東急電鉄が翌2023年の運賃改定を視野に、国土交通省へその申請を行いました。コロナ禍後に運賃の値上げが申請されるのは、首都圏の鉄道事業者では初。ただし通学定期は据え置きました。

どこよりも堅実に設備投資してきた

 東急電鉄は2022年1月7日(金)、運賃改定の申請を国土交通省へ行いました。消費増税分を除けば17年ぶりの値上げとなりますが、コロナ禍後に改定にかかる申請が行われるのは、首都圏の鉄道事業者では初めてのことです。改定時期は、翌2023年3月が予定されています。


東急田園都市線の新型車両2020系電車(2021年10月、大藤碩哉撮影)。

 東急電鉄は改定の理由について、設備投資による負担増やその設備の維持更新に費用がかかること、コロナ禍で運輸収入が大きく減少していることを挙げ、その中においてもインフラとしての鉄道を適切に運営していくため、としています。

 17年前、2005(平成17)年の運賃改定時は、東横線の改良工事、目黒線の日吉駅延伸、大井町線の溝の口駅延伸といった設備投資にかかる費用の積み立てなどを目的としていました。

 そして、コロナ禍前2019年度までの直近5年間の設備投資額を見ると、東急電鉄は業界水準の倍以上という実績です。ホームドアやセンサー付き固定柵の整備率は100%(こどもの国線と世田谷線除く)、踏切障害物検知装置も設置率100%。防犯カメラ付きの新型車両導入、設備の自然災害対策などを行ってきました。

 さらに、相鉄線と直通する新線「東急新横浜線」の開業も間近に控えているほか、有料着席サービス「Q SEAT」の他路線展開、大井町線は新型車両への置き換えも検討しているそうです。

 しかしながら、2020年度は過去最大級となる165億円の営業損失を計上。厳しい経営状況が続きます。

「通学定期は据え置き」

 運賃収入のうち定期利用は、緊急事態宣言の解除後もコロナ禍前と比較して約3割減で推移しており、これは関東の大手民鉄8社の中で最大の減収率です。東急電鉄は「新型コロナ終息後も、定期の利用は元には戻らないだろう」としています。

 運賃改定率は12.9%です。初乗り運賃は10円程度の値上げとなり、それ以外はおよそこの改定率に沿った値上げとなります。例えば東横線の渋谷〜横浜間をきっぷで移動すると、現行の280円から310円に。通勤定期なら現行の1万110円から1万1510円になります。増収率は11.7%ですが、子育て世代への配慮から通学定期の運賃は据え置くため、実質的な増収率は10%未満を見込んでいるとのこと。

「通勤定期の利用減少は、テレワークなどの普及にあると見ていますが、当社沿線にお住まいの方は、大手企業やIT企業にお勤めの方が多いと改めて実感しました」

 東急電鉄の小井陽介執行役員はこのように話しますが、定期外の利用を増やすため、フリーパスの販売強化などを考えたいとしています。

 東急電鉄は2021年11月、60歳以上のクレジットカード会員を対象とした乗り放題パスを限定販売していますが、今後はその拡充に加え、子ども向けの休日フリーパスも検討するとのこと。こうした施策により、沿線から都心へ通勤するという定期利用のモデルが崩れてきたいま、沿線内の移動需要の創出を図ろうとしています。

 もちろん「コスト削減」にも取り組んでいるといい、それらは利用者の目に見える形に現れてきています。2020年度から利用が減少した時間帯のダイヤ見直しを行っていますが、今後は東横線のワンマン運転化、清掃や警備の内製化、新卒採用の一部停止などを予定しています。