有識者らが日本におけるヘルスケアサービスの未来を語る 「予防・健康づくり領域の社会実装に向けたシンポジウム」が開催
シンポジウムには、ヘルスケア領域の専門家、サービス提供者・利用者ら約200人が参加。ヘルスケア分野における現在の課題や、今後の展望について、登壇者の発表に耳を傾けた。
「予防・健康づくり」がますます重要となる時代に
冒頭に行われた基調講演には、一般社団法人日本医学会連合および日本医学会会長の門田守人氏が登壇。日本の医療における「予防・健康づくりの必要性」について講演を訴えた。
一般社団法人日本医学会連合および日本医学会会長 門田守人氏「医療には三つの視点が大切だと言われています」と訴える門田氏。
「スペイン風邪や新型コロナウイルスなどの病気の時流、つまり流れを読む『魚の目』。それぞれの病気の専門性を高める『虫の目』、現在の医療や病気の状況全体を俯瞰的に眺める『鳥の目』。それに加え、今後は未来を見る『時の目』が必要になってくる」
と踏まえたうえで、例として日本における乳がんの死亡率の高さや、加齢に伴って心身が衰える状態(=フレイル)を提示。「少子高齢化が進む日本においては、これまで通りに病気を治療するだけでなく、もっと前の段階で、病気を防いでいかなければなりません」と今後の課題に言及した。
経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課課長補佐 小山智也氏その後行われたセッション1では、「予防・健康づくりにおけるヘルスケアサービスの未来〜心の健康領域におけるデジタルサービスを事例として〜」をテーマに、経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課課長補佐の小山智也氏、マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンパートナーの酒井由紀子氏が登壇。昨今、注目を集めている「ヘルスケアアプリ」のエビデンスの課題について言及した。
「事業者からも『医療従事者が納得できるエビデンスを確保したい』『健康被害が起きないか心配』といった声があります。今後、業界ガイドラインや学会による指針などの整備を支援していきたい」
と小川氏が問題提起すると、続けて酒井氏も予防におけるヘルスケアサービスが必要性について言及。
マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンパートナー 酒井由紀子氏「近年、日本では『ストレスチェック』が広がりを見せました。海外ではこれらのほか、オンラインカウンセリングや生活を改善するアプリなど、一歩踏み込んだサービスが提供されています」
と話し、続けて世界各国におけるヘルスケアサービスの分布や、英国のデジタル睡眠改善プログラム「Sleepio」や米国の「Ginger.io」などの事例について紹介した。
「理想のエビデンス」について、それぞれの立場から言及
続くセッション2のテーマは「予防・健康づくり領域のヘルスケアサービスの社会実装に向けて〜アカデミア、事業者、利用者等、ステークホルダー間での共創〜」。アカデミアからは各者が進めているエビデンス作成や研究、事業者や利用者からは期待する指針について発表が行われた。
まず、アカデミアの立場で登壇したのは、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授の中山健夫氏。基調講演で、まずは自身が推進しているヘルスケア社会実装基盤整備事業について解説した。
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授 中山健夫氏「2022年はエビデンス整理の指針作成、エビデンス構築基盤となる研究法開発を進めた」という中山氏は「ヘルスケアの先に何があるのか」を考えることが重要であると強調。「健康を入口に、人々が幸せや大切なことを考え直すきっかけになれば」と踏まえ、次のように言及した。
「今回の指針は『健康』という言葉に定義を拡大しました。指針は本来、医療者のためだけのガイドラインではなく、日々、生活をしている人を対象としている人に役に立ってもらうためのものだからです」
続いて、福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教授の有馬久富氏が登壇。デジタル技術を活用して高血圧を予防する指針の研究・開発について、「できあがった指針は、様々な方法で情報発信して普及させていく予定です。日本という国から、斬新なデジタル技術が発信されるようになればと思っています」と紹介した。
福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教授 有馬久富氏大阪大学大学院・医学系研究科社会医学講座特任准教授の野口緑氏は、生活習慣病の疑いがある対象者に対して、行動変容を促しても、これまでの手法では病院受診につながったのは4〜5割程度であったことを紹介し、
「危機感をあおったり、特定の生活習慣の改善を促したりしても、自分ごととして捉えてくれる人は少数でした。そこで今回の研究では、どのようにしたら行動変容を促せるのかの質的指標など、効果のある介入方法を開発していく予定です」
と語った。
大阪大学大学院・医学系研究科社会医学講座特任准教授 野口緑氏事業者の立場で登壇したキリンホールディングス株式会社ヘルスサイエンス事業本部の長谷川幸司氏は、「事業者の立場からの指針への期待」を発表した。
「『日本人は塩分をとりすぎ』とよく言われていますが、減塩ができる人は少数です。そこで、当社では少量の塩分で、本来より塩味を強く感じられるカトラリーを開発しました」
キリンホールディングス株式会社ヘルスサイエンス事業本部 長谷川幸司氏と話す長谷川氏。このようなこれまでにないヘルスケアサービスを開発する際は、エビデンスを取得するのには苦労すると言い、
「エビデンスを取得している間に市場が変化し、商品を出すころには売れなくなる可能性があります。適切で利用しやすい指針や評価尺度があれば、日本に新たなヘルスケアサービスがもっと生まれると思います」
と事業者としての難しさと事業への期待について言及した。
続いて登壇した、神戸市企画調整局医療・新産業本部科学技術担当部長の西川尚斗氏は、市民福祉を目的として神戸市が行っている「神戸ヘルス・ラボ」での、科学的エビデンス取得のための実証試験のサポート活動の事例を紹介。
神戸市企画調整局医療・新産業本部科学技術担当部長 西川尚斗氏「自治体の政策という観点から見ても、ヘルスケアの領域はとても重要です。本シンポジウ
ムや、その議論を経て指針が完成すれば、地域の取り組みもさらに進むのではと思います」
と自治体としての立場の見解を述べた。
最後に登壇した、日本医療機能評価機構(Minds)執行理事の福岡敏雄氏は「診療ガイドラインの普及実績から見た、指針等の普及戦略」について提言。
日本医療機能評価機構(Minds)執行理事 福岡敏雄氏「喘息は過去40年間で、死亡率が劇的に減っています。新しい治療法やその指針を、細部まで行き渡らすことができた成果でしょう」と話し、信頼される診療ガイドライン・指針をつくるためには、透明性、中立性、厳密さ、そして効果を実証する仕組みづくりが必要だと強調した。
各セッション間には、登壇者らによるパネルディスカッションも行われ、会場に集まった参加者は真剣な眼で見つめた。最後に、経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課課長の橋本泰輔氏が、今回のシンポジウムを統括すると、会場からの大きな拍手が送られた。
