謎の初期宇宙天体を解き明かす手がかり? チャンドラ宇宙望遠鏡が観測した「X線ドット」
マックス・プランク天文学研究所のRaphael Hvidingさんを筆頭とする研究チームは、初期宇宙で次々と見つかっている「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot: LRD)」と呼ばれる天体の正体を解き明かす上で、極めて重要な手がかりとなる天体を発見したとする研究成果を発表しました。
この天体は研究チームによって「X線ドット(X-ray Dot: XRD)」と名付けられており、初期宇宙のブラックホールの成長過程を理解する鍵として注目されています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されています。

リトル・レッド・ドットとは
リトル・レッド・ドットは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による科学観測が始まった2022年以降、地球から約120億光年以上離れた遠方宇宙で幾つも発見されるようになった天体です。
ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCam(近赤外線カメラ)が捉える赤外線の波長域でも波長が長い(可視光線を捉える私たちの目になぞらえて表現すれば“赤い”)ことと、コンパクトな天体であることから、リトル・レッド・ドットと呼ばれるようになりました。
NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、リトル・レッド・ドットの正体については高密度のガス雲に深く埋もれた、成長している超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)だとする仮説が有力視されています。その光の特徴が恒星の大気と似ている可能性があることから、この仮説は「ブラックホール・スター」シナリオとも呼ばれています。
チャンドラのデータから見つかった“X線ドット”
通常、成長中のブラックホールではその周囲に形成される降着円盤から強力なX線が放射されますが、これまでリトル・レッド・ドットからはX線が検出されていませんでした。その理由は、ブラックホールの周辺にあるX線を放射する領域が、分厚いガスに遮られているためだと考えられてきました。
こうした中で、NASAのチャンドラX線宇宙望遠鏡が過去に取得した観測データとウェッブ宇宙望遠鏡の新たなデータを比較した研究チームは、地球から約118億光年離れた「3DHST-AEGIS-12014」と呼ばれる天体を発見しました。典型的なリトル・レッド・ドットの特徴を持ちつつも明確にX線を放射していたことから、研究チームはこの天体を「X線ドット」と呼んでいます。

超大質量ブラックホールへ移行する途中の段階?
研究チームはX線ドットについて、リトル・レッド・ドットから通常の超大質量ブラックホールへと進化する「移行期」にあたる天体ではないかと推測しています。
論文によれば、成長するブラックホールが周囲のガスを取り込み続けることで、ガス雲にはまだらな穴が生じるようになり、隙間を通してブラックホール周辺からのX線が外部へ漏れ出すようになります。チャンドラが捉えたのは、こうして漏れ出たX線ではないかというのです。
チャンドラの観測データには、X線輝度が時間経過とともに変動していることを示唆する兆候もみられるといいます。場所によって密度が異なるガス雲が回転しているとすれば、漏れ出てくるX線の輝度が変化することも考えられます。
また、X線ドットを説明できる別のシナリオとして、論文では未知の特殊な塵(ダスト)に覆われた一般的なブラックホールだとする仮説も検証されました。しかし、標準的な塵のモデルで観測結果を説明するには極端な物理的条件が必要となるため、ガス雲が晴れつつある移行期の可能性のほうが高いと結論付けられています。

ブラックホールの成長の謎を解く鍵に
研究に参加したプリンストン大学のHanpu Liuさんは、もしもX線ドットが移行期のリトル・レッド・ドットだと確認されれば、少なくとも一部のリトル・レッド・ドットの中心には成長中の超大質量ブラックホールが存在することを示す、これまでで最も強力な証拠になると述べています。
今後の観測によって「移行期モデル」が裏付けられれば、初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成・成長という大きな謎の解明に向けた、重要な一歩となることが期待されます。
編注:記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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