上司の存在は、部下にどんな影響を与えるのか。ラーニングエッジ代表の清水康一朗さんは「本来は、部下が自分で考え、挑戦し、失敗から学ぶ機会をつくれる人がリーダーであるべきだ。しかし、実際には無意識のうちに悪い前例になったり、部下の思考停止や経験不足を引き起こしたりするケースが多い」という――。
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■成長しないのは「本人の資質のせい」?

「最近の若手は育たない」
「どうして部下が自分で考えて動いてくれないのだろう?」

そんな悩みを抱えるリーダーやマネジャーは少なくありません。上司としては、今後に期待して、仕事を任せようとしても、部下の行動量が少なかったり、やる気が見えなかったり、こちらの想いが伝わっていないなと感じてしまうこともあるかもしれません。

ですが、部下の成長が止まっているのは、本当に部下の資質の問題なのでしょうか。実は、リーダー自身のちょっとした習慣や言動によって、“勘違い”が発生し、無意識のうちに部下の成長を妨げているケースも少なくありません。

ここでは、よく見られる3つのタイプの勘違い行動を、私が実際に相談を受けた事例とともに紹介します(登場人物はすべて仮名です)。

■上司の背中を見て、新人は動く

? 会社のルールを自分から破ってしまう

リーダーは「模範」であるべき存在です。ところが、例えば、忙しいということを理由に本人にその意識が薄く会社のルールをないがしろにした場合、部下は「結局ルールは守らなくてもいいのだ」と学んでしまう恐れがあります。

【事例】
IT企業の営業部の佐藤主任(男性・38歳)は、結果を出すことに強い自負を持つタイプ。

ある日、社内規定で禁止されている「個人端末でのデータ持ち出し」を行いました。「効率が上がるから」という理由でしたが、その様子を新人の木村さん(女性・24歳)が目撃。

木村さんは、「主任がやっているのだから自分もやっていいのかもしれない」と感じ、後日同じことを実行。結果として情報漏洩のリスクが発覚し、チーム全体が問題に巻き込まれる事態になりました。

リーダー自身は「自分なら大丈夫」と思っていた行動が、部下にとっては「許される前例」となってしまったのです。

■「失敗させない」が思考力とやる気を奪う

? アドバイスが多く、指示も細かすぎる

「部下を失敗させたくない」と思うあまり、過剰に口を出してしまうリーダーも少なくありません。しかし、これは部下の“考える力”を奪ってしまう大きな要因になります。

【事例】
食品会社の企画部の田中課長(女性・45歳)は面倒見がよく、部下の成長を心から願っています。ただ、提案書の作成を任せると、細部にわたり逐一チェックを入れ、「ここはこう直して」「この順番に変えて」と具体的に修正指示を出してしまうタイプ。

入社3年目の中堅社員・佐野さん(男性・28歳)は当初「学びが多い」と感じていましたが、次第に「どうせ自分で考えても直される」と思うようになり、指示を待つ姿勢に変わってしまいました。結果、田中課長の負担は増え、佐野さんの自主性は育たないという悪循環に陥りました。

リーダーとしては部下を成長させるために与えたアドバイスが、実は部下の挑戦心を奪っていたのです。

■甘やかしは部下のためにならない

? 部下のためを思った行動が逆に成長を止めている

一見「思いやり」に見える行動も、部下の成長機会を奪うことがあります。

【事例】
自動車会社の製造部の山口係長(男性・42歳)は、若手に厳しい現場を経験させるのは酷だと考え、トラブル対応や顧客クレームなどの“難しい案件”をすべて自分で引き受けていました。

その結果、入社2年目の斎藤さん(女性・25歳)は、日常業務はそつなくこなせるものの、突発的なトラブル対応には全く慣れていません。ある日、山口係長が不在時にクレーム対応を任され、大きく動揺してしまい、顧客の信頼を損なう事態になりました。

「部下に負担をかけたくない」という思いやりが、結果的に“経験不足”という形で成長を妨げていたのです。

以上の3つの事例に共通しているのは、「リーダーの行動がそのまま部下の成長に影響する」という点です。またそれにより、リーダーが陥りやすい落とし穴が発生します。

■「部下を育てるリーダー」の3つのポイント

リーダーが陥りやすい落とし穴
・ルールを軽視する姿 → 「守らなくてもいいんだ」と誤解される
・過剰な指示や助言 → 部下の考える力を奪う
・思いやりでチャンスを奪う → 成長の場を失わせる

本来、リーダーは「答えを与える人」ではなく、「部下が自分で考え、挑戦し、失敗から学ぶ機会をつくる人」であるべきです。

では、どのように行動を変えればよいのでしょうか。ポイントは3つです。

? ルールを守る姿を見せ、部下にとっての規範になること
⇒小さなルールも率先して守る姿勢が、部下の信頼と規範意識を育てる

? 部下に考える余地を与えること
⇒アドバイスは最小限にとどめ、部下が自分で考えた選択を尊重する。多少の間違いは学びに変わる

? 挑戦の機会を与える
⇒あえて難しい課題を任せることで、部下は実践の中で大きく成長する。失敗したら支えるのがリーダーの役割

写真=iStock.com/metamorworks
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■「完璧に導く」が上司の役割ではない

「部下が育たない」と悩むときこそ、まずは自分の行動に疑問を持ち、振り返る必要があります。会社や社会のルールを守れているか、アドバイスが細かすぎないか、部下の経験をあなたが奪っていないか……。

リーダーの在り方は、部下の行動や成長に直結します。ルールを守る姿勢、考える余地を与える姿勢、そして挑戦の機会を提供する姿勢が揃ってこそ、部下は自律的に育ちます。

大切なのは、完璧に導くことではなく、部下が自分の頭で考え、試行錯誤しながら成長できる環境を整えること。

そして部下を育てることは、同時にリーダー自身が学び続けることでもあるのです。

リーダー自身が変われば、部下は自ら考え、挑戦し、学び、そして育っていき、チームはより強くなっていくのです。

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清水 康一朗(しみず・こういちろう)
ラーニングエッジ代表
1974年生まれ、静岡県浜松市出身。98年慶應義塾大学理工学部卒業後、人材業界のベンチャー企業に入社。2000年、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。2003年にラーニングエッジ株式会社を設立。コンサルで学んだマーケティングや顧客管理のノウハウをベースに、業界最大のポータルサイト「セミナーズ」を立ち上げ、教育の流通に努めている。著書に『絆徳経営のすゝめ』(フローラル出版)、『勝手に売れていく人の秘密』(ダイヤモンド社)、『耳から学ぶ勉強法』(サンマーク出版)など。
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(ラーニングエッジ代表 清水 康一朗)