準決勝第2レグで決勝弾のサカ(7番)。大仕事をやってのけた。(C)Getty Images

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 欧州の頂点へ――その扉は、確かに開かれた。

 現地5月5日、チャンピオンズリーグ準決勝第2戦。アーセナルはホームのエミレーツ・スタジアムでアトレティコ・マドリーと対戦し、1−0で勝利した。2戦合計2−1で、実に20年ぶりとなる決勝進出を決めた。

 この夜を語るうえで、まず触れなければならないのは、試合前から漂っていた独特の高揚感だろう。スタジアム周辺には試合開始前からアーセナルサポーターが詰めかけ、チームバスが到着する頃には、赤く染まった空気と大歓声が一帯を包み込んだ。

 発煙筒の煙、絶え間ないチャント。そのすべてが選手たちの感情を揺さぶる。試合後にデクラン・ライスが「あんな光景は見たことがない」と語ったように、この日のエミレーツは、すでにキックオフ前から特別な夜であることを予感させていた。

 その空気を、指揮官ミケル・アルテタは長い時間をかけて育ててきた。就任以来、彼が繰り返し語ってきたのは、サポーターとの一体感だった。この日、彼の理想はようやく完成形に近づいたと言っていい。ピッチとスタンドが完全に呼応し、同じリズムで呼吸していた。

 もっとも、試合内容そのものは華やかではなかった。むしろ極めてタイトで、神経をすり減らす展開だったと言える。ボールを支配する時間帯はあったものの、A・マドリー特有の組織的な守備と、鋭いカウンターの前に決定機は限られた。相手の土俵に引き込まれながら、どちらに転ぶか分からない均衡状態が続いた。

 それでもアーセナルは崩れなかった。必要以上にリスクを取らず、しかし機を見て鋭く刺した。試合運びは極めて理路整然としており、数年前の若く不安定なチームの姿とは明らかに異なっていた。
 
 均衡が破れたのは前半終了間際だった。レアンドロ・トロサールのシュートをGKヤン・オブラクが弾いたこぼれ球に、ブカヨ・サカが素早く反応する。至近距離から押し込まれたボールがネットを揺らした瞬間、スタジアムは爆発した。

 このゴールの意味は大きい。サカはアキレス腱の負傷で離脱を強いられ、直前のフルアム戦でようやく先発に復帰した。その復帰戦でゴールを決めてチームに勢いを取り戻させると、準決勝でも決定的な仕事を果たした。

 サカは「こういう舞台でプレッシャーは避けられない。でも、その瞬間にそこにいなければならない」と語る。その言葉どおり、勝負を分ける場所に、サカは詰めていた。

 そしてもう一人、勝利への流れを支えていたのが、ヴィクトル・ヨケレスだった。最前線で孤立しがちな展開のなかでも、彼は走り続けた。敵に激しく寄せられながらもロングボールを足もとに収め、味方に繋ぎ、守備では全力でプレッシングをかける。

 攻守にわたる献身的な働きは、チームに安定感と力強さをもたらした。後半のボレーシュートが決まっていれば完璧だったが、解説者のダニエル・スタリッジが「今夜のベストプレーヤー」と評したのも、決して大げさではない。
 
 さらに、この試合を語るうえで欠かせないのが、19歳のマイルズ・ルイス=スケリーの存在だ。ユース時代はセントラルMFでプレーしていたが、ファーストチーム定着を機にサイドバックに主戦場を移した。

 しかし、この日はセントラルMFとして先発起用された。経験豊富なマルティン・スビメンディをベンチに置く大胆な采配だったが、若者は見事に応えた。

 守備では身体を張り、シンプルなプレーでボールを循環させ、試合のリズムを整える。アルテタ監督が試合後に「最終的には選手がやらなければならない」と語ったように、若き才能はこの大舞台で自らの価値を証明してみせた。

 なおアルテタ監督は、ルイス=スケリーを含めた先発メンバーの選考に頭を相当悩ませたと明かす。