東京酒吐座が語る「シューゲイザー」の呪縛を乗り越え、拡張した新境地、Wispとの共演秘話
今回のインタビューでは、今作の詳しい成り立ちや、今年1月に渋谷WWW Xで開催されたウィスプ(Wisp)との共演ライブ(ウィスプ側からのオファーで実現)について訊くことができた。”シューゲイザー”という曖昧で魅力的な概念についての会話としても、とても興味深い内容になったと思う。

左から中村泰造(Ba)、★菅原祥隆(Gt)、佐原杏子(Vo, Gt)、★ササブチヒロシ(Dr)、★渡辺清美(Gt)
正規メンバー(★)3人が以下のインタビューに参加
シューゲイザーバンドになったのは偶然!?
ー本誌初登場ですので、まずはバンドの成り立ちからお話しいただいてもよろしいでしょうか。
ササブチ:当時僕の誕生日ライブがありセッションバンドとして一つ作ろうと思い、近しい人に声をかけて、何か楽しい音楽をやろうと思ったのがキッカケです。スタジオ入ってジャムっていたら、たまたまシューゲイザーっぽい音になっちゃったっていう。「東京酒吐座」という名前も、ライブをやるにあたってバンド名が必要になってしまった。本当に適当につけたんですよね。そもそも一回で終わるつもりだったので、何も考えていなかった(笑)。
ーなるほど(笑)。それでは、皆さんの音楽的なルーツというか、影響を受けたバンドやアーティストについて伺ってもよろしいでしょうか。
ササブチ:僕は、レッド・ツェッペリンとかポリスですね。後はELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)とか。カール・パーマー(ELPのドラマー)とか、ライブめちゃくちゃじゃないですか。リズムがドタバタで走ってて。でも僕にはあれがたまらなくカッコ良かった。スピード感のある感じ。それがスチュワート・コープランド(ポリスのドラマー)にも繋がるところが僕の中であって。それとは別に、ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリンのドラマー)のとにかくはちゃめちゃにやるけど繊細という所も教科書として自分の中に取り入れてきましたね。
菅原:僕はポストロック/シューゲイザーなんですけど、シューゲイザーは完全にスロウダイヴ派です。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは僕的にはロックすぎで、個人的にはリヴァーブで耽美に行きたいんですよね。それとは別に、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーが神だとずっと思っています。なので、サウンドはスロウダイヴを基本として、足元はゴッドスピードを模して、その掛け算で普段から作っている感じです。それから、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアは音の綺麗さが神だと思います。主なルーツになったバンドはその3つで、学生時代から変わらぬノリで今もやっている感じです(笑)。
渡辺清美(Gt):自分はBOØWYから始まって、布袋(寅泰)さん経由でニューウェーヴに行くんですが、そこからYMOに流れて、ずっとピコピコしたところを追ってました。そこからラウドロックとかが入ってきて、ギターも弾くようになって。だからシューゲイザーは基本通ってない。マイブラだけは聴いてたって感じですね。ピコピコの延長でナイン・インチ・ネイルズとかミニストリーとか。あとはトゥールやデフトーンズとかそっちの方に行く感じですね。だから、ギターが上手い人に魅力を感じるというよりも、弾きざまがかっこいいとか、フレーズが印象的とか、そういう人たちにずっと魅了されてきました。

ササブチヒロシ(Dr)
轟音のみに留まらない「引き算」と「グルーヴ」
ーニューアルバムを聴かせていただきましたが、本当に素晴らしかったです。東京酒吐座の過去作はいずれも傑作ですが、新譜はそれらに並びつつ新たな側面を示す逸品だと思います。今作の制作はいつ頃どんな経緯で始まったのでしょうか。
ササブチ:「アルバム作らないとね」みたいな話は前からしていたんです。具体的に動き出したのは昨年の3月とか4月くらいだったと思います。そこから、これまでに書き溜めてきた曲と新しく作った曲を並べて、最終的に絞り込むような形にしました。
渡辺:作曲はずっとしていました。ただ、東京酒吐座向けの曲を作ろうみたいに意識すると縛られちゃうので、自分がやりたいことをやってから、これはどうでしょうと提案していく感じでした。
