親が長男を優遇する「長男教」。きょうだい間の大問題にも発展しかねない長男教だが、長男やその周囲にどのような影響を及ぼすのだろうか。

【映像】「財産は全てお兄ちゃんに」長男教を描いた漫画

 ニュース番組『わたしとニュース』では、この長男教の影響について、拓殖大学政経学部の佐藤一磨教授の見解を交えつつ、エコノミストの崔真淑氏とともに深掘りした。

◾️背景にある「儒教」と「戦前の民法」と「男児選好」

 きょうだいの中で長男を圧倒的に優遇して格差を作ってしまう「長男教」。こうした今なお残っているこの価値観はどういう背景で生まれたのだろうか。佐藤教授は次のように語る。

「日本は元々儒教の影響が強くて、儒教では女子よりも男子を重視する傾向がある。それに加えて第2次世界大戦前に、日本の民法では『長男に全ての財産を存続させる』といったような部分が法的にある。その影響で男の子かつ一番初めに生まれた子が家系の中では重要なんだといった文化的な感覚が残っている」(佐藤教授、以下同)

 そして、長女より長男が優先されたのは、儒教以外にもある傾向が影響したという。

「男児選好の影響が強いのではないかと思う。男の子の方は自分の家庭を持って、しかもこの家を継ぐかもしれない。どちらかというと男の子に投資をした方が一家としてもプラスの側面が大きいという部分が働いていくのではないか」

◾️「年収が4.4%高い」長男プレミアムと配偶者の幸福度低下

 こうした長男への投資が今も一定残っていることは、あるデータからも読み取れるという。

「ある研究では、2000〜2012年までの調査データを使って見ていくと、依然として長男の方が学歴が高い。その結果として、他のきょうだいよりも4.4%ほど年収が高くなる傾向がわかっている。家庭の中で子どもの教育に使えるお金というのは限られているので、相対的に多くのお金が長男にいってしまうと、少ないお金で他のきょうだいの教育投資を行わなければならない。いわゆるきょうだい間の学歴の格差につながってしまう恐れがあるのではないか」

 長男優遇の教育方針は、他のきょうだいの幸福度を下げる危険性がある。さらに、もう一つ幸福度を低下させる恐れがあるという。

「長男と結婚した家庭の傾向を見ていくと、長男の両親に対して、お金の面ではないが、生活の面でいろいろな支援を行う。長男は学歴は高いかもしれないが、親の面倒を見るというのがセットになってきてしまって、このマイナスの影響が大きくて、その結果として長男と結婚された女性の幸福度が下がってしまうということが見られる」

◾️企業経営にも潜む“長男教”のリスク…業績・株価が良かったのは「婿養子」企業

 長男教は家庭だけでなく、企業経営においてもリスクを生むという。

「ファイナンスの研究、しかも世界トップ3に入る超有名な学術雑誌に掲載された論文があり、世界中でいろいろな創業家系がずっと続いている企業があるが、日本だけすごく業績がいいままの創業家系の企業が多いと」(崔氏、以下同)

「他の国と違って、婿養子、つまり長男に継がせる、血のつながりありきではなく、あえて外からの優秀な人を迎える婿養子政策を取っていたからではないかと。実際にデータで検証すると、本当に婿養子企業ほど業績、株価が良かったという結果が出た。多分、昔の経営者の人たちも『長男教はまずいんじゃない』と思っていた人がたくさんいたはず。それをそうさせないために、あえて婿養子を取っていたという。今でもそういう料亭があるのを知っていて、あえて『うちは婿養子しか取りません』と言っている」

 海外の研究でも、経営者を血縁の長男にこだわると経営悪化のリスクがあると発表されている。

「なんでもかんでも長男って思わないでほしい。現代は養子だけでなく、娘に継がせたり、兄弟みんなで競争させることもあり、私はすごくいいことだと思っている」

 さらに、崔氏は韓国の企業の状況についても触れた。

「最近韓国株が上がっているが、それはコリア・ディスカウントがなくなりつつあるからだと言われている。以前は財閥が長男教でバチバチに固めて、血縁の人ばかりに継がせるのが当たり前だった。でもそれをなくして優秀な人をどんどん入れようとするのが起こりそうだという期待もあって株は上がっている。だから、優秀な人をどんどん入れようとすること自体は本当にいいことが検証されている」

◾️「無意識の偏り」からのアップデート

 戦前からの名残を含んだ「長男教」という価値観をアップデートしていくにはどうすればよいのか。佐藤教授は、「教育無償化も一つの有効手段。親が子の教育費の配分を気にしなくてもいい状況が生まれる可能性がある」と指摘している。

 一方、長男教を描く漫画『兄ばかり大事にする母』の著者・人間まお氏は「『昔からそうだから』という価値観で我慢することが当たり前になってしまう家族もあると思う。家族だからこそ、無意識の偏りや思い込みに気づくことが大切だと伝えられたらと思っている」と語る。

 これを受けて、崔氏は「やっぱり無意識の偏りで『長男教が当たり前だ』って思っているお母さんが同じことするって本当に起きている。それをやめようという人もいると思うが、客観的に見て自分はどうなのか、また、自分自身も誰かに相談することは大事かもしれない」とした。

(『わたしとニュース』より)