内藤晴夫・エーザイCEO

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エーザイの認知症薬の研究開発は実に40年に及ぶ。この間、画期的な新薬も開発したが、大半は失敗の連続。しかし、「この失敗がなければ、こういう本格的な治療薬には到達できなかったと思います」とCEO・内藤晴夫氏。新薬『レカネマブ』は今年7月、米FDA(食品医薬品局)から正式承認を受ける見通しで、日本でも9月に承認される見込み。画期的な効能を示す治験結果が内藤氏のもとに届けられたのは年初の深夜。時は午前3時で、ベッドの上だったという。「思わず涙がこぼれてきました」と内藤氏。数千億円もの開発費と長い歳月をかけての研究開発。「安堵感ですね。ホッとしました」との述懐に実感がこもる。この新薬の登場は世界的に高齢化が進む中で増え続ける認知症患者にとって朗報であると同時に、エーザイの収益力向上に貢献するのはもちろん、製薬会社のビジネスモデルをも変革する可能性がある。世界の共通課題解決へ、内藤氏は「患者さんとのエンパシー(共感)を大事にする経営に徹していきたい」と語る。


新薬開発の成功の裏に失敗の連続があって…

「失敗の度になぜ失敗したかとレビューしていると、だんだん次はこうやればいいという、次の目標が結構クリアに見えてくる。それで、次は成功するだろうと思うと、また失敗して、また次の目標が出てきて、また成功するという、そういう繰り返しでした」とエーザイCEO(最高経営責任者)の内藤晴夫氏。

 認知症患者の中で一番多いアルツハイマー型認知症。脳血管障害や『レビー小体型認知症』などもあるが、アルツハイマー型は脳の神経細胞が死んでいく変性疾患である。

 このアルツハイマー病は進行性の脳疾患である。多くは65歳前後で発症し、次第に記憶障害が現われ、人格の変化、精神障害などをきたし、最後は死に至る。今のところ、完治させる薬はなく、軽度のうちに発見し、その進行を遅らせて、家族も含めて安定した日常生活を送ることができるようにしようという対策が各国で進む。このアルツハイマー病研究にエーザイが取り組んで約40年が経つ。

 この間、同社は、進行を遅らせる画期的な治療薬『アリセプト』を開発。この新薬の成功でエーザイの認知症薬開発が世界的に評価された。

「アリセプトを米国で発売したのが1997年なんですけれども、その10年位前から認知症薬の研究は始めていたということで、よくそんなに長く続けてこられましたねと言われます」

 新薬開発には長い歳月と多大な研究開発費が要求される。

『アリセプト』は成功し、次の世代の新薬開発に同社は取り掛かったわけだが、試練が続いた。

「ええ、アリセプトの後、直ちに次の世代のものをということで、ずっとやってきたんですが、失敗ばかり続けてきたわけです」

 失敗して、検証し、次の目標を見つけて新薬を開発。成功もあるが、それは少なく、失敗を何度も繰り返すという道のり。

「ええ、その繰り返しで、『アリセプト』以来、今回は4つ目でした。4つ目の大きなプロジェクトで成功したということになります。この間、3200億円位、研究開発で使っているんです。認知症アルツハイマー病ですね」と内藤氏は語る。


〝失敗の山〟の前で、なぜ挑戦し続けられたのか

 多額の研究開発費と数十年にも及ぶ長い歳月を要する新薬開発はリスクの高い事業。そうしたリスクを背負いながら、新薬開発に挑むのはなぜか?

「それはやはり常に株主やステークホルダーから、『(開発を)やってよ』と、そういう励ましをいつも受け取っていたからだと思いますね。アリセプトの時代から、われわれは患者さんとその家族と本当に交流しなければいけないということでやってきた。友の会の方々とか、患者さんのそばに行ってなるべく時間を過ごしたり、一緒におやつを食べたりして、ですね。そういう共有体験をすることをずっとやってきています」