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新卒時に職に就けなかった人、不本意ながら非正規雇用に就いた人が多い就職氷河期世代。同世代より若い世代も不遇を味わってはいるが、アベノミクス始動後には賃金が上昇した。一方、就職氷河期世代の賃金は対照的に減少。それはなぜか…。そして、なかには働くことをあきらめる人も…。 日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

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「氷河期世代」はなぜ景気拡大から取り残されたのか?

アベノミクス始動後にリーマン・ショックからの持ち直しが全体的にみられるなかでも、なぜその度合いは若年層で大きく、就職氷河期世代は取り残されてしまったのだろうか。

この背景として2点指摘できる。

第1に、企業による処遇と労働市場の変化である。就職氷河期に新卒採用を大きく絞ったような企業では、年齢別の社員構成を「ワイングラス型」と呼ぶこともある。

これは、採用が極端に少なかった就職氷河期世代をグラスの持ち手に、採用が増えている若年層をグラスの底に、そして、かつて大量採用したバブル世代をワインが注がれる部分に例えたものである。

バブル経済崩壊後、企業においては大量採用したバブル世代を抱えるなか、リストラの一環としてポストの削減・統廃合を進めた。これにより、就職氷河期世代は、正規雇用の職に就いたとしてもポストに就く機会が後ずれした、または機会そのものを失ってしまった ケースが多い。

実際に、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、大学・大学院卒で雇用期間の定めがない社員のうち、例えば課長級に相当する役職に就く人の割合(男女計)は、2007年は30代後半が10%、40代前半が25.3%、40代後半では28.0%であったのに対して、この年齢階級に就職氷河期世代が含まれる2019年には、それぞれ6.6%、16.3%、22.7%と低くなっている([図表1])。

[図表1]役職に就く人の割合(大学・大学院卒、課長級) 資料:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に日本総合研究所作成

そして、年齢階級別にみた分布も全体的に高年齢層側へシフトしている傾向がみてとれる。

また、労働市場の面では、2008年のリーマン・ショックが影響した点が指摘できる。

当時は、製造業を中心に解雇されるケースが増え、20代半ば〜30代半ばだった就職氷河期世代も、職を失い転職を余儀なくされた人が多い。職を失った彼ら/彼女らが新たに向かった就職先の多くは、医療・福祉や運輸業・郵便業であり、実際にこれらの業種の労働者数はこの間増加している。

もっとも、これらの業種の賃金は相対的に低いうえ、就職後に役職に就く機会も少なく、たとえ就けたとしても、役職アップに伴う賃金増も相対的に小さいとされる。

こうした変化もあって、マクロでみた就職氷河期世代の賃金はアベノミクス以降も伸び悩むこととなったのである。

若年層を中心とした「人材獲得・賃金引き上げ」に対し…

第2に、その後の少子化の一段の進展を受けた若年層での人手不足である。これについては、日本総合研究所が実施したアンケート調査からもみてとれる。

2019年1〜2月にかけて実施した「人手不足と外国人採用に関するアンケート」のなかで、現在の人手不足の状況を尋ねたところ、約3割がほぼ全年齢層で人手不足としているが、それを上回る46%では若手・中堅では不足の一方、中高年層ではむしろ余っていると回答している。

アベノミクス始動後、しばらくの間、景気回復が続いたこともあり、若い労働力の需要は高まった。そうしたなかで、企業は若手人材の確保、定着を図るべく、若年層を中心とした雇用環境の改善、転職市場での人材獲得、大卒初任給や賃金の引き上げに動いたのである。

彼ら/彼女らのなかには、リーマン・ショックの影響を受けた人もいたが、その後の恩恵も相対的にみれば大きかったといえる。

労働市場から退出して「ニート」となる氷河期世代も

新卒採用に挑みながらも失敗し、不本意ながら非正規雇用に就かざるを得なかった就職氷河期世代は、上の世代と比べてその割合が高い。彼ら/彼女らはその後も、第2新卒や転職市場などでの再チャレンジの機会がいまより少なかったこともあり、正規雇用に新たに就いたり、転換したりするのが困難であった。

非正規雇用が続くなかではスキルを積むことが難しい面もあり、ますます正規雇用に就くことができなくなる。そしてついには、仕事を辞め、働くことそのものをあきらめて労働市場から退出する人が出てくる。

こうした状況にある人たちを「ニート」と呼ぶこともあり、いまや多くの人がその呼び名を知っているであろう。

もともと英国において「就学・就労をせず、また職業訓練も受けていない=not in education,employment or training」の頭文字をとった造語が始まりとされる。

わが国においては、2004年に、経済学者の玄田有史氏(東京大学教授)とジャーナリストの曲沼美恵氏による共著『ニート――フリーターでもなく失業者でもなく』で、統計やインタビューを用いつつ実態が描き出されたことで話題になった。

また、2003年に民放テレビの情報番組でニートの特集が放送された際に、街中でインタビューされた若い男性が「働いたら負けかなと思ってる」といった場面を、当時の映像なり、その後のネット上での話題なりで記憶している人も多いのではないだろうか。

ちなみに、その彼はインタビュー当時24歳、まさに就職氷河期世代である。

「非労働力人口」が占める割合も氷河期世代で高い

厚生労働省は、ニートの定義の一つとして、非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者としている。非労働力人口とは、15歳以上人口のうち、労働市場から退出し、就業者にも完全失業者にも含まれない人をいう。

仕事をしていないという点では、完全失業者と同じである。しかし、完全失業者は、仕事があればすぐに就くことができ、そもそも、仕事を探す活動をしているという点で非労働力人口とは異なる。

では、実際に、総務省「労働力調査」から、15歳以上人口のうち非労働力人口が占める割合(非労働力人口比率)をみてみよう。非正規雇用比率と同様に、就職氷河期世代が上の世代と比べて高い傾向にあることがみてとれる([図表2])。

[図表2]非労働力人口比率(男性)

ライフステージの変化の影響を相対的に受けにくい男性についてみると、例えば、40代前半においては、非労働力人口比率が、団塊ジュニア世代は3.8%、ポスト団塊ジュニア世代(前期)も3.8%と、上の世代と比べて、1%ポイント前後高い。

また、団塊ジュニア世代の40代後半も4.5%と、上の世代より1〜2%ポイント程度高く、同様の傾向が続いている。

女性と比べて男性が専業主夫であるケースはまだ少ないことや、この年齢階級において、学生として活動する人も多くないことを踏まえれば、何歳を対象とするかという議論は残るが、これらは、ニートに近い概念での世代間での比較とみることができるといえよう。

下田 裕介

株式会社日本総合研究所 調査部 主任研究員