4月から全世界に衝撃を与えているハンタウイルス。アメリカでは41人が「感染リスクが極めて高い」として42日間の監視対象になった(CDC 米疾病対策センター)。これは世界を覆いつくしたコロナ以来のパンデミックの始まりなのか。

【映像】ハンタウイルス感染者が乗っていた船(実際の様子)

 事の発端は4月1日。オランダ船籍のクルーズ船「MVホンディウス(Hondius)」は全長107m、乗客定員約170人の中型船。南米アルゼンチン最南端の港・ウシュアイアを出港し、南極大陸やフォークランド諸島を巡るおよそ1カ月の航海になる予定だった。乗船していたのは23カ国から集まった乗客・乗員あわせて147人。

 4月11日、異変が起きた。オランダ人の高齢男性が船内で亡くなったのだ。男性は呼吸困難を起こしていた。最初の感染者だと考えられているが、検査を受けることなく船の中で死亡した。

 4月24日、亡くなった男性の妻が、夫の遺体とともに大西洋の英領セントヘレナ島で下船。航空機で南アフリカ・ヨハネスブルクに向かった。すると2日後、男性の妻がヨハネスブルクの病院で亡くなった。のちの検査でハンタウイルス陽性と判明した。

 5月2日、航海を続けていたホンディウスの船内でドイツ人女性が亡くなった。こちらもハンタウイルス感染が確認され、死亡者は3人になった。

 ホンディウス号は、5月10日、スペイン領のテネリフェ島に到着。クルーズ船で最初の死者が出てからおよそ1カ月後、すべての乗客が下船した。日本人1人を含む乗客らは下船後、各国のチャーター機で順次移送された。外務省によると、この日本人はイギリス国内で最大45日間の健康観察を受け、その後日本に帰国する予定だという。

致死率は最大50%にも、ハンタウイルスの特徴

 WHOは死亡者は3人、感染者は8人と発表(5月16日時点)。そもそもハンタウイルスとは何なのか。

 関西医科大学附属病院 呼吸器・感染症内科の宮下修行医師は「潜伏期間は長いのが特徴。南米型が大体1週間から6週間、いわゆるアジア型が10日から20日。どっちにしても長い。(過去には)アウトブレイクを起こしている。南米アルゼンチンとかチリで。(ネズミの)フンとか尿とかが乾燥して舞い上がる。風が強いなどさまざまな気象条件が一致した時、ウイルスがたくさんいる時に発症する」と解説する。

 ハンタウイルスは主にネズミのフン・尿・唾液が乾燥して舞い上がった粉塵を吸い込むことで感染する。潜伏期間は1〜6週間、最長で42日で、感染力は高くはないとされる。

 ハンタウイルスは通常「ヒトからヒト」へ感染しないと言われているが、例外が南米に存在する「アンデス型」だ。症状は発熱や咳、嘔吐や下痢を起こし、急速に症状が進行し、呼吸不全で死亡することも。致死率は最大50%にも及ぶ。承認された治療薬もワクチンもない。

「特効薬がありません。ワクチンもありませんので、基本的には対症療法になる。日本のような高度な医療が受けられるところでは致死率は下がる」(宮下医師)

感染者が増える可能性、募る危機感

 国の対応はさまざまだ。WHOのテドロス事務局長は5月12日の公式声明で「現時点では、より大規模な感染が始まっている兆候はない。ウイルスの長い潜伏期間を考えると、今後数週間で感染者がさらに増える可能性がある」と言及 。CDC米疾病対策センターのバタチャリヤ所長代理は「パニックを起こしたくない。人から人への感染は、まれだ」と話している。

 米保健福祉省は「帰国した米国人17人は、ネブラスカ州などの医療施設で臨床評価を受ける」と発表。しかしその後、集団感染が特定される前に帰国した乗客や、症状のある患者とフライトで同乗した人など、監視対象は41人に増えた。

 フランスでは、下船後、パリに向かうチャーター機内で1人が発症。フランス人の乗客5人を隔離すると発表した。フランスのリスト保健相は「重要なのは初期の段階で対応し、感染の連鎖を断ち切ること」と述べ、陽性と判定された乗客との接触者22人を特定し、健康状態の監視を続けている。

