仕事の効率を上げる「横着技」7
残業する上司を横目にいつも定時退社。それなのに、仕事は必ず期限までにあげるという同僚はいないだろうか。もしかすると「要領のいいヤツ」と、職場ではいい目でみられていないかもしれない。
だが、『残業ゼロでも必ず結果を出す人のスピード仕事術』の著者で弁護士、経営コンサルタントの植田統さんは、そういう人こそが「できる人」だと話す。
「私は、決められた時間内で最大のアウトプットを出せる人が、仕事ができる人だと考えています。大事なことは、質の高い仕事をどれだけの速さで仕上げるかという結果であり、プロセスではありません。いまだ日本企業では、付き合い残業が蔓延していますが、20世紀型の古い仕事のやり方だと思いますね」
できる人は、時間はコストだという意識を持っている。そして、仕事を受けたときにどんなアウトプットを出せるかをまずイメージし、どう仕事を進めればいいのか、仮説を立てるのだという。
「できる人はまず結果から考えて、そこに至るためのプロセスを逆算する。それができない人との一番の違いではないでしょうか」(植田さん)
『最速で結果を出す人の「戦略的」時間術』の著者でコンサルタントの理央周さんも、「仕事とは成果」と植田さんに同調する。
「結果や成果を意識して仕事をする人は、スピードも速い。何を最優先に進めなくてはいけないかを把握し、自分の能力なら達成するのにどれくらいの時間がかかるかを理解しています。やりたいことはたくさんあるでしょうが、多くの人には何でもやれるほどの能力も時間もありません。結局、何をあきらめ、何を人にまかせるかを取捨選択して、大事なことを前に進められるかどうかなんです」
まず、仕事で目指す成果を明確に決め、そこに至るための道筋を考える。そのうえで時間をやりくりするのができるビジネスパーソンなのだ。具体的ノウハウについて、次項以降で説明していこう。
■1. つまらない仕事を断る
相手を気にしすぎるな!
時間をつくるには、究極的には仕事を捨てるか、任せるかしかない。取捨選択はどうすればよいのか。理央さんは、手順をこう説明する。(1)やるべき仕事をすべて書き出す。(2)そのうち捨てる、もしくは部下や外注など人に任せる仕事を決める。(3)残りの仕事に優先順位をつける。
「『TO DO』リストより、私はまず『DON'T DO』リストをつくるべきではないかと思います」
理央さんは、自分の仕事を重要度と緊急度の二軸に分類することをすすめる(図参照)。そのうえで、重要度も緊急度も低い誰でもできるような雑用を思い切って断る、もしくは誰かに任せるべきだと話す。
とはいえ、上司から頼まれると、なかなか断れないのが現実だ。
「まずは『わかりました』と一度受けて『しかし、いま私はこういう仕事を持っているので、おっしゃる期日までにやるのは難しいと思います』と説明する。『Yes,But』で対応しましょう」(理央さん)
植田さんも、無理な仕事を上司にふられたときは「できないことはできないとはっきり断るべき」という。
「相手がどう思うかを気にしすぎるのは『結果の出ない人』の共通点の一つ。できないことをできると言って、あとで『やっぱりできませんでした』というのがもっとも上司を困らせるパターンです」
仕事のできる人は、つまらない仕事を受けない雰囲気を普段から出すようにしている、と植田さんは話す。
「できる人は、どういう仕事をすれば自分が成長できるかという方向性をクリアにしています。そのオーラは周囲にも伝わり、『この人に小さな仕事を頼むのは悪いな』と思わせるのです」
■2. 4割手を抜く
完成度6割のベータ版でいい
真面目な人であればあるほど、完璧を目指しがちだ。だが、「一週間かけて出す100点の仕事」より、「1日で出す60点の仕事」のほうがありがたい、と植田さんは話す。
「状況は刻一刻と変化しており、完璧だと思った次の瞬間には条件が変わってしまう可能性もある。それならば、ソコソコの結果をスピーディに出したほうがずっといいんです」
フェイスブックの創設者、マーク・ザッカーバーグも「完璧を目指すよりまず終わらせろ」と話している。変化の激しい現代では、スピードが大きな要素なのだ。
ある事柄についての調査やデータを探すにしても同じだ。植田さんは「自分でおおよそこういうことだろうなという6割程度の確信が得られればそれでいい」という。
