「コメ価格高騰」の折りも折り…コンビニ3社がこぞって原価率の高い"おにぎり"を強化する意外な理由

■なぜコンビニ大手は「おにぎり」を攻めるのか
「コメ高騰」「物価上昇」「コメ離れ」――。三重苦にも見えるこの状況で、なぜコンビニ大手は“おにぎり”を攻めるのか。そこには、利益構造を含めた商品特性、生活者ニーズの変化、政府の支援措置などが交錯する戦略的な背景がある。
おにぎりは、コンビニにおける定番中の定番だ。セブンでは年間30品以上がおにぎりカテゴリーで入れ替わり、味・具材・栄養バランス・話題性など、さまざまな視点からのリニューアルが行われている。価格帯は100円台前半から300円前後まで幅広く、定番からごちそう系まで展開。特に200円を超える高価格帯商品の伸びが顕著で、消費者の“少し良いものを選びたい”という心理に応えている。
■おにぎりは「棚効率」「回転率」ともに優秀商品
店側にとってもおにぎりは「棚効率」が高く、限られた売場面積でも高い回転率と売上が見込める主力中の主力。だからこそ品質や商品力の向上が、他のカテゴリーの売上にも波及する。
セブン‐イレブンは2025年度上期、定番・基本商品の“磨きこみ”を強化方針に掲げている。とくに「赤飯おこわおむすび」や「こだわりおむすび」などの人気定番商品の味や食感の改良に着手。全国154拠点あるフレッシュフード専用工場を活用し、味と品質の底上げを図る。
ファミリーマートは施策の多様化で誘客を仕掛ける。大谷翔平選手の起用による「おむすび二刀流」キャンペーンに加え、商品力と話題性を融合させたおにぎりの展開が続いている。「手巻 焼さけハラミ」や「ごちむすび 炙り焼 牛カルビ」など、高付加価値商品を中心にラインアップを拡充する。
ローソンはPB刷新の一環として、「金しゃり」シリーズや「まるで天津飯」「まるで親子丼」など“おかずごはん系”おにぎりを強化。冷凍おにぎりの展開も拡大し、保存性の高さを活かした新たな需要層の獲得を狙う。
■消費者が求める「タイパ」に応える
その魅力のひとつが、タイパ(タイムパフォーマンス)の良さだ。片手で手軽に食べられ、短時間でしっかり満腹感を得られる。パンやカップ麺に比べて栄養バランスにも優れ、冷めてもおいしいという技術革新がその人気を支えている。
利益構造の面でも見逃せない。おにぎりの原価率は概ね70%前後とされるが、棚回転率の高さと販売数の多さから、コンビニ全体の利益を支える“量で稼ぐ商品”だ。さらに、「金しゃり」や「ごちむすび」などの高価格帯商品が増えたことで、粗利益率も改善傾向にある。
製造体制にも磨きがかかる。多くのコンビニおにぎりは各地のセントラルキッチンで24時間体制で製造され、衛生・温度・加圧の管理が徹底されている。最近ではロボットと人の協働による成型工程の効率化も進み、均一な品質と大量供給を両立している。ローソンでは、こうした体制を活かし「冷凍おにぎり」の展開も強化。保存性の高さは食品ロス対策に加え、米の調達時期の平準化や仕入れコストの分散にもつながる。

■「米選び」が品質に直結する
原材料の調達力も、大手コンビニの強みだ。全国規模の物流ネットワークと調達ルートを活用し、米の不作や価格高騰といったリスクにも柔軟に対応できる体制を築いている。基本的には国産米にこだわりつつも、需要に応じてブレンド米や一部輸入米の活用で価格の平準化を図る。おにぎりに使用する米は、粒の立ち方や冷めたときの粘りまで計算されており、調達だけでなく「米選び」そのものが品質に直結する重要なプロセスとなっている。
また、惣菜メーカーとの提携や、外部パートナーとの共同開発などで原材料費の分散や交渉力の強化を図る例も多い。価格転嫁の抑制だけでなく、商品開発の幅を広げる意味でも、調達の工夫が活きている。
■なぜ、コメ高騰の最中、大量に調達できるのか?
2024年から続く米の価格高騰は、コンビニにとっても無視できない課題だ。CPIの「米」項目でも高止まりが続き、一般家庭にとっても米は“高級な主食”になりつつある。こうしたなかで政府は備蓄米21万トンの市場放出を決定。コンビニ各社は、こうした制度を活用しながら契約農家との連携強化で安定調達を実現している。
米が“贅沢”に映る今こそ、米食文化の価値を再訴求する絶好のタイミングだ。長期的にコメの消費量は減少傾向にあるが、今年の“コメ不足”報道がきっかけとなり、米への注目が一気に高まった。この流れをチャンスと捉え、コンビニ各社は“米の魅力”そのものを前面に押し出している。「冷めてもおいしい」「ふっくらした炊きたてのような食感」など、炊飯技術の進化をアピールしながら、生活者に“おいしい米ごはん”を再体験してもらう構えだ。
セブンは「世界ごはん万博」で「豚なんこつ」や「牛すき焼き」など地域ごとの特産を取り入れた具だくさんおにぎりを展開。ファミマは「ちょいデリ×おむすび」の組み合わせで、サラダやおかずとのセット提案を進める。ローソンは「まるで天津飯」「まるで親子丼」といった、“おかずごはん系”おにぎりで食べ応えを訴求している。

消費者の声にも注目が集まる。「300円するけど専門店レベルの味」「朝は必ずおにぎり2個買う」「冷凍庫に常備している」など、SNSやレビューサイトでは“リピート前提”の評価が目立つ。節約志向の中でも、「価格に見合う価値」が感じられる商品として受け入れられている。
■ファミマはアンバサダーに大谷翔平を起用!
そして、話題性で頭ひとつ抜けたのがファミリーマートだ。2025年3月、「おむすび二刀流、解禁。」と題したキャンペーンを打ち出し、アンバサダーにMLBのスーパースター・大谷翔平選手を起用した。
専門店「ぼんご」監修による「手巻 肉そぼろ(卵黄ソース)」「高菜明太マヨ」など本格的な味わいの新商品を展開。1.5倍サイズの「大きなおむすび」シリーズも加わり、商品の幅も広がった。成型機の刷新や炊飯工程の見直しによって品質を向上させ、消費期限延長にも成功。キャンペーン開始からわずか1週間で累計300万個を販売、前年比120%超の伸びを記録した。
SNSでは「大谷が打てばファミマに行く」といった投稿も広がり、商品力と話題性が高次元で融合した成功事例となった。
■コンビニが本気を注ぐ「小さくて大きい商品」
このように、コンビニ各社はおにぎりを通じて消費者に対して多様な価値を提供している。おにぎりは単なる食品ではなく、消費者の生活に密着した商品であり、その魅力を最大限に引き出すための工夫が凝らされている。
コメが高騰し、食生活の変化が進む中で、コンビニ各社は“米文化の再発見”と“主力商品の磨き込み”を同時に進めている。単なる“ごはんと具”の組み合わせに見えて、そこには生活者の変化、物価への対応、商品開発力、ブランド戦略が詰まっている。おにぎりは今、コンビニが最も本気を注ぐ「小さくて大きな商品」なのだ。
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白鳥 和生(しろとり・かずお)
流通科学大学商学部経営学科教授
1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売り、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、国學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。2024年4月に流通科学大学商学部経営学科教授に着任。著書に『改訂版 ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCCメディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)などがある。最新刊に『フードサービスの世界を知る』(創成社刊)がある。
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(流通科学大学商学部経営学科教授 白鳥 和生)
