脳内のイメージは現実とどう結びつくか。心療内科医の鈴木裕介さんは「アメリカのある研究で、イメージトレーニングを行った参加者は、何も行わなかった参加者と比較して、大腿四頭筋の筋力が平均12.6%増加したことが確認された。脳は実際に起こっている出来事と、脳内でイメージすることをかなり同じように処理する」という――。

※本稿は、鈴木裕介『頭の中のひとりごとを消す方法』(池田書店)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/FXQuadro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FXQuadro

■脳にはイメージ操作が効果的

反すうのメカニズムについて、脳神経科学の面からも見ていきましょう。

脳は実際に起こっている出来事と、その出来事を脳内でイメージすることをかなり同じように処理する傾向があると、脳神経科学の研究によって明らかにされています。

たとえば、何かしらの絵や文字を実際に見せているときと、それと同じものを脳内でイメージしているときに活動する脳の領域は、かなり共通していたのです。

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた研究では、実際にものを見たときと、それを頭の中で思い浮かべたときとで、どちらも同じ後頭葉の視覚野が活動していることがわかりました(※1)。

こうした脳の持つ特性が、反すうと深く関係すると考えられています。

たとえば、過去に大勢の前で恥ずかしい思いをした経験がある人が、その場面を何度も思い出しているとします。

脳はそのイメージを現実の出来事と区別せず、まるで実際にそのときとまったく同じ場面にいるかのように感じます。

すると、実際には安全な状況にいるにもかかわらず、心拍数が上がったり、胸がざわざわしたり、あるいはぐったりするなどの身体的なストレス反応が生じてしまうのです。

脳にとってネガティブな記憶を繰り返し思い出すことは、その出来事を今、実際に体験しているのとほとんど同じ状態であることを意味し、まるで現在進行形のストレスのように影響を及ぼしているのです。

※1 Ganis G, Thompson WL, Kosslyn SM. Brain areas underlying visual mental imagery and visual perception: an fMRI study. Brain Res Cogn bi-rain Res. 2004 Jul;20(2):226-41. doi:10.1016/ j .cogbrainres.2004.02.012. PMID: 15183394.

■「筋トレをするイメージ」だけで効果あり

もう1つ、この脳のしくみに関連したおもしろい研究を紹介します。

アメリカのルイジアナ州立大学医学センターで行われた研究で、イメージトレーニングが大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の筋力増強に及ぼす効果を検証したものです(※2)。

研究の参加者は、筋肉が収縮しているのを頭の中でイメージするだけのトレーニングをしたグループと、まったく何もしないグループに分けられました。

イメージトレーニンググループの参加者は、30分間にわたり大腿四頭筋の収縮を頭の中だけで具体的に思い描くように指示され、これを4日間継続しました。

その結果、イメージトレーニングを行った参加者は、何も行わなかった参加者と比較して、大腿四頭筋の筋力が平均12.6%増加したことが確認されたのです(イメージトレーニンググループの参加者の筋肉が収縮していないことは、筋電図でしっかりと確認されていました)。

イメージトレーニングのみで、実際に筋収縮させていないにもかかわらず、脳神経系が刺激され、実際の筋力アップにつながったというわけです。

具体的には、脳内で運動イメージを繰り返すことで、脳内の運動制御ネットワークが活性化され、実際の筋収縮を制御する神経プログラムが強化されたのではないかと考えられています。

この脳のメカニズムの観点からいえば、反すうは今ここで起こっていない過去のネガティブな映像や言葉を、イメージ上のスクリーンで再上映しているようなものだといえます。

それならば、拡張版コンテイナーテクニックのようにネガティブな言葉や映像を「遠ざけるイメージ」や「壁をつくって負の刺激からしっかりと保護されているイメージ」を持ったりすること(イメージ操作)が有効である、といえます。

『頭の中のひとりごとを消す方法』より

■脳のメモリを使うと、反すうしにくくなる

もう1つ、反すうが生じるメカニズムについて、脳のしくみから見ていきたいと思います。

反すうは、脳のメモリに余裕があるときに起こりやすいことが知られています。

「何もやることがないと、よからぬことを考えてしまう」という人は少なくありません。

なぜ、そうなってしまうのでしょうか。それをひもとくカギがワーキングメモリという脳のしくみにあります(※3)。

ワーキングメモリとは、短期的に情報を保持しながら、何かしらの作業を行う能力のことです。私たちは日常生活でワーキングメモリを頻繁に使いながら、仕事や日常生活におけるちょっと複雑な思考や決断をしています。

「脳のキャパシティ」みたいなものとイメージしてください。

たとえば、店に電話をかけて予約をとるために、ウェブサイトなどで「03-XXXX-XXXX」という番号を見て、ちょっとの間だけ覚えておいて、スマホに入力するとします。

これは短時間の記憶保持(数秒〜数十秒)を必要とする作業です。

また、買いものをするときも、「今日はカレーにしよう。だから、牛肉、にんじん、じゃがいも、玉ねぎを買おう」などといったように、とくにリストも見ずに買いものをすることができます。

これは短期間の情報保持に加え、「どの順番で買うか」などの処理も含まれています。

これも、ワーキングメモリによる作業です。

もっと頻繁に行われているものでいえば、人との会話です。

相手の会話の内容をちょっとの間だけ覚えておいて、それに関連した話題を返すことができるのはワーキングメモリによるものです。

※2 Effect of Mental Practice on Isometric Muscular Strength Mark W.Cornwall, Melinda P. Bruscato, and Sally Barry Journal of Orthopaedic& Sports Physical Therapy 1991 13:5, 231-234.
※3 Baddeley, A. D., & Hitch, G. J. (1974). Working Memory. In G. A. Bower(Ed.), Recent Advances in Learning and Motivation (Vol. 8, pp. 47-89).New York: Academic Press.

■反すうに使われるリソースを減らす

ほかにも計算やパズルなど、集中力が求められることに取り組んでいるときは、それに対処するためにワーキングメモリが使われます。

鈴木裕介『頭の中のひとりごとを消す方法』(池田書店)

そうすると、反すうに使われるリソースが少なくなり、自然に反すうが減るのです。

逆に、とくに意識を向けるべき作業がなく、脳のリソースが余っているときは、過去の出来事や未解決の問題について考えがめぐりやすくなり、反すうが起こりやすくなります(※4)。

ちょっとした片づけをする、領収書の整理をするといった「軽い作業」はまさにこのワーキングメモリを使わせて、反すうが生じる余地を減らすためのものです。

心身が疲弊するほど重たい作業をする必要はありません。

「あっ、時間が余って、何か悪いことを考えてしまいそう」
「あっ、反すうし始めちゃっている」

と思ったら、何か無心で取り組める軽い作業をやってみてください。

※4 Philippot, P., & Brutoux, F. (2008). Inducing rumination versus distraction: The differential effects of two cognitive processing styles on depression. Behaviour Research and Therapy, 46(3), 224-232.

----------
鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。
----------

(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)