(※写真はイメージです/PIXTA)

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ゴールデンウィークが終わると、心身の不調を訴える、いわゆる「5月病」の若手従業員が増加します。経営者のなかには「甘え」だとして厳しく接する人もいますが、そこには組織の問題、マネジメントの問題が潜んでいるケースが多いのです。特定社会保険労務士の山本達矢氏が、5月病を訴える従業員への接し方や、予防策について解説します。

ゴールデンウィーク明けに起こりやすい「5月病」

ゴールデンウィーク明けになると、経営者からこんな声が聞こえてきます。

「新人が急に元気をなくした」

「休憩中も1人でいることが多い」

「連休明けから欠勤が増えた、けしからん」

「5月病なんて甘えでしかない!」

一方で、若手社員にも不満はあります。

「入社して1ヵ月、ずっと緊張していた」

「相談したいけれど、上司はみんな忙しそう」

「毎日怒られて気持ちが滅入る」

「自分はこの職場に合っていない気がする…」

「5月病」は病名というより、4月からの環境変化による心身の不調を表す言葉として使われます。新入社員、異動した社員、昇進した管理職、転職者などに起こりやすく、文字通りゴールデンウィーク明けに起こりやすいのが特徴です。

実際、5月病は決して一部の人だけの問題ではありません。法人向けフードデリバリーサービスを展開する「株式会社くるめし」が、運営サービス「くるめし弁当」「シェフコレ」の会員向けに実施した「新入社員研修および社内コミュニケーションに関する調査」※1では、「五月病のような症状を感じたことがある」人は全体で30.4%、20代・30代では38.5%にのぼっており、「上司とのコミュニケーションがうまくいかなかった」ことを原因に挙げる割合が41.2%、業務過多が40.9%と高くなっていることがわかりました。

さらに、マイナビが実施した「【正社員2万人に聞いた】ゴールデンウィーク休暇と五月病に関する調査2026年」※2では、GW休暇の長さと働くモチベーションへの影響として、「連休が長い方が仕事のモチベーションが上がる」と感じる人が33.0%いる一方で、「連休が長いと仕事復帰が大変でモチベーションが下がる」と感じる人は37.1%とやや多く、20代は「上がる」と回答した人が36.2%と各年代の中で最も高い一方、「下がる」との回答も26.2%あり、4人に1人はモチベーションの低下を感じているという結果になっています。また「5月病が原因で転職を考えたことがあるか」との問いに、5月病経験者の20代の41.6%が「ある」と回答しています。

以上から、5月病は単なる気分の問題ではなく、企業にとっても重要な経営課題であることが見て取れます。

筆者も社会保険労務士として企業から相談を受けていますが、この時期の問題は単なる「本人の気持ちの弱さ」では片づけられないという印象です。むしろ、会社側の初期対応によって、早期回復につながるケースもあれば、休職・退職・労務トラブルへ発展するケースもあります。

経営者の「言ってはいけない一言」

5月病の難しさは、本人も自分の状態をうまく説明できないことにあります。具体的には下記のようなものが挙げられます。

●こんな日々が一生続くのかと思い、落ち込む

●入社前に聞いた業務内容と実際の業務が異なり、困惑している

●上司に壁を感じてしまい、質問しづらい

●同期と比較して、自分1人が遅れているように感じる

●注意されてショックを受けた(人格否定のように受け止めている)

●生活リズムが変わり、ずっと睡眠不足

●職場の雑談に入れず、孤立感を感じる

理由は複数あり、自分ではどうしようもない感覚と日々の仕事が悪循環を生むこともあります。

一方で経営者や上司が何気なく言った一言が、問題を大きくすることがあります。具体的には、下記のようなものです。

「気合いが足りないのでは?」

「学生気分が抜けていないよ」

「昔はもっと厳しかった」

「他の新人に比べて君だけが遅い」

「部署のメンバーに迷惑がかかっている」

言った本人は何気なく放った言葉かもしれませんが、体調不良を感じている社員に使うと、本人をさらに追い詰めたり、ハラスメントと受け取られたりするリスクがあります。

では、どう言えばよいのでしょうか?

