「俺のフレンチ」が原価率90%でも儲かる理由

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■飲食店の儲けは2割?

「飲食店って儲かるの?」、これは実によく聞かれる質問です。当たり前ですがあらゆる業界と同じで、「繁盛すれば儲かるし、赤字を垂れ流しているところもある」というのが、この問いに対する正しくもつまらない回答です。ただし、飲食店というのはお客の側の立場ではよく知っていても、その収益構造については意外にわからないようですので、今回はそんな数字について見ていきましょう。

飲食店にとって大きな支出と言えば、「人件費」と「食材費」です。人件費についてはおおよその目安は売上に対して30%程度というのが基本です。つまり、お昼に食べた1000円のハンバーグ定食に支払ったうちの300円は、料理人やホールスタッフのお給料になったということです。

もちろんその基本から外れることも多く、例えば自動販売機で食券を買うような牛丼店やラーメン店では、その比率を抑えるようにしています。あるいはビュッフェ(食べ放題)の業態も、食材にお金をかけざるを得ない分、人件費は低く抑えられています。考えてみれば、ビュッフェというのは、注文を取ったり配膳をしたりする手間が存在しないので、相対的には客席数に対するスタッフ数が少なく、人件費がかからないのです。

食材費の話は後ほど詳しく述べるとしますが、その比率(一般的には「原価率」と呼ぶ)も人件費同様30%がひとつのラインとされています。この他の支出としては、家賃が10%程度、水道光熱費と雑費などその他の経費を合わせたものが10〜15%程度かかってきます。つまり、支出の合計は80〜85%であることが一般的です。

裏を返せば、飲食店の利益率は15〜20%程度のことが多いのです。もちろん、開業して数年の店であれば、キャッシュフロー上では返済が、PL(損益計算)においては減価償却費が乗ってきますから、単純にその分が儲けとは言えませんが、返済や償却を終えればまずまずの収益性と言えるかもしれません。ただし、飲食店の廃業率は極めて高いので、最初の数年をサバイブすること自体のハードルが高いわけではありますが。

■「俺の」原価計算

食材や飲料にかけるコスト、すなわち「原価率」について、もう少し見てみましょう。メディアで見かけた方も多いかと思いますが、数年前から「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」といった店が注目されています(ちなみに企業名は「俺の株式会社」)。名物メニューである「牛ヒレとフォアグラのロッシーニ」という一品は、売価が1000円台前半ですが、噂では原価率90%とも言われています。同店の原価率は平均しても60%を超えるとされていて、それが人気の理由になっています。

利益率を重視するのではなく、お客を高回転させることで、トータルの利益額を確保するというのが同社の方針ですが、ここではその是非については触れません。注目したいのは、特に目玉商品に対して、教科書的な原価の「30%ルール」をまったく無視したことが、大ブレイクのきっかけとなったということです。

ちなみに、同店に限らずこうした圧倒的なコストパフォーマンスの良さを感じさせるというのは、最近の飲食店の定番の手法です。グラスからこぼれるくらいにスパークリングワインを注いだり、お客がストップをかけるまでイクラを皿に盛ってくれたり、鶏の唐揚げがたった100円で食べ放題だったりと、各店ありとあらゆる「お得感」でお客を惹き付けようとしているのです。

■凡作を量産する「30%ルール」の罠

こうした事例から学べることは、「バランスを意識しすぎずに、理想のゴールから逆算する」という姿勢です。原価率の30%という数値は過去の膨大なケースから導かれたある種の黄金律ですから、目安として機能することは間違いありません。しかし、最初にそのバランスを意識しすぎると、アウトプットがつまらないものになりかねません。

以前、料理の商品開発で2つの対照的なケースに立ち会ったことがあります。1つは大手外食企業の商品開発部による試作です。同社では30%に近い数値に定められた、原価に対する社内ルールがあり、メンバーはその数字を強く意識しています。例えばエビを使ったサラダを考える際には、「この小エビは1尾10円だから、この値段でサラダを売るためには10尾以上使うことはできない」という理屈になるのですが、こうしてレタスやチーズやトマトなどの原価を積み上げてできたサラダは、特に印象に残ることもない「普通の一品」になってしまっていました。

一方で、とあるワンマンオーナーの外食企業では、オーナー社長の「もっと迫力あるようなものをつくれ」というイメージから開発が始まります。現場の開発スタッフは、その理想を実現するような形で食材を入れ替えてみたり、あるいは別の調達ルートをあたってみたりして、何とか帳尻を合わせるように商品を完成させていきます。2社のやり方のうち、どちらのメニューの方がお客にとってのインパクトを感じてもらえるかは考えるまでもありません。

「バランス」というのは、大人になればなるほどその重要性を感じる大切なキーワードであるのは間違いありません。しかし、時にそのバランスから一旦外れて発想してみるということも、必要なのかもしれません。バランスを取ろうとすればバランスを失い、バランスを無視すればむしろバランスが取れるという、ある種の逆説を感じてしまうこともあるのではないでしょうか。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)