酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?清冽な北アルプスの天然水に恵まれた信濃大町の老舗酒蔵。これまでの経営体制を一新し、世界…

酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?清冽な北アルプスの天然水に恵まれた信濃大町の老舗酒蔵。これまでの経営体制を一新し、世界へ新銘柄をリリースした気鋭の杜氏の晩酌とは?

長野県『市野屋』

【佐藤大輔氏】

『市野屋』の杜氏、佐藤大輔氏

1981年東京都生まれ。10代から飲食店で経験を積み、大手企業で人材教育とメニュー開発を担当。2016年に独立し、銀座を中心に飲食店12店舗展開。2022年市野屋最高醸造責任者に就任。J.S.A.ソムリエ。

主役は酒。その酒に料理を合わせる。

「立ち上がる香りを楽しみ、スワリング(グラスをくるくる回して酒を空気に触れさせることで酒の本来の味を引き出すこと)をしながら味の変化も確認するために、ワイングラスに酌む」と、杜氏は言った。「金蘭黒部」や「◯一(ほしいち)」を醸す蔵、市野屋の最高醸造責任者・佐藤大輔さんだ。

最近の晩酌酒に選ぶのはもっぱら今年1月に誕生したばかりの「龍水泉」。欧米やアジア諸国への輸出を意識した“世界照準”で開発された新銘柄である。佐藤さんが目指すのは、白ワインのように食事と一緒に楽しんで飲み飽きしない日本酒だという。

「立ち上がる香りを楽しみ、スワリング(グラスをくるくる回して酒を空気に触れさせることで酒の本来の味を引き出すこと)をしながら味の変化も確認するために、ワイングラスに酌む」と、杜氏は言う。

「世の中には食事の引き立て役としていぶし銀の働きをする素晴らしいお酒がありますが、お酒単体のおいしさとなると印象の薄いものが多い。一方、単体でおいしいお酒もありますが、そのようなタイプは得てして食事には合わず、すぐに飲み飽きしてしまいます。白ワインにはお酒としておいしく、様々な料理と良いマリアージュをもたらす、ずっと飲んでいられる食中酒があるのに、なぜ日本酒にはない?その疑問に対する私なりの解答が、この龍水泉です」

山廃もとまたは生もとの伝統製法を守りながら、山廃もと・生もとの日本酒臭く重たい一般的なイメージとは一線を画す味わいを狙った。レモンやリンゴを思わせるフルーティさとしっかりとした飲み応えがあるが、その風味は一瞬で消え去り、食欲を誘う余韻が残る、不思議な旨さだ。乳酸菌の力により、開栓後も劣化せずに好変化を続けていく点にもこだわったという。その晩、食卓にはフランス料理の皿が並んだ。

食中酒としての可能性を最大限に引き出す料理とは?今宵もマリアージュを探る。この日の夕食はメニュー研究も兼ねたフレンチ。麹を混ぜた鶏と豚のバロティーヌ、甘酒と椎茸のソース(手前四角皿)。そこから反時計回りに、金目鯛のグリルセリと湯葉のリゾット、白子の菊芋のグラチネ、信州イチゴと酒粕のカプレーゼ

シェフとしての経験豊富なスタッフ・西澤明奈さんの作だ。西澤さんは毎日、蔵人18人分の賄いを作り、「龍水泉」と料理との相性を探るために、メニューの試作も重ねている。この豪気な晩酌も、酒造り研究の一環。

「主役となるのはお酒で、相性のいい料理を合わせるスタイルを提案していきたい。輸出を意識し、西洋の料理を中心に研究しています。お、このバロティーヌは合うな……あ、一応これも仕事ですよ」と、佐藤さんは幸せそうにグラスを傾けた。

『市野屋』@長野県

1865年創業。「市野屋」「金蘭黒部」などの銘柄で知られる。2022年1月経営体制を一新し、代表取締役兼最高醸造責任者・佐藤大輔氏を筆頭に複数の杜氏体制へ。冬季醸造から四季醸造へ設備も刷新した。2023年1月に世界照準の新ブランド「龍水泉」をリリースした。

【龍水泉ベーシック】【龍水泉ニューノーマル】

『市野屋』の「龍水泉ベーシック(右)、龍水泉ニューノーマル(左)」
『市野屋』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2023年3月号

※2023年3月号発売時点の情報です。

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