「任天堂の「リングフィット アドベンチャー」が世界的な品薄、その理由は新型コロナウイルスにあり」の写真・リンク付きの記事はこちら

新型コロナウイルスが世界的に広がるなか、不特定多数が集まるスポーツジムでの運動には大きな疑問符が付くことになった。だからこそ、いまは自宅でエクササイズの習慣をつけるいいタイミングである。

つまり、任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」をもっている人にしてみれば、同社のエクササイズゲーム「リングフィット アドベンチャー」の購入を意味するのかもしれない。とはいえ、在庫が見つかればの話である。

店舗在庫は米国のどこにもなし

アリゾナ州メサに住む33歳のブライアン・マクファーランドは、リングフィット アドベンチャーを3週間前から探し始めた。新型コロナウイルスは米国ではまだそれほど差し迫った脅威になっておらず、彼は家でひとりでエクササイズをしたいと考えたのである。

そこで家電量販店のターゲットに立ち寄ってみたが、在庫はなかった。ネットで調べてみて、リングフィット アドベンチャーの在庫があると表示されていた店舗のなかで最も近かったのは、クルマで東に15時間ほどかかるダラスの店だった。しかし、その店の在庫もほどなく消えてしまった。

近隣の数店舗のウォルマートにもなかった。ゲーム専門店「GameStop」の6店舗にも電話で問い合わせてみたが、どこにも在庫はない。マクファーランドがeBayやAmazonで探し始めてみると、なんと出品者による在庫が最高220ドル(約23,000円)で売られていた。本来の希望小売価格は80ドル(日本では税別7,980円)である。

それでもマクファーランドは、手ごろな価格のリングフィット アドベンチャーを2週間かけて見つけだした。最終的に、現金払いの100ドル(約10,300円)で売ってくれる人物をアプリ「OfferUP」で見つけ、クルマで35分かけて売り手の実家まで受け取りに行ったのである。

ネットでの価格は急上昇

2019年10月に発売されたリングフィット アドベンチャーは、プレイヤーが美しい世界を旅しながらモンスターと戦うロールプレイングゲームである。最大の特徴は、そのすべてをエクササイズで進めていく点にある。

このゲームは、Nintendo Switchのコントローラーを取り付けたレッグバンドと弾性のある大きなリングを使って、プレイヤーの動きをモニターする。ピラティスのレッスンによく似ているが、それにマンガっぽいドラゴンがついてくるのだ。

敵を攻撃するには、プレイヤーはスクワットやヨガのポーズやジョギングをしたり、腕を曲げたりしなければならない。気の利いたゲームであり、きついエクササイズでもあり、スポーツジムの衛生状態を恐れる人にとっては歓迎すべき逃げ道でもある。

リングフィット アドベンチャーのeBayでの平均価格は、3月6日以降には130ドル(約13,500円)へと急上昇した。GameStopのウェブサイトを見ると、ニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴ、アトランタ、ヒューストン、フェニックス、デモイン、ラスヴェガス、シアトルの各都市から100マイル(約160km)以内の店舗には、この商品の在庫はない。

アマゾンの2番目と3番目の出品は、なんと500ドル(約52,000円)の価格をつけている。デジタル市場でもっと手ごろな価格で出品されているものは、リングフィット アドベンチャーのコントローラーの模造品であり、ゲームは含まれていない(リングのハンドルが灰色ではなく赤と青になっている。アマゾンにはこの商品が溢れている)。

中国での生産遅延も品薄に拍車

単に需要が増えたという話ではない。任天堂は生産の多くを中国企業に委託しており、同社は新型コロナウイルスがNintendo Switchの生産と出荷に影響を及ぼしている状況を、2月上旬に公開している。このなかで任天堂は、リングフィット アドベンチャーの出荷が遅延する見込みだとしている。このためネットでは、このゲームを本物のランニングマシンと同程度の価格で販売しているところもある。

新型コロナウイルスが先行して蔓延してきた中国では、さらに品薄になっている。ゲーム業界の分析を手がけるNiko Partnersの上級アナリストのダニエル・アーマッドは、リングフィット アドベンチャーは中国ではまだ正式発売されていないにもかかわらず、アウトブレイク(集団感染)が始まってから需要が急激に増大していると指摘する。

「転売人が日本やアジア、オーストラリア、そして全世界からこのゲームを大量に購入し、タオバオ(淘宝網)のようなネット通販サイトで中国の消費者に販売しています。オンラインの個人ストアのなかには、この1カ月にタオバオで1,000個以上を販売したところもあります」と、アーマッドは言う。

タオバオはeBayに似た通販サイトである。中国におけるリングフィット アドベンチャーの価格が1月上旬の115ドル(約12,000円)相当から、現在の287ドル(約30,000円)相当に急上昇したグラフを、アーマッドは見せてくれた。

「中国では新型コロナウイルスのアウトブレイクによって多くの都市が封鎖され、市民が外出を控えるよう要請されました。このため中国のゲーマーは、家の中で暇をつぶせる娯楽に目を向けたのです。映画館やインターネットカフェ、スポーツジムといった公共施設が閉鎖されたことが、携帯電話やPC、家庭用ゲーム機を問わず、家でできるゲームの販売急伸につながりました」と、アーマッドは言う。「エクササイズとダンスのゲームは特に人気が高く、リングフィットアドベンチャーの需要も急上昇したのです」

PS5はどうなる?

リングフィット アドベンチャーに夢中になっているのは、米国と中国だけではない。多数の新型コロナウイルスの感染者が確認されている日本でも、外に出られない子どもたちがリングフィット アドベンチャーのおかげで、いかに飽きずに遊べているか親たちが自慢していると伝えられている。なお、オーストラリアでは不当な転売価格を懸念した小売店「EB Games」が、リングフィット アドベンチャーを1度に購入できる数を2つに制限したと報じられている。

新型コロナウイルスがゲーム業界に及ぼす影響はゆっくり増大しており、特にハードウェアに関しては顕著だ。コナミは3月19日に発売予定だったミニゲーム機「TurboGrafx-16 mini」のリリースが遅延し、発売日は未定になると発表している。新型コロナウイルスの影響で「避けられない遅延」が発生したという。

その1カ月前のアウトブレイク初期には、Nintendo Switchに「アウター・ワールド」を移植している中国のデヴェロッパーであるVirtuosが、移植が無期限で遅延すると発表している。すでにハードウェア不足を経験していた「Oculus Quest」の生産も、新型コロナウイルスは遅らせている。こうなってくると、今年の発売が予定されている「Xbox Seriex X」と「PlayStation 5(PS5)」も遅れる可能性がある。

アリゾナ州にいるマクファーランドは、新型コロナウイルスのことをまだそれほど心配していない。買い物する際に不便を感じている程度だ。「(手に入りにくいのは)トイレットペーパー、除菌用ハンドクリーナー、そしてリングフィットです」と、彼は言う。

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