「日本人は完璧志向が強いから、6割と思っても客観的には8割に達していることが多い。ある程度の大雑把さが必要です。また、事実はとらえ方によって二面性があって、調査だけではいくら時間をかけてもそのすべてを明らかにはできない。それならば、手元に集まった情報で仮説を立て、次に進んだほうがはるかに効率的です」
理央さんは、「6割まで仕上げたら、そこから先は上司や同僚と相談せよ」という。
「やや粗いベータ版でもいいから、とにかく上司に提出してみるんです。上司がいろいろなアドバイスをくれたり、自分だけで考えていては思いつかないアイデアをくれるかもしれない。上司に聞きにくいようであれば、同僚でもいい。まわりの人をうまく使ったほうが早いし、いいものができる可能性も高いんです」
上司も、部下が出した仕事が30点以下なら論外だが、多少粗い程度で叱ってはいけない。早く成果を出すためにはそのほうが早道だということを理解しておく必要がある。
■3. 長い話をやめさせる
質問で切り返し、本題に戻す
仕事に集中したいときに限って、電話がかかってきたり、上司や部下から声をかけられたりして、集中を妨げられることはよくある。特に困るのが、一度話を聞いたが最後、長話が延々と続く人だ。集中が途切れるだけでなく、ダラダラと時間を浪費してしまう。こんなとき、いったいどうすればいいのだろうか。
「話が長い人は、前置きや説明が長かったり、話が横道にそれたりして、なかなか結論までたどりつかない人が多い。まず要件を聞くようにすることが第一ですね。でも、相手が目上の人であれば、なかなかそういうわけにもいかないので、話がそれたら質問でうまく切り返して、話を本筋に戻させる。『なるほど。それが先ほどの話につながるんですね?』という具合ですね」(理央さん)
仕事の邪魔を避ける方法はもう一つある。「一人になれる場所」をつくっておくことだ。
「外資系企業であれば、誰も入ってこられない部屋にこもることができる場合もありますが、日本企業ではなかなかそうはいきません。その場合は、会社の近くにお気に入りのカフェなどを見つけておく。集中力を持続させるには、落ち着ける自分の場所を持っておくことがとても有効です」(理央さん)
人間の集中力はピークに達するまでに20〜30分ほど時間がかかるといわれる。しかも、長くても1時間程度しか持たない(図参照)。途中で誰かに話しかけられて集中力が途切れると、ピークに達するまでにふたたび30分待たなければならないのだ。難しい仕事に取り組むなど、高い集中力が求められるときは特に、まず環境を整えておこう。
短時間でも集中力を高める方法として、理央さんはランチタイムの「昼寝」をおすすめする。
「睡眠時間が3〜4時間しかとれないと、どうしても昼食後の会議などでウトウトしてしまう。ランチタイムに15分ほど昼寝をすれば、効率的に仕事をすることができます」
■4. 躊躇なく捨てる
名刺の束も重要度でリストラせよ
植田さんは、物をなかなか捨てられない人には時間の使い方もうまくない人が多いと話す。
「机の上がいつもゴチャゴチャしている人は、自分の考えに固執しがちです。頭の中が整理されず、重要な情報が何かをよくわかっていない。身の回りも頭の中も、いま必要なものだけに絞っておくことが大事です」
なかなか整理できない物の典型が名刺だろう。いつかやろうと思いながら、名刺の束が積みあがっていく。理央さんは、もらったらすぐに“仕分け”するという。
「これから一緒にビジネスができるかという基準で、3つのレベルに仕分けします。今後ビジネスをする可能性が低い人の名刺を除き、後日、アルバイトの子にエクセルデータに落とし込んでもらう。整理・仕分けはすぐやるのがコツです」
理央さんのノウハウは名刺管理だけでなく、プリントアウトした書類の整理にも応用できそうだ。
■5. 「丸投げ」する
内容・目標・期限の指示を忘れずに
人を頼ることができず、すべて自分で抱え込んでパンクしてしまう人がいる。しかし、理央さんは、「うまく人に丸投げするべき」だという。
「ただし、丸投げにも『いい丸投げ』と『悪い丸投げ』があります」
何の説明もせずに部下へ放り投げ、指示も朝令暮改。これが悪い丸投げだ。いい丸投げには、「いつまでに、何を、何のために」という3つの要素が入っている。
たとえば、「この企画のアイデア出しを来年のキャンペーンの素案にしたいから、来週末までに一度出してくれる?」といった具合に、内容と目標と期限がきちんと入った指示をするのだ。
「合わせて大事なのが、絶妙なタイミングで念押しをすること。部下の仕事の工程を把握し、修正がきかなくなる前のタイミングで進捗状況と内容を確認しましょう」
