『風、薫る』写真提供=NHK

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「This is not nursing(これは看護ではありません)」「try again」

参考:『風、薫る』“正しくない”主人公たちだから描ける看護 “道徳ドラマ”にはしない挑戦的試み

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』でバーンズ(エマ・ハワード)に何度も何度も言われ、文字通り訓練(トレインド)されてきたりん(見上愛)や直美(上坂樹里)たちは、第7週「届かぬ声」からいよいよ次のフェーズ・帝都医大病院での現場研修をスタートさせる。  場所が変われば、出会う人たちも増える。本稿では、帝都医大病院にいる新たな登場人物たちを紹介していきたい。

●腹の底が見えない院長・多田重太郎(筒井道隆)

 多田重太郎は、りんたちが実習を行う帝都医大病院の院長だ。“看護”については、医者である多江(生田絵梨花)の父がそうだったように、現場にいる人間でもその存在を軽視している人が多い。多田が院長となっている自分の病院で実習を受け入れるということは、“看護”に一定の理解はあるようだが、本当のところは分からない。それは、演じる筒井道隆がイメージを覆す演技を見せるからだ。

 筒井の朝ドラ出演は『かりん』(1993年度後期)、『私の青空』(2000年度前期)以来、3度目となる。『私の青空』では、ヒロインのなずな(田畑智子)の婚約者だったが、突然彼女の前から姿を消す健人を演じ、物語のキーパーソンになった。ボクシングジムでチャンピオンになるためにトレーニングをしていた健人はなずなと再会し、息子「太陽」が生まれたことを知り、タイトルを獲得するまでに至る。何かとなずなには迷惑をかけ続け、漢気があるがヘタレというギャップが魅力的だった。

 『風、薫る』では、当時の“看護”に対する偏見が随所に描かれてきた。多田は何を思ってりんたちを病院で受け入れたのか。新たな“現場研修編”では、その思惑がキーポイントのひとつになるかもしれない。腹の底が見えないミステリアスな部分を、筒井がどのように演じていくかに注目したい。

●病院を守ることへの意識が強い副院長・渡辺行成(森田甘路)

 本作が朝ドラへの初レギュラー出演となる森田が演じるのは、事務能力に長けている副院長の渡辺行成。出演にあたり、『とと姉ちゃん』(2016年度前期)に出演した際、自分の実力不足を痛感し「『これが最初で最後の朝ドラ出演になるんだろうな』と凹んだ記憶があります」とコメント。そこから「約10年……俳優続けてきて良かったです」(※1)と気合い十分だ。

 マスコットのような個性的な雰囲気で、周囲を魅了する森田。彼と医療モノといえば、シーズン1では新人研修医、シーズン2では外科医として成長した姿を見せた『ブラックペアン』(TBS系)の田口公平役が思い浮かぶ。血が苦手という医者としては致命的な弱点を持っていたが、彼の優しげな様子は、スリリングな『ブラックペアン』において“癒やし”の存在になっていた。

 クセの強そうな医者たちが集まる『風、薫る』では、森田がどのような存在になっていくのかに期待している。

●りんたちと度々対立する外科の助教授・藤田邦夫(坂口涼太郎)

 教授に次ぐ外科の助教授・藤田邦夫を演じるのは、本作が朝ドラ5作目の出演となる坂口涼太郎だ。幼少期に見たミュージカルに感銘を受け、ダンサーとして森山未來主演・演出のダンス公演『戦争わんだー』に出演しキャリアをスタートさせた坂口は、独特な雰囲気でありながら、どんなテイストのドラマにも馴染む確かな演技力でさまざまな作品に出演している。

 『らんまん』では、本家であるタキ(松坂慶子)や万太郎(神木隆之介)を快く思わず、見下す態度をしている分家メンバーの1人・伸治として出演。ヒール役でありながらその存在感ある演技が話題となり、SNSでは「分家ーズ」として親しまれた。

 本作で演じる藤田は、坂口本人も「いい薫りではないかもしれません」(※2)とコメントを寄せている通り、なかなかの“嫌味な奴”のよう。だが、日本で初めてのトレインドナースとして一歩を踏み出し始めたりんたちが壁にぶつかるのは当然のことだ。坂口は、りんたちの前に最初に立ちはだかる壁としてどんな演技を見せてくれるのか。

●りんたちの“看護”を冷静に見ている外科助手・黒川勝治(平埜生成)

 外科助手の黒川を演じているのは、朝ドラへの出演は3度目となる平埜生成。『虎に翼』(2024年度前期)では、寅子(伊藤沙莉)の同僚であり、朝鮮で偶然出会った崔香淑(ハ・ヨンス)と結婚した汐見を、『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)では、3代目のヒロイン・ひなた(川栄李奈)の同僚で、のちにひなたの親友である一恵(三浦透子)と結婚する榊原を演じた。

 どちらも心優しいが気の弱いところがある役どころだったが、本作で平埜演じる黒川がりんたちに向ける視線は、やや厳しそうだ。

 黒川は役職としては、ドイツに留学経験のあるエリート医師で教授の今井益男(古川雄大)、助教授の藤田に次ぐNo.3。看護への逆風が強い中、1人くらいはりんたち新人ナースたちに寄り添ってくれる立場の人間がいてくれることを期待しているのだが、平埜は黒川をどのように演じるのだろうか。

 第7週の予告編では、まるで『白い巨塔』(フジテレビ系)を思わせるように今井を先頭にして並び、威圧感を見せる医師たちの姿が一瞬見られた。新たな舞台へと歩を進めたりんと直美たちに、彼らはどのような影響を与えていくのか。私たちがちょっとハラハラしながら彼女たちを見つめる日々は、まだ続きそうである。

参照※1 https://realsound.jp/movie/2026/02/post-2315960.html※2 https://realsound.jp/movie/2026/02/post-2315874.html

(文=久保田ひかる)