中国社会崩壊論(前編)若者たちが社会保険に入らない切実な理由、高まる失業率と生活コスト
YouTubeを開けば、毎日のように「中国崩壊」「ついに終わった」といった刺激的なサムネイルが目に飛び込んでくるが、これらの動画には決まった筋書きが存在する。
・不動産バブルの崩壊を起点とした経済破綻
・閉塞感によって発生する抗議デモを起点とした体制崩壊
・権力の一極集中により、かつての文化大革命のような騒乱が発生
これらは視聴者の不安や期待を刺激するエンターテインメントとしての側面が強いが、それぞれの断片には確かに現在の中国が抱える深刻な課題が反映されているのも事実である。
しかし、実際のところ筆者の見る限り中国社会は安定しており、すぐさま社会が混乱、崩壊するといった状況にはない。
それでは、実際に中国が抱える崩壊のリスクとは何か。
現時点で筆者が考える、最も高い可能性は
・非婚化と少子高齢化の進行
・同時に社会保険料の未加入増加
・制度破綻の結果、更なる少子高齢化の進行
という「福祉国家への転換の失敗による、負のスパイラルの進行」である。このシナリオでは、中国は突然に破裂するわけではなく、静かに進む財政圧迫によって、社会不安が連鎖的に現れる可能性が高いと考える。
今の中国の社会保障は一体どんな状況なのか。今回から前後編に分け、社会保険制度に入らない若者たちの姿を紹介する。
フリーランスや配達員が約3億人に
中国でも日本と同じような社会保険制度(社保)があり、老後や失業、疾病に備える制度とされている。しかし最新の調査によれば、18-35歳の若者のうち約28.7%が社会保険に加入していない。
この数字は2023年の数字から6.3%増加している。そして、特にネットタクシーなどのフリーランスの「非正規就業層」での加入率が深刻な実態となっていることが指摘されている。
各調査によって数字は異なるが「若者を中心に社会保険を忌避する動きが広がっている」というのは中国社会において共通認識となっているのだ。
なぜ若者は社会保険から逃げ出すのか。それには複数の理由があると言われている。
最初に取り上げるのは若者の高失業率と生活コストの重圧だ。中国では2022年以降、不動産バブルの崩壊を発端にした金融危機とデフレが相まって、高い失業率のトレンドが続いている。
若年層(16~24歳)の失業率は大学卒業生の数と共に増加傾向である。
そして、2038年のピーク時には新卒者が1786万人にまで膨れ上がると予測されているが、今の失業率の増加傾向が続けば、社会に出た瞬間に行き場のない若者が溢れかえることになるのだ。
こうした中で増えているのがフリーランスや配達員である。現在の中国では、こうした職業に就く人が合わせて約3億人になっており、多くの若者の仕事の受け皿となっている。
これらの職業に従事する人の社会保険への加入状況の具体的な数値はないものの、関連する調査では概ね30~50%前後という低い水準にとどまっている、とされる。
その理由としては、まず生活コストに対する収入が低い、という問題がある。
フリーランスや宅配・デリバリー業という職業の性質上、こうした仕事を選択する人は都市で働くことが多い。しかし都市は家賃や通勤費、食費などの生活コストが高い。
そしてフリーランスの社会保険料は個人の全額負担となるため、このような状況下での社会保険料の負担は高い生活費に追われるなかでは「現実的に払えない」という構造的問題が発生するのだ。
また、職業ならではの事情もある。いつでも始められ、いつでも辞められるフリーランスの仕事は、逆に言えばいつまで続けるかわからないし、明日には別の場所へ行くかもしれない、という状況が常に発生する。したがって、不安定な労働環境では安定して社会保険料を払う必要性を感じにくい、とも言える。
また、制度に対する信頼の低さもある。つまり、社会保険料を払う必要性がよく分からないし、そこから何が得られるのかも確信が持てない。将来のことよりも、手元の現金を確保することを優先したいという発想だ。
なぜ社会保険に対する不信が生まれるのか。次回は中国の社会保障の実態を紹介する。一般的な「中国崩壊論」のような派手さはないが、より生々しい実態が見えてくるはずだ。
文/下川英馬 内外タイムス
