片目の視力低下のサイン? 『網膜中心動脈閉塞症』で受診すべき時とは【医師解説】

どのような症状が現れたら受診するべきか、夜間や休日であっても「朝まで待とう」という判断が視力を失うリスクを高めることについて、具体的にお伝えします。診察をスムーズに進めるために事前に整理しておきたい、発症時刻や服用中の薬、既往歴などについても解説します。

監修医師:
柳 靖雄(医師)

東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

受診・相談の際に知っておきたいポイント

網膜中心動脈閉塞症が疑われる症状に気づいたとき、あるいは強い不安を感じるとき、どのように行動すべきかを具体的にシミュレーションしておくことは、いざというときの冷静で迅速な対処につながります。

どのような症状で受診すべきか

以下に挙げる症状が一つでも当てはまる場合は、痛みや充血がなくても、ためらわずに直ちに救急外来のある病院や眼科を受診することが絶対的に必要です。夜間や休日であっても、「朝まで待とう」という判断は視力を失うリスクを著しく高めます。

・片方の目が、前触れなく突然見えなくなった、または視力が著しく低下した(霧の中、あるいは真っ暗になった)。
・視野が急に暗くなった、あるいは視野に黒いカーテンがかかったように欠けた部分がある。
・数秒から数分で視力が自然に戻ったが、同様の症状(一時的な視力低下)を経験した、または繰り返している。
・目の症状と同時に、あるいはその前後で、手足のしびれ、呂律が回らない、めまいなど、脳梗塞を疑う症状が起きた。

これらの症状は、時間的猶予がほとんどない重篤な眼疾患や脳血管疾患のサインである可能性が極めて高いです。「自然に治ったから大丈夫」「疲れているだけだろう」という自己判断は、取り返しのつかない視力喪失や、命に関わる脳梗塞を見逃すリスクと直結していることを強く認識してください。

受診時に伝えるべき情報と準備

緊急で眼科を受診する際は、パニックにならず、以下の情報を整理して医師に伝えると、迅速で正確な診断に大きく役立ちます。可能であれば、事前にメモしておくと良いでしょう。

・症状がいつ始まったか(「〇日の何時ごろ」と、できるだけ正確に)、どのように始まったか(突然か、徐々にか)、どちらの眼か。
・現在治療中の病気(特に高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの心疾患)と、かかりつけの医療機関名。
・現在服用中のすべての薬(お薬手帳を持参するのが最も確実です。特に血液をサラサラにする薬は重要です)。
・過去に同様の症状(一過性の視力低下など)があったかどうか、その頻度や持続時間。
・ご家族(特に血縁の近い方)に、心臓病、脳卒中、あるいは若くして失明した方がいるかどうか。

特に「発症時刻」の正確な把握は、治療方針(血栓溶解療法など)を決定する上で極めて重要な情報となります。症状に気づいた時点で、すぐに時計を確認し、時刻をメモしておくことが、後の診断と治療の助けになります。夜間や休日であっても、症状が強い場合はためらわずに、救急対応可能な総合病院の眼科へ連絡・相談することを検討してください。

まとめ

網膜中心動脈閉塞症は、痛みのない突然の視力低下という症状の特性上、その危険性が見過ごされやすい、非常に恐ろしい眼疾患です。しかし、その本質が「眼の梗塞」であり、脳梗塞と密接に関連していることを理解すれば、取るべき行動は明確になります。早期に適切な対応を取ることで、視機能を守れる可能性がわずかながら高まり、さらに重要な全身の血管疾患の予防にも繋がります。突然の片眼の視力低下、一時的な視野の暗さを経験した方、そして全身の血管リスクを抱えている方は、日ごろからご自身の目の変化に敏感でいることが何よりも大切です。「おかしいな」と感じたら、痛みがなくても、症状が軽くても、決して自己判断せず、直ちに眼科を受診することを強く推奨します。視力は一度失われると取り戻すことが極めて難しいからこそ、早期発見と専門医による迅速な診察が、あなたの未来の「見える」を守る唯一の道です。

参考文献

日本眼科学会「網膜中心動脈閉塞症」

日本眼科学会「網膜中心静脈閉塞症」

厚生労働省「脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会」

日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)」