みなヒアリングによってつい話してしまいます。

人の話を聞くことで、正確な情報が集まります。集まった情報のなかから的確に取捨選択を行い、リスクを排除していくからこそ、結果として富が集まり「真の富裕層」へと昇り詰めていくのでしょう。

Iさんのように「自分は騙されない」と一方的に語るだけの人間は、自ら正しい情報を遠ざけ、裸の王様になってしまうのです。

大泉 稔

1級ファイナンシャルプランナー