 では、日本はどうなのか。5月12日、検疫所はポスターを掲示するなどしてハンタウイルスの注意喚起を開始した。入国者で体調不良がある人には、ネズミとの接触を確認したうえで、医療機関の受診を勧める対応がされている。

 ホンディウス号で最初の死亡者が出てから1カ月以上経過してからの対応だ。木原稔官房長官は5月11日、「現時点において我が国に直ちに大きな影響が及ぶ状況にはない」とし、上野厚生労働大臣は5月12日、「関係各国にて感染拡大防止の対応がとられている。政府からの情報発信を注視するなど、冷静な対応をお願いしたい」と述べた。

「日本にハンタウイルスが生息する個体がいない。ただ、持ち運び込まれて日本で生息したらこれは危なくなる。本当の感染対策は中国がやっていたようなこと。ロックダウンして全く出られないようにする。でもそれをしたら社会経済が動かないので、ある程度の落としどころをつけると蔓延するのは仕方ない」(宮下医師)

脳裏をよぎる6年前の「ダイヤモンド・プリンセス号」

 しかし、私たちには忘れられない記憶が未だ鮮明に残っている。6年前のあの時も政府はこう言っていた。2020年1月、新型コロナが武漢で確認された直後のことだ。

「現時点において、限定的なヒト→ヒト感染の可能性は否定できないが、持続的なヒト→ヒトへの感染の明らかな証拠はない。国民の皆様におかれましても過剰に心配することなく、風邪やインフルエンザなどと同様、多い時期でもありますから咳エチケット、手洗いなど通常の感染対策をとっていただきたい」(加藤勝信厚生労働大臣・当時)

 私たちの記憶は、あの時、その「大丈夫」の先に何が起きたのかを知っている 。

 ダイヤモンド・プリンセス号は、横浜を出発し、アジアを巡るクルーズ航海中だった。1月25日、香港で1人の乗客が下船。その男性は2月1日、新型コロナウイルス陽性と判明する。これが、あの悲劇の最初のシグナルだった。

 2月3日、ダイヤモンド・プリンセス号は横浜港に帰港。乗客乗員3711人、56の国と地域の人が乗船していた。日本政府は検疫法に基づき船内検疫を開始。乗客たちは、客室での「14日間の隔離生活」を強いられた。

 2月5日の最初の検査で10人が陽性。2月7日には61人、2月10日には135人と、数字は日に日に膨れ上がっていった(厚生労働省による)。検疫官・厚労省職員・医療チームの中からも感染者が確認された。

 CDC米疾病対策センターは「個人間の感染を防ぐには十分ではなかった可能性がある」と指摘。アメリカは自国民を強制帰国させ、テキサスの基地などで14日間隔離した。韓国、香港、オーストラリア、カナダ、イスラエルは、帰国希望者を自国のチャーター便で帰国させた。つまり、日本の検疫を問題視していたのだ。

 ダイヤモンド・プリンセス号は最終的に、乗客乗員3711人のうち陽性確認が712人、死亡が国内で13人となった。それは、日本国内における新型コロナの「最初の大規模クラスター」だった 。あの時の「3711人」と、今回の「147人」は規模が違い、ウイルスの種類も違う。しかし、クルーズ船での集団感染という点では同じだ。

医師が鳴らす警鐘「はしかの方が危ない」

 ホンディウス号がテネリフェ島に着いたのと同じ5月11日、台北市が市内全域を対象とするネズミ一掃作戦を開始した。きっかけは今年1月、25年ぶりにハンタウイルス感染者の死亡が確認されたことだった。台北市の蒋万安市長は「感染が拡大しているわけではなく、過度に恐れる必要はない。ただ、ネズミを根絶させることは、必要だ」と述べた。

「基本が動物→ヒト(感染)で、ヒト→ヒト(感染)は稀。今回みたいに条件が整ったところで集団感染を起こして、集団感染というのも数年に一回しか起こらないようなものが今回起こっているだけ。だから過度に恐れないということ」(宮下医師)

 さらに、危惧すべきなのはハンタウイルスだけではないという 。

 「はしかの方が危ない。はしかもインバウンド。外国人の人が増えれば増えるほど、はしかが増える。感染力がめちゃくちゃ強い。95%の人がワクチンを接種していたら集団感染を防ぐことができる。95%切っていますから、広がります」と警鐘を鳴らした。

(『ABEMA的ニュースショー』より)