菅原:曲は僕とナベさんで作るんですけど、作り方のタイプがやっぱり違って。僕は不器用なので(笑)、東京酒吐座向けに作ろうという意識はあります。いつも曲を作る時に日付を書いているんですけど、今回のアルバムに関しては去年の1月頃が最初でした。まずは何のコンセプトもなくやりたいことをやり、曲が揃ってきたらブチさんの方で大体こんなコンセプトにしようかという話があって、それじゃあこの曲を選ぼうか、という感じで整っていくのがいつもの流れです。
デモ音源は、ナベさんも僕も、DAWでドラムも全部入れた状態まで作って提出します。ナベさんは歌メロまで作ってくるんですけど、僕は歌メロは得意じゃなくて、ボーカルさん(サポートの佐原杏子:ギターも兼任)に作ってもらいます。そこら辺の違いはありますが、曲の骨子とか雰囲気は2人ともアレンジして持っていきますね。

渡辺清美(Gt)
ーアレンジは、実際にスタジオに集まったりライブをしたりする段階でだいぶ変わっていくのでしょうか。
ササブチ:そうですね。デモが上がった時点でオンラインで3人で意見を出し合ったりして作業をしていくんですけど、その作業の中盤から僕だけデータを持って一人でドラムを入れに行くんです。その音源をベース(サポートの中村泰造)に渡して音を入れてもらったり。打ち込みで作ったものが生楽器になるとやっぱり印象が違うので、差し替える前の状態では何を表現したらいいのか、個人的に見えづらい所があります。方向性が何となく見えてくるのは楽器に差し替えてみてからのような気がします。
ー皆さま本当に素晴らしいプレイヤーですが、一般的なシューゲイザーバンドと比べると、ササブチさんのドラムがやっぱり一番違うところだと思うんですよ。あんなに手数が多いのにどっしり根を張るような芯があって。シューゲイザー的な空間感覚とダンスミュージック的なキレをこれほどまでに両立している音楽は稀だと思います。それで、打ち込みで作られたデモ音源をササブチさんの生ドラムに差し替えたら、全体の印象もかなり変わるしギターのアレンジにもだいぶ影響があるのではないかと思うんです。
ササブチ:そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。ギターについてはほぼ僕は一切何も言わないんですけど、ここのバンドってギターが3人いる訳じゃないですか? 一番気を付けてほしい事として「3人が3人、ずっと鳴っているのはやめてくれ」とお願いしています。いくらシューゲイザーバンドとは言え、バンドってやっぱりアンサンブルで成り立っているから。山や谷をちゃんと作りたいのもあるので、要は差し引きですよね。ギターが何かをやるなら、リズム隊は一切何もやらないとか。そういった何かしらの引き算と足し算をうまく混ぜ合わせていかないと、こういうバンドってただの雑音にしかならない。そこだけは気をつけてくれっていつも言ってます。
菅原:いまブチさんが言ったこと、今回のアルバムに関しては強く意識しました。僕らはやっぱり、最初は「Tokyo Shoegazer」というバンド名を冠して(笑)、とにかくまずギターはザーッていうものから始まっていたので、ライブとかも押し引きがなくてひたすら轟音でいくような時期も長かったんですよね。それってどうなんだろう、みたいなのがターニングポイントになったのもありました。今作ではそこが大きく変わったと思います。サウンドスケープやノリも意識的に大きく変えました。

菅原祥隆(Gt)
ー曲や場面によってギターの弾き方やフレーズも多彩で、ジャンル語彙的なものもどんどん変わっていくようなアレンジになっている。それでいてアルバム全体の統一感もある仕上がりが本当に素晴らしいです。そういう描き分けみたいなのも意識的に作り込まれたということでしょうか。
菅原:そのあたりは狙ってないですね(笑)。ベースとドラムが芯を取っているのが結果的に統一感の源になっていると思います。アルバムの選曲をする時にもギターアレンジなどのバランスを見て選ぶようなことはしていないと思いますね。そのあたりの統一感については、このバンドの場合、ブチさんがコマンダーとして割と見てくれている気がします。
ー今回は予め何曲くらい用意されていたのでしょうか。
渡辺:ヨッシー(菅原)の曲があと何曲かあって、全体では十数曲ですね。
ーなるほど。そこから8曲に絞り込んだ理由は様々な側面から考えられると思うのですが、まず、アルバム全体の長さとして40分くらいがいいみたいな判断はあったのでしょうか。