大切なのは、「責める」のではなく「確認する」ことです。

「最近少しつらそうに見えますが、寝られていますか?」

「業務量や人間関係で困っていることはありますか?」

「最近残業が多いですが、業務過多ではないですか?」

このような言い方であれば、会社が一方的に責任を負うという意味ではなく、必要な配慮を検討する姿勢を示すことができます。

「5月病=社会人失格」ではない

5月病のような不調を感じる人も「自分は社会人失格だ」などと決めつける必要はありません。

環境が大きく変わった直後に心身が疲れるのは、珍しいことではありません。突然無断欠勤をしたり、退職代行を利用したりする前に、できる範囲で会社に状況を伝えることも大切です。

「今の自分では業務量が多く、少し見直してもらえませんか?」

「思っていたよりも大変で、正直、寝られないこともあります」

「皆さん忙しそうで質問したくても声が掛けられません。質問の時間を設けてもらえないですか?」

本人から情報がないと、会社も対応ができません。もちろん、すべてを詳しく話す必要はありませんが、「いま、何に困っているのか」を少しでも伝えることで、不明点の確認、業務量の調整、教育方法の見直しなど、選択肢が広がります。

5月病対策は「4月の受け入れ時点」から始まっている

5月病対策は、ゴールデンウィーク明けに慌てて行うものではありません。4月の受け入れ時点から始まっています。特に効果的なのは、入社後1ヵ月以内の面談です。

「仕事には慣れてきましたか?」

「入社前のイメージと違った点はありますか?」

「質問しづらいことはありませんか?」

「困ったときに誰に相談するかわかっていますか?」

このような面談を、評価面談ではなくフォロー面談として行うことが重要です。評価される場だと思うと、社員は本音を隠します。また、上司に対する教育も必要です。若手社員の離職やメンタル不調は、本人の問題だけでなく、上司の関わり方によって大きく変わります。特定の部署、特定の上司にだけ退職が続く場合は、本人ではなく、上司に原因があることも多いといえます。

従業員の採用コストについては、人材関連の企業が独自の調査報告を掲載していますが、1人当たり100万円前後が多いです。もしせっかく入社した従業員が脱落すれば、採用にかけたコストを無駄にすることになってしまいます。

5月病は「組織を反映する鏡」でもある

5月病を「甘え」と切り捨てるのは簡単です。しかし、社労士の立場から見ると、5月病は社員個人の問題だけではなく、会社の受け入れ体制、教育体制、相談体制に問題があるケースも見られます。

もちろん、会社は学校ではありません。すべての不安を取り除くことはできませんし、社員にも仕事に向き合う責任があります。しかし、社員の不調を早い段階で拾い上げることは甘やかしではありません。むしろ、人材不足の時代における重要な労務管理です。

5月病は、本人にとっては「この会社でやっていけるか」というサインであり、会社にとっては「この人をどう育てるか」というサインです。同時に経営者にとっては「自社のマネジメントが今の時代に合っているか」を見直すサインでもあります。

「甘えかどうか」を判定する前に、まずは話を聞きましょう。

「辞めるか続けるか」を迫る前に、働き続けるための選択肢を探しましょう。

「最近の若者は…」と言う前に、自社の受け入れ方を振り返ってみましょう。

5月病への対応で問われるのは、若手社員の適応力だけではありません。会社側の聞く力、整える力、育てる力も問われているのです。

※1 株式会社くるめし「若手社員の「五月病」対策に求められるのは「社内コミュニケーション」!?「五月病」を感じたことのある20代・30代は約40%」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000165.000007949.html)

※2 株式会社マイナビ 「【正社員2万人に聞いた】ゴールデンウィーク休暇と五月病に関する調査2026年」(https://www.mynavi.jp/news/2026/04/post_53155.html?utm)

山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士