ボディ肥大化の功罪 理由は安全基準/食生活 ドライバー心理も影響 限界は近い?
もくじ
ー 成長するボディサイズ 理由は明らか
ー 道路はそのまま 死活問題
ー トレンドも影響 米国市場は特別?
ー ドライバーにも原因 メーカーの大盤振る舞い
ー 番外編1:英国の道路 どれほど広い?
ー 番外編2:アバルト124スパイダー vs ポルシェ911 カレラ4S
成長するボディサイズ 理由は明らか
車線をキープするのに苦労してはいないだろうか? スーパーマーケットの駐車場が狭すぎると感じたことは? ガレージに停めたらドアが開けられなかった経験は?
こうした経験があるとすれば、あなたはすでに肥大化を続ける21世紀の自動車世界の住人だ。
クルマが大きく、重くなり続けていることは明らかであり、いまやフォルクスワーゲン・ポロは、1974年登場の初代ゴルフよりも大きい。
そして、多くがその理由も理解している。オフセット衝突やサイド衝突、ルーフ衝撃テストといった、現代の厳格なクラッシュテストにパスするとともに、歩行者保護にも対応しなければならなくなった結果、クルマには十分な衝撃吸収性能を備えた、大柄なボディサイズが必要不可欠となっているのだ。

さらに、良くも悪くもクルマが肥大化を続けるもうひとつの理由は、われわれの食生活にもある。
第2次世界大戦以降、平均的な体格は大型化の一途を辿っており、健康的な食事によってますます身長が伸びるとともに、マクドナルドのようなファストフードが広く普及し、ひとびとの食欲を刺激することで肥満も進んでいるのだ。
そして、自動車メーカーがクルマ作りにおいて、こうしたひとびとの体格の変化を考慮していることが明らかとなったのは、1998年、当時欧州フォードで製品開発トップを務めていたリチャード・パリ―・ジョーンズが、先代モデルのエスコートよりも極端に大型化したボディで登場したフォーカスについて、その理由を説明したときだった。
体格の向上ももちろんだが、衝撃吸収のためにボディを長く、パッセンジャーのために全高を高くした場合、車幅もそれに応じて広げなければ、クルマのプロポーションは何だか奇妙なものになってしまうのであり、なかには(もしかしたらほとんどがそうかも知れないが)、必要もないのにボディ幅を拡大させているようなモデルも存在する。
道路はそのまま 死活問題
一方、道路幅そのものは昔からまったく変わっていない。最近、ある友人は、ロンドンのどこにでもあるような道で、ベントレーのコンチネンタルGTとレンジローバーがすれ違えなかったことが原因で、渋滞が発生するのを目撃しており、その渋滞の解消には20分もかかったと話してくれた。おそらく、この英国の首都では、こんな光景は日常茶飯事に違いない。
だが、ボディの肥大化に直面しているのは決してラグジュアリーモデルだけの話ではない。1974年の登場以来、いまでは7代目を数え、近く8代目へと移行する予定のゴルフは、アバが一世を風靡していた頃に比べ、169mmもそのボディ幅を拡大させており、おそらく、8代目もさらにワイドなモデルになるのだろう。
1779mmもの全幅を持つ7代目ゴルフは、ボディ幅が1830mmだった1973年モデルのフェラーリ・ベルリネッタ・ボクサーとさほど変わらぬまでに成長しており、現行ミニ・ハッチバックのボディは、1997年に登場した996世代のポルシェ911カレラよりも、わずか3cmほどスリムなだけなのだ。

