2026冬季五輪開催国・イタリアで唯一「生の魚介」を食べる地域とは?イイダコや牡蠣、二枚貝までそのまま食べられる理由
2026年2月6日から22日まで、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックが開催されています。開催国であるイタリアは、食をテーマに掲げた万国博覧会が開催されるなど、地域に根ざした食材や伝統の料理法が受け継がれた<食の多様性>が魅力の一つです。そこで今回は、龍谷大学政策学部・大石尚子教授の著書『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』から一部を抜粋し、その魅力に迫ります。
【写真】海に切り立つ断崖・絶壁が絶景の観光地、ポリニャーノ・ア・マーレ
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バラエティに富んだプーリアの野菜
プーリアは、独特の野菜が多く、バラエティに富む。パスタとの相性も抜群に良い。メイン料理としても野菜が登場する。
代表的な料理は、ファーべ・エ・チコリエ(Fave e Cicorie)である。チコリという苦味のある菜っ葉をくたくたに茹でてオリーブオイルで和え、そら豆のピューレを添える。プーリア人は、これを食べないと帰郷した気がしないという。
野菜のパスタ料理に、オレッキエッテ・コン・チーマ・ディ・ラパがある。チーマ・ディ・ラパは、直訳すると「カブの頭」という意味だが、菜の花に似ている。オレッキエッティとニンニク、オリーブオイル、チーズを和えた単純なパスタだが、この一皿にプーリアの全部が詰まっている。
ただ、こうした郷土料理も、チコリエやチーマ・ディ・ラパの収穫時期でなければ、食べようと思って訪れても食べられない。旬でない時の野菜は美味しくないからと言って、店側が出さないのである。客もオーダーしない。イタリアの食文化として、旬を味わうことが根づいているのだ。
イタリア人が野菜選びで大切にすること
イタリア人が野菜選びで大切にするのは、旬に加えて産地である。同じ種類の野菜でも、産地によって味も形も違う。特に歴史的にも評判のものは、産地名がそのまま野菜の名前になっている。

『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(著:大石尚子/中央公論新社)
例えば、アックア・ビーバという紫玉ねぎは、アックアビーバ・デッレ・フォンティというコムーネ(自治体)で栽培されており、アックア(水)・フォンテ(泉)の名の如く、瑞々しく甘いのが特徴である。大きいものはラグビーボールほどの大きさのものもある。7月頃に収穫されるが、暑くなる時期にアックア・ビーバのスライスサラダを食べると体が喜んでいるように感じる。

アックア・ビーバ(写真:『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』より)
このほか、色とりどりのカラー人参、ポリニャーノ・ア・マーレは、スローフードのプレシディア(※小規模生産者による食品の生産技術を安定させ、伝統的な食物の発展を保証する取り組み)に認定されている。

色とりどりのカラー人参、ポリニャーノ・ア・マーレ(写真:『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』より)
黄色、紫、赤、白と鮮やかな色を楽しめる。とても軟らかく、味が濃く、えぐみがない。生でポリポリと食べる。細長く軟らかいため、収穫に手間がかかる。ちょっと気を抜くと真ん中からポキッと折れてしまう。ポリニャーノ・ア・マーレは海に切り立つ断崖・絶壁が絶景の観光地でもある。
トマトの女王
プーリアにはこのほか、スローフードのプレシディアに認定されている食材も多い。
トッレ・カーネのレジーナ・ディ・ポモドーロ(トマトの女王の意味)は、冬でもフレッシュに食べられる小ぶりのトマトである。
海の近くで栽培されるため、塩分を含んだ土壌に育ち、それが水分を閉じ込める硬い皮をつくる。この小ぶりのトマトは、綿紐でヘタを結わえて一房の葡萄のようにして台所に吊るしておく。すると表面が腐敗することなく、冬まで保存できる。マンマは、台所に立ってパスタソースをつくる際、頭上からこのトマトをもぎとってそのままフライパンに入れる。古代から伝わる工夫である。
レジーナ・ディ・ポモドーロがスローフードのプレシディアを名乗るためには、トマトと同じ畑で紐になる綿花も栽培しなければならない。昔、トマトを結わえた綿糸の原料を、同じ畑で栽培したという歴史を伝承していくためである。
日本人より生魚介を食べる唯一の地域
魚介類も豊かである。イタリアでも唯一プーリアだけだが、魚介を生で食べる。シチリアやナポリでも魚介をたくさん食べるが、火を通さずに食べるのは、せいぜいマグロか鯛まで。それもカルパチョのように塩や酢などでしめる。
しかし、プーリアでは、イイダコや小さなイカもその姿のまま丸ごと生で食べる。牡蠣やウニはもちろん、ムール貝やあさり、蛤などの二枚貝も、レモンをかけてそのまま食べる。このほか、黒トリュフのような形状で中身はウニのような貝など、見たこともない海の幸にも出合うが、どれも生食する。それは、アドリア海は地中海よりも海水の塩分濃度が高く、殺菌効果があるためであると地元漁師が教えてくれた。
プーリアには、山の幸も多く、肉料理が豊富である。特にソーセージ類は有名で、例えば長いソーセージを渦巻き状にしたサルシッチャ・プリエーゼは、炭火で豪快に焼いて食べる。これも地域によって豚100%であったり、牛とミックスしたり変化がある。
※本稿は、『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
