救急車を呼ぶ際、「近所迷惑になる」や「目立ちたくない」と行った理由で、「サイレンを鳴らさないでほしい」という要望が少なくないようです。サイレンを鳴らさずに来てもらうことは、可能なのでしょうか。

「緊急である以上、そこはご理解いただきたい」

 救急車を呼ぶ際、サイレンの音を気にする人がいるかもしれません。サイレンを鳴らさずに来てもらうことは可能なのでしょうか。

 結論から言えば、救急車はサイレンを鳴らさずに出動することはできません。なぜなら緊急車両として走行する場合には、サイレンを鳴らし、かつ赤色の警告灯を点灯しなければならないことが法律で定められており、サイレンの音量も一定の範囲で決められています。救急車が赤信号を進み、ほかの車両を追い越して現場に急行するのも、この要件を満たしてこそ可能。そもそも救急車は、そうした緊急性が高い場合に利用できるものです。


救急車は緊急出動時、サイレンを鳴らし、赤色の警告灯を点灯して走行する(画像:写真AC)。

 大阪府豊中市消防局によると、サイレンを鳴らさないでほしいというのは、「目立ちたくない、あるいは近所迷惑になるから、などと考える方が多いでしょう」といいます。

 同市が導入している救急車には、サイレンの音量を調整する機能もありますが、音量を下げるのは、搬送先の病院付近で入院患者に配慮しなければならない場合や、毎日の車両点検で鳴らす際など、特定のケースに限られるとのこと。出動時において、個人からの音量調整の要望には基本的に応じられないといい、「緊急である以上、そこはご理解いただきたい」と話します。

近所迷惑になるから通報がためらわれる…そんなときは?

 通報時に「サイレンを鳴らさないで来てほしい」との要望は少なくないようで、多くの消防当局のウェブサイトにおいて、それが不可である旨が説明されています。ある消防本部では、「通報時にサイレンを鳴らさないでと言ったのに、家の目の前まで鳴らしてきた」などと、後日に怒りの電話が消防署へ寄せられることもあると紹介。そのうえで「救急車はタクシーではありません」「本当に緊急性のある人のためにあります」としています。

 その一方、「救急車が近づいたときに手を振るなどの合図をし、隊員が現場の特定と周囲の安全を確認できればサイレンを停止する」「夜間などで交通量が少なく支障がないと判断されれば、音を小さくして走行する」などの対応を紹介しているケースもあります。

 ただ、なかには「目立ちたくない」「近所迷惑になる」との考えから、救急要請そのものをためらってしまう人もいるかもしれません。総務省消防庁によると、そうした場合は電話で医師や看護師などのアドバイスを受けられる「救急安心センター」(電話番号「#7119」)を活用してほしいとのこと。もしかすると、その症状が一刻を争うケースの可能性もあるからです。

 救急安心センターは、救急車の適正利用を促す目的で国が全国展開を推進しているものですが、総務省消防庁によると、隠れた重傷者を発見し、手遅れにならないよう救急搬送につなげることも重要な役割だといいます。