チェコ発の奇才ブランド「Bastl Instruments」。ストレンジャーシングスなモジュラーシンセは「魔法」がいっぱい
世界中のシンセ愛好家を熱狂させる、チェコの「魔法使い」。
2025年11月、秋深まる東京。モジュラーシンセの祭典「Festival of Modular Tokyo(FoM Tokyo)」およびワークショップ(写真)のために来日した、チェコ・ブルノのクリエイティブ集団「Bastl Instruments(バストル・インストゥルメンツ)」。
個人的に無茶苦茶入れ込んでいたチェコのモジュラーシンセメーカーBASTL INSTRUMENTSの取材を行ない創始者Vaclav(ヴァーツラフ)と仲良くなったんだけど、彼の @fomtokyo でのパフォーマンスが想像の斜め上だった件。え、なにそのマイクみたいなデバイス、右手のコントローラーは自作?… pic.twitter.com/NPbV0nhMu1
- kazumioda (@kazumioda) November 24, 2025
何を隠そう、筆者も彼らのプロダクトをほぼコンプリートしている重度の「Bastlマニア」の一人(なんかファンダム用の呼び名を考えて欲しい。“バストラー”とかどうでしょう?)。
初期の象徴的な存在だった、東ヨーロッパ風情溢れるウッドパネルから、現在は精悍なアルミパネルへと進化を遂げているが、そのひんやりとした質感と精緻な加工の良さは相変わらず素晴らしい(美しい)。
ノブを回した時、予想のはるか斜め上をいく音の挙動。そして「パネルを裏返すと別の楽器になる」といった、既存のガジェットの常識を軽々と飛び越える遊び心。
FoMですっかり仲良くなったチェコのモジュラーシンセメーカーBASTL INSTRUMENTSのVaclav(ヴァーツラフ)から贈り物。とっておきの新製品KASTLE 2のALCHEMISTをお試し。このサイズでパッチ組めて、1台で完結って素晴らしい ご飯何杯もイケるってチェコでは何て言うんだろ pic.twitter.com/13zDnS1FEF
- kazumioda (@kazumioda) November 26, 2025
一度触れると、その中毒性の高い世界観から抜け出せなくなります。
日本でも熱狂的なファンを持つ彼らのプロダクトは、一体どのような思考から生まれているのか。
創設者であり、天才エンジニア、アーティストのVáclav Peloušek(ヴァーツラフ・ペロウシェク)と、エンジニアのVáclav Mach(ヴァーツラフ・マッハ)に、DIYワークショップの合間に話を伺いました。
そもそも「モジュラーシンセ」の雄、Bastl Instrumentsとは?
インタビューに入る前に、彼らがなぜこれほどまでに注目されているのかを説明させてください。
いま、電子音楽の世界でムーブメントとなっているのが「モジュラーシンセ」です。通常、シンセサイザーといえば鍵盤がついた完成品を想像しますが、モジュラーシンセは「音を出す」「音を揺らす」といった個別の機能を持つモジュールを買い揃え、パッチケーブルで繋いで自分だけの楽器を組み上げていく、いわば「音の自作PC」もしくは「自作(PC)キーボード」のような世界。
自分の欲しい機能だけを集めた自分だけのシンセを作り上げる醍醐味は、日本でも静かなブームとなり「Festival of Modular Tokyo」などのイベント集客も増えてます。
その界隈で、Bastl Instrumentsは極めて異質な存在です。
ブランド名の「Bastl」は、チェコ語のスラングで「電子工作でDIYする」という意味。彼らは高価で複雑になりがちなモジュラーシステムを、手のひらサイズで、かつバッテリー駆動できる「持ち運べるアートピース」へと昇華させました。彼らの機材が並ぶデスクは、まるでRPGに出てくる魔法使いの実験室のようなワクワク感に満ちています。
「買えないなら作る」海賊版ソフトが育んだDNA
──ボクもBastlを愛用していて、初期のウッドパネルのモジュラーセットから今のアルミの質感が素敵なガジェット・シンセまで追いかけているファンなんですが、そもそもVáclavさんがシンセサイザーにハマったきっかけは何だったんですか?
Václav Peloušek(以下、ヴァーツラフ): 最初に出会ったのは、10代の頃に友だちからもらった『Reason』の海賊版ソフトでした。2003年くらいかな、当時はティーンエイジャーでお金がなくて、本物が買えなかったんだ(笑)。
──あの、ラックを裏返してケーブルを繋ぐレゴみたいなバーチャル・ソフトですよね?
