「野呂佳代」はなぜ「ハズレなし」の俳優になれたのか アイドルとして挫折も…バラエティで培った「普通っぽさ」
4月スタートの新ドラマ出演
黒木華が主演を務める4月スタートの新ドラマ「銀河の一票」(関西テレビ)で、野呂佳代(42)が準主役的なポジションで出演することが発表されて、話題を呼んでいる。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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【写真】「すげー」「羨ましい限りです」…“夢”を叶えた野呂佳代
政治家の不正をめぐる告発文を発端に、すべてを失った与党幹事長の娘で秘書の星野茉莉(黒木華)が、偶然出会った政治素人のスナックママ・月岡あかり(野呂佳代)を東京都知事にすべく選挙戦に挑むという内容。「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」「エルピス――希望、あるいは災い――」など数々の話題作を手掛けた佐野亜裕美がプロデューサーを務める。

ここ数年、バイプレーヤーとしてたしかな存在感を発揮し、「野呂が出るドラマにハズレなし」とまで言われてきた野呂のキャリアにおいても重要な作品になるのは間違いない。
野呂はアイドル出身で、長らくバラエティ番組を中心に活躍してきた。近年は俳優としての仕事が急速に増えていて、大河ドラマをはじめとする注目度の高い作品に出演する機会も多くなり、ドラマ業界では引っ張りだこの存在になりつつある。なぜ野呂がここまで重宝されるようになったのか。
もともと役者志望だった。何とか芸能界に入るきっかけをつかもうとして、AKB48のオーディションを受けた。年齢と足のサイズを偽って応募したところ、プロデューサーの秋元康に面白がられて加入が決まった。しかし、思うように活躍することができず、SDN48に移籍することになり、そこを卒業してからは泣かず飛ばずの日々が続いた。
彼女にとって転機になったのが「ロンドンハーツ」(テレビ朝日系)の進路相談企画である。自分が抱えているストレスや将来への不安を正直に告白したところ、先生役の有吉弘行から「目の前にある仕事を全力でやれよ!」と叱咤された。それを聞いて野呂は雷に打たれたようなショックを受けた。俳優になるための道筋が見つけられず悩んでいたのだが、それは間違いだった。
最終的な目標は役者になることなのだとしても、その手前にある仕事に本気で取り組んでいなければ、誰からも信用されない。逆に言えば、いま与えられている現場で信用を積み上げれば、次の扉が開く可能性が生まれる。野呂はそこから心を入れ替えて、バラエティで何でもやる方向に舵を切った。
修羅の場となった「ゴッドタン」
バラエティタレントとしての彼女の修業の場となったのがテレビ東京の「ゴッドタン」(テレビ東京)である。本格志向の笑いが求められるこの番組では、出演者は笑いのために恥を捨てなければいけないし、どう振る舞えば番組が成立するのかを常に考えなければいけない。
バラエティタレントの仕事は、その場の判断が何より重要になる。台本があっても、現場の空気は秒単位で変わる。スタッフがいま何を撮りたいのか、共演者がどういう方向に行こうとしているのか、いま求められていることは何か。それらを瞬時に読み取り、自分のリアクションや言葉を最適化する必要がある。
この能力はバラエティ番組でしか生かせないものではない。なぜなら、これを「バラエティタレントという役柄を演じる行為」というふうに捉えるなら、俳優業にも通じるものがあると言えるからだ。
野呂はバラエティ番組に出ることで、空気を読み、状況に適応し、恥を捨てて全力で振る舞うことができるようになった。バラエティタレントとしての安定感が出てからは俳優の仕事も少しずつ増えていった。
俳優としての野呂の魅力は「普通っぽさ」にある。ここで言う普通っぽさとは「地味」「無難」という意味ではない。視聴者が身近に感じられるようなたしかな存在感があるということだ。
バラエティで見せてきた親しみやすいキャラクターが土台にあり、そこに俳優としての技術が乗っているから、コミカルもシリアスも自然に往復できる。役柄の幅が広いだけでなく、明るさの裏に傷を抱えるような二面性のある人物も巧みに演じることができる。
ドラマの現場で求められているのは、自分だけ目立つような人ではなく、物語の現実味を支え、共演者の芝居を受け止め、必要なときに空気を動かせる人だ。バラエティで積み上げた適応力と胆力、そして遅咲きの苦労が生んだ芸の厚みが、野呂佳代という俳優の演技に説得力を与えている。
アイドルとして失敗し、タレントとして挫折を味わって腐っていた彼女は、バラエティでの活躍を経て、俳優になるという夢を実現させた。一見すると遠回りに感じられるこのキャリアも、彼女にとって無駄ではなかった。今までの経験すべてが役者の仕事に生きている。俳優としての野呂佳代はここからさらに成長を続けていくはずだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