工程が多岐にわたる複雑な仕事であれば、部下にスケジュールをつくらせ、共有しておけば安心だ。各工程の終了予定の数日前に、「いまどんな感じ?」と声をかけよう。
■6. メールは3行で返す
込み入った話は電話が早い
朝、出社してパソコンを開くと、社内外からのメールが山ほど届いている。一つ一つに目を通し、丁寧に返信をしているうちに午前中が過ぎ去っていく――。メールは便利なツールだが、ともすれば手間をとられるというデメリットもある。
植田さんは、「メールは短くすませるべき。3行でもいい」と説く。
「日本では時候の挨拶から始まって、相手に謝礼や社交辞令を書き連ね、それからやっと本題というメールが少なくありません。メールはもっとも簡便な通信手段です。あれこれ手間をかけては、簡便でなくなってしまいます。それに長いメールは、相手が読んでくれません。伝えるべき事項を簡潔に書けばいいんです」
とはいえ、明らかに目上の人や顧客など、簡潔にすませにくい相手もいる。その場合はどうすればいいか。
「電話をするか、直接会って話をするべきでしょう。そういう人にはメールを使うこと自体が適切でない。でも、一度会って話をすれば、多少簡潔なメールを送っても別に失礼ではないと思います。あと、込み入った話や双方向で話し合う必要がある案件の場合も電話がいいでしょう。メールでゴチャゴチャ書くと、誤解される可能性もある。電話のほうがよほど早いということもあるんです」
意外だが、外資系のエグゼクティブには「電話魔」が多いという。理央さんがIT系企業でマーケティング・マネジャーをしていたとき、MBA保持者のアメリカ人上司は定例会議の前後などに、理央さんに頻繁に電話をかけてきていた。
「理由を聞くと、『会議じゃ詰め切れない詳細な部分については、君に聞くのがいちばん早いから』と言われました。大事なことは、短い時間で密度の濃いコミュニケーションをとること。伝える相手と内容を考え、メールがいいのか電話がいいのか、よく考えて判断するべきです」
■7. 9割パターン化する
“想定外”を2日続けない
時間をつくり出すのは、日々の小さなロスをなくすことの積み重ねだ。理央さんは、ゴミを出すときすら効率的に動けるように頭を使っている。
「小さなことですが、机の上の空き缶やペットボトルを捨てるときは、ある程度たまってから、トイレに立ったときやコーヒーを淹れたいときに合わせて、それぞれ分別されたゴミ箱に捨てます。仕事をするときも、パソコン、文房具、資料を手の届く範囲にあらかじめ準備しておきます」
植田さんは、「生活の90%をパターン化することで時間を節約する」という。たとえば植田さんの場合、(1)朝6時に起床し、犬の散歩に出る。食事をして歯を磨き、7時過ぎには家を出る。(2)電車で新聞を読み、オフィスの最寄りのスターバックスでメールチェック、読書、原稿執筆など1時間ほど自分のために時間を使う。(3)9時前にオフィスへ。スケジュールをチェックし、1日の予定を大雑把に組み立てる。(4)予定に従って仕事をこなす。(5)18時半から19時で仕事を終了。帰宅し、風呂、食事。21時以降は読書、ジムなど自分のための時間にあてる。(6)23時就寝「工場の作業といっしょで、同じことを繰り返すと効率も上がってきます。週末でも、起きる時間と寝る時間は大幅には変えません。自分のための時間を少しでもつくり出せるように工夫しています」(植田さん)
とはいえ、仕事終わりに飲みにいくこともあれば、休日にゴルフにいくこともあるだろう。そうなれば当然パターンは崩れるが、植田さんはそういう日を2日続けないようにしているという。
「パターンを堅苦しく考える必要はなく、大枠さえ守っていればいい。ただし、いま自分が優先しなくてはいけないことは何かをよく考え、そのための時間を割くということを意識したほうがいいでしょう」(植田さん)
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弁護士、国際経営コンサルタント。
東大法学部卒業後、東京銀行、アリックスパートナーズなどを経て、現在、南青山 M's法律会計事務所に所属。
コンサルタント、講師。
ジュピターテレコム、アマゾンなどでマーケティングに従事。2011年、マーケティングアイズを設立し、代表を務める。
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(田中裕康=文)