小柄だと思われているマツダMX-5(日本名:ロードスター)でさえ、1973年モデルのポルシェ911 RSに比べれば若干幅広のボディを纏っている。
実際、50年以上にわたり拡大を続ける911のボディは、道路幅との闘いの歴史でもあった。1963年登場の初代のボディ幅が1610mmだった一方、最新の992では1852mmにまで達しており、これは先代991比でも44mmの拡大となる。
この911の肥大化は、運転好きにとっては死活問題であり、いまや、公道上でミスを許容するだけのマージンがほとんど残されていないため、ほとんどすべての歴代モデルに比べ、最新の992は扱い易くもなければ機敏でもない。
それでも、ポルシェでは、先代991のデビュー時と同じように、この最新の911はスラロームではこれまでのどの911をも凌駕しており、タイムを測れば、すべての911のなかで最速だと言うだろう。
トレンドも影響 米国市場は特別?
だが、そんなことは問題ではない。大きく寝かされたAピラーによって、1997年以前のモデルとは比べ物にならない程、コーナーのアペックスが見づらくなっており、実際の路上で、この最新の911を扱い難く感じさせている。
そして、この悪化した視界と、拡大したボディ幅は、衝撃吸収と向上するパッセンジャーの体格に対応すべくデザインされた結果なのだ。
デザイナーたちは、クルマの見事なルックスには大径ホイールが不可欠だと考えているが、同時にタイヤ幅も増やさなければ、まるでオートバイのタイヤのようになってしまうことから、必然的に大径ホイールとワイドなホイールハウジングはセットであり、さらに、相応の回転半径を確保するには、トレッドも拡げる必要がある。
そして、トレンドというものも無視する訳にはいかない。自動車メーカーはつねに他社の動向をチェックしており、トレンドに背を向けるなど経営責任の放棄に等しく、あるメーカーがモデルを大型化すれば、他社もそれに追随せざるを得ない。

時には、モデルチェンジにあたって、ボディ幅を拡大させないという勇敢なメーカー(新型イヴォークは旧型とまったく同じボディサイズに留まっている)や、プジョーやヴォクゾールが最近行ったように、ボディサイズを縮小するというケースさえ見られるが、多くの場合、クルマのボディサイズは拡大するばかりだ。
さらには、多くのプレミアムブランドやラグジュアリーブランドにとって、米国市場の存在もボディ肥大化の理由のひとつだろう。
英国の路上では大きく見えるかも知れないが、米国で見るレンジローバーは、それが都市部であれハイウェイであれ、決して大柄なモデルには見えず、それでも、フォードF-150やキャデラック・エスカレードに対抗しなければならない一方、米国市場で、レンジローバーのようなモデルは、ボディサイズの割りに高価なプライスタグを掲げていると見做されてしまっている。
ドライバーにも原因 メーカーの大盤振る舞い
だが、駐車のたびに悪戦苦闘しているようなドライバーにとっての希望もあるのかも知れない。
いたるところで、大きすぎるボディの弊害が明らかになり始めているだけでなく、CO2排出量を削減し、EVの航続距離を延ばすには、ボディサイズの縮小は必要不可欠な対応であり、フロント面積の拡大による空気抵抗の増大は燃費性能を悪化させるが、よりシンプルで繊細なデザインは、エネルギー効率を引き上げてくれる。
そして、ボディ肥大化の責任は自動車メーカーだけにあるわけではない。車両の大きさを誇るようなドライバーの心理が、その原因のひとつでもあるからだ。
さらに皮肉なことに、自動車メーカーは過去70年、ひたすらドライバーにより安価なコストで豪華なモデルを提供し続けてきた。

激しい市場の競争の結果、モデルチェンジをしても大幅に価格が上昇することはなく、その結果、われわれは新型が登場するたびに、同じ金額でより多くの鉄やガラス、プラスチック、ファブリック、そしてゴムといった材料を使ったモデルを手にしてきたのだ。
さらに、同じ1インチ(約3cm)でも、全長よりも全幅を広げるほうがはるかにコストが掛かっている。
全長を延ばしても、使用する鉄やカーペット、塗料やガラスの量はそれほど変わらないが、全幅を拡げるには、ダッシュボードや衝撃吸収ボディ、ホイール、タイヤ、サスペンションアームなどといったものも同じように拡大する必要がある。
つまり、マテリアルコストという観点から言えば、自動車メーカーのお陰で、われわれは大盤振る舞いを楽しむことができて来たのだ。
番外編1:英国の道路 どれほど広い?
驚くかも知れないが、2011年の情報公開請求に対して、英国高速道路管理局のジョナサン・ターリーが説明しているとおり、それぞれに区分された道路幅に対する厳密な規定など存在しない。
「道路幅を規定するような基準というものは存在しません」と、彼は話している。「それでも、道路設計にあたって参照すべきガイダンスやアドバイスというものがあります。道路幅というものは、想定される交通量や通行車両、その他の要因を勘案して決定しています。簡単に決められるようなことではありません」
さらに、こうしたガイダンスはオンラインでも参照可能だという。

2017年時点で、英国道路ネットワークの総距離は39万7000kmに達しているが、その83.7%がいわゆる幹線道路以外の道となる。高速道路はわずか3700kmに過ぎず、A級路は4万7000km、B級路が3万300km、そして、残り31万6000kmが分類されていない道路となる。
つまり、これが示しているのは、道幅わずか5.5mの一般的な住宅街路を含む、数多くの道幅の狭い道路が存在しているということだ。
高速道路管理局の指針では、高速道路の車線幅を3.65m、対面通行の1車線道路の幅を3.7m、その他の道路には3.65mの道路幅を推奨しているが、実際の道路幅は非常に多岐に渡っている。
番外編2:アバルト124スパイダー vs ポルシェ911 カレラ4S
多くが「なぜ?」と思うだろう。
ポルシェに問題があったわけではない。低走行でコンディションも良好だったが、最初にこのクルマを購入しようと言い出し、共同オーナーでもあった妻もわたしも、それほど運転することはなかった。
中年を迎え、人生のカンフル剤として手に入れたモデルであり、ショールームに置かれていたカレラ4Sのセクシーなリア(ワイドボディを持つ996カレラ4Sのリアは格別だ)に一目ぼれした彼女が、強く購入を勧めた1台だった。
911である必要はなかったが、妻から半分資金を出すから購入しようと言われて、ほかにどうすれば良かったのだろう?
だが、自宅周辺で感じるカレラ4Sの乗り心地はやや荒々しく、タイヤノイズが耳につくと同時に、321psのパワーで0-100km/h加速5秒のパフォーマンスをフルに発揮するには、このクルマのボディはやや大き過ぎた。
ハートフォードシャーに拡がるカントリーロードは、英国では一般的なものであり、ときに十分な道路幅と滑らかな路面に出会うこともあるが、サイクリストやモータリストであればご承知のとおり、ほとんどが非常に狭く荒れた路面で、まるで絵画のように美しい生垣や木の葉がドライバーの視界を遮るこうした場所では、911のドライビングを楽しむどころではなかった。
荒々しく、ときに不快にも感じる乗り心地のせいで、このクルマのステアリングを握る機会は少なく、さらに、本来911とは長距離向きのモデル(そうした場面ではロードノイズなど気にならない素晴らしい走りを味わうことができる)であり、地元を走り廻るようなクルマではないという思いに囚われることもあった。
だからこそ、心残りが無かったわけではないが、手放すことにしたのだ。

そして、新たに我が家にやってきたのがアバルト124スパイダーであり、サルディーニャ島で行われたアバルトのイベントで非常に楽しませてくれたこのクルマを探し出すべく、去年の12月、走行距離わずか37kmの登録済み車両の驚くようなオファー(ディーラーの年間販売目標を達成するために違いない)を見つけるまで、ときどき中古車情報のチェックを続けていたのだ。
33%ものディスカウントというこの魅力的なオファーのお陰で、フィアット124スパイダー同様、このクルマも英国試乗から撤退しようとしているという最近のニュースなど、ほとんど気にならなかった。
確かに、0-100km/h加速では911カレラ4Sよりも1.8秒遅く、その最高速もポルシェの280km/hには遠く及ばないばかりか、マツダベースのフィアットをベースにしたアバルトという、その出自もなんだかよく分からないモデルではある。
だが、リアを駆動し、合法的な速度域でコントローラブルなドリフト状態に持ち込むことのできるこのクルマのアバルト製エグゾーストからは、魅力的なサウンドが響き渡り、ポルシェよりもはるかに低い速度で、気持ちの良いドライビングの楽しみを味わわせてくれる。
そして、このクルマはポルシェよりもスリムなのだ。
確かにその差は大きくはなく、1829mmという911カレラ4Sの全幅よりも、89mmだけ狭い1740mmというものだ。それでも、現行ゴルフよりも49mm、ポロよりも11mm、そして、最新の大きくなりすぎた992型911よりも112mmも細身のボディを纏っている。
まさに、笑顔のダウンサイジングである。