ヴァーツラフ: そうそう! ソフトウェアだけどシンセサイザーのラックがあって、裏返すこともできるし、ケーブルを繋ぐこともできた。
ヴァーツラフ: だから、ちょっとモジュラーっぽかったんだ。当時は画面上のシンセだったから、いつかリアルなものが欲しいと夢見ていた。そして今はリアルなものを作っているというわけ。もう海賊版は必要ないね(笑)。今はすべてのソフトをちゃんと買っているよ。でも、ハードウェアのシンセサイザーを長いこと買えなかったという経験が、Bastlを作り始める大きなきっかけになったのは間違いないね。
Václav Mach(以下、マッハ): 僕は彼のようなミュージシャン出身ではなく、もともとはITや写真を学んでいました。でも、Bastlのプロダクトの多くは中に小さなコンピューターが入っているような設計なので、ITのスキルをそのまま楽器作りに活かせるのが面白いところですね。技術系のスタッフとして参加しましたが、クリエイティブとテクニカルの視点が混ざり合うことで、今のBastlらしい形になっていると感じます。
楽器は、共に旅をする「キャラクター」
──ボクがBastlを好きになったのも、音はもちろんですが、そのミステリアスなデザインやファンタジーな世界観に惹かれたからなんです。
ヴァーツラフ: そう言ってもらえると嬉しいですね。ビジュアルは美学を伝える手段であり、人と繋がるための言語だと思っています。僕にとって楽器は単なる道具ではなく、創作におけるパートナー、つまり「友だち」のような存在であってほしい。だから『Wizard(魔法使い)』や『Bard(吟遊詩人)』といった名前をつけて、それぞれに性格を持たせているんです。
マッハ: 僕らのYouTube動画では、僕が「Bard(吟遊詩人)」の役を演じて、製品をプロモーションするショートフィルムを作ったりもします。単なる機能説明ではなく、僕らが作り上げた世界観を見せることで、ユーザーの想像力を刺激したいんです。まるでRPGのキャラクターを選んで冒険に出るような、そんな感覚を音楽制作にも持ち込みたい。
──一方でユーロラック規格の「CITADEL」シリーズは、「リバーシブル」なのがユニークです。両面印刷されたパネルを裏返してソフトをインストールし直すと、別の楽器になる仕様で驚きました。RPGの「クラスチェンジ」みたいで最高に得した気分になります(笑)。
ヴァーツラフ: 僕らは2000年代育ちなので、リバーシブルの服みたいなワクワク感が大好きなんです(笑)。一つの機材で全く違う機能が手に入るのは、魔法みたいでしょう? バスや電車で移動しながらでもライブができる、コンパクトで多機能なツールであることが僕らのこだわりです。
チェコのおとぎ話「ケーキを焼く猫と犬」の教訓
──『KASTLE 2』のデザインも、宮崎駿アニメのような、意味ありげな模様が印象的です。これにはどんな物語が?
ヴァーツラフ: これはチェコのおとぎ話「ケーキを焼く猫と犬」がモチーフになっています。猫と犬が大好きなものを全部詰め込んで大きなケーキを焼くんだけど、結局詰め込みすぎてオオカミがお腹を壊してしまう……というお話です。
マッハ: 開発していると、ついあれこれ機能を詰め込みたくなりますが、実は「厳選すること」が一番大切。それは音楽制作も同じです。1つか2つあれば、それで十分かもしれない。その制約こそが、より深い創造性を引き出すんです。
──最後に、これからモジュラーシンセの深淵に足を踏み入れようとしている若い世代に向けて、アドバイスをお願いします。
ヴァーツラフ: 自分たちのプロダクトを買ってと言うのは少し変ですが(笑)、何よりも「夢中になって楽しむこと」が大切です。モジュラーは数がないと楽しめないと思われがちですが、僕らは最初から1台でも楽しめるようにデザインしています。
マッハ: すでに持っているパソコンから始めるのもいいし、まずは1つだけシンセを買って、とことん使いこなしてみるのもいい。興奮していっぱい買いすぎて、どうしていいかわからなくなる前に、まずは手元の1台とじっくり向き合ってみてください。
▼「CITADEL ALCHEMIST」の詳細はこちら
CITADEL ALCHEMIST | Umbrella Company | アンブレラカンパニー
取材を終えて感じたのは、彼らのプロダクトが単なるガジェットではなく、チェコの深い文化や遊び心から生まれた「物語」であるということでした。
ほぼすべてのプロダクトをコンプリートしている筆者でさえ、彼らの口から語られる「引き算の美学」や「キャラクターとしての楽器」という言葉を聞くたびに、また新しいパッチを試したくなる衝動に駆られます。
効率やスペックだけを追い求めるのではなく、あえて不自由さや個性を楽しむ。Bastl Instrumentsが提案するのは、そんな豊かで自由な音楽のあり方でした。彼らの魔法の箱を一つ手に入れることは、新しい「友だち」を一人迎えるような、そんな温かな体験なのです!

GIZMODO テック秘伝の書
通訳: Nao Machida/Source: Bastl Instruments, Festival of Modular Tokyo, YouTube, Reason, Umbrella Company