ササブチ:はい。これは1st(2011年作『crystallize』)を作った時から言っていることなんですけど、僕は曲数ではなくて分数の人なので、LPアルバム1枚で終わる分数っていうことを心掛けています。色々なミュージシャンの方と話しても、「やっぱりあの分数が一番いいよね」ってところに辿り着くので。無駄に長いと飽きちゃいますからね。ライブも音源も、聴いてて飽きさせたらもう終わりだって思ってるので(笑)。飽きさせないようにどう持続させて聴かせるか、ということを色々考えます。
ーシューゲイザーと「飽きる」っていう概念の兼ね合いは面白いですね。このジャンルではそういうところを気にしていない人も多そうだけど、そこをすごく考えておられるのが、このバンドの特色なのかなとも思いました。
ササブチ:やってる側が言うのも何なんですけど、あんなのずっと聴いてたら飽きちゃいません(笑)? 例えば侘び寂びがあるとか、聴いた事のない歪んだノイズがドカーンと来てビックリ箱開けちゃったみたいな、そういうのだったらまだ楽しめますけど。「何をやってるのか分からない」と言われるような表現であっても、何かしら説得させるような材料がないと成立しないと思うんですよ。
ーそうですね。例えば2nd(2013年作『turnaround』)収録の、坂田明さんと美川俊治さんが参加されている「Jack and Gill」などフリーな要素が多い曲でも、仰る通りに抽象的なんだけど展開は明確ですし、以前からそういう感じはありますね。
ササブチ:あれはもう、巨匠(坂田明)にお願いしたらやってくれることになって、そしたらやっぱり僕の中では自動的に美川さん(T.美川:非常階段、インキャパシタンツ)がコンビになってしまうんですよね。一緒にプレイしたこともあるので、そのお二人にゲストでお願いしたからこそ出来上がった曲でしたね。
「脱リヴァーブ」の新境地、際立つボトムライン
ー今回のアルバムでは過去作に比べて変化を意識されたという話が先ほど出ましたが、ディスコグラフィ全体における新譜の位置付けみたいなことで考えておられることはありますか。
菅原:今回のキーワードは、リヴァーブ無しということだったんです。完全に無しではないにしても。これまでは、ライブでもそうなんですけど、シューゲイザー=リヴァーブという感じでめちゃめちゃかけてたんです。それがフォーマット化されてて面白くないから、今回はリヴァーブは最小限しか使わない、広がる系は使わないと意識しました。僕は基本的にそこありきで曲を作ったりしていたので。サウンドスケープ的にはそこが大きな違いかなと思います。
それで、メンバーの中では僕が一番ポストロック/シューゲイザー系、UK志向で学生時代からやってきているんですけど、ナベさんはUSオルタナ系が強いんですね。今回はナベさん曲が多いので、そういうバランスというか軸足も過去作に比べて意識的に変えたポイントかと思います。
ーリヴァーブをあまり使わないという話が出ましたが、そうすると、例えばボーカルのミックスの仕方が大きく変わると思うんですね。シューゲイザー的なサウンドスケープでは特に。それからこれは個人的な印象なのですが、新譜は過去作に比べてベースの存在感が大きく、よく動くフレージングやリズムアンサンブル、空間表現の面でも重要な貢献をしていると感じます。このあたりの音作りの兼ね合いなどはどうだったのでしょうか。
ササブチ:すごい聴いていただいてありがとうございます(笑)。これも前作の時点でも既に言っていたことでもあるんですけど、今回のアルバムを作るにあたってベーシストの比重が大きくなる可能性があるなっていうのは3人とも考えていたんですよ。作った曲に対してのアプローチの仕方と言いますか。彼(サポートの中村泰造)もそれができない人ではないので。もともと僕と一緒に仕事していた人間で、シューゲイザーとかポストロックとは全然関係のないところにいたから、最初の頃は「?」でしたけど、「こういうアプローチで」と説明したら理解してくれるような人。本人も今回は物凄く考えたって言ってましたね。
ーベースの中村さんからのインプットも多いと。
ササブチ:そういう部分もあると思います。特にナベさんの曲に関しては。
渡辺:1曲目は、自由に弾いてもらったフレーズをエディットして、その上でこうやって弾いてほしいと伝えるという変わったことをやりました。本番が始まったらそうなってなかったりみたいなこともありましたけど、今までにないやり方だったので面白かったです。
ササブチ:プリプロだとコンピューターでやってるから切り貼りができるんですけど、僕達のレコーディングはテープでやっています。1stの時から。全員集まって「せーの!」で一発録りというやり方を続けています。緊張感がすごいですよ。
渡辺:そういう意味では、前作と変わったところというと、レコーディングでアホみたいに重ねなくなった、重ねるのを禁止したというのはありましたね。
ササブチ:いっぱい重ねると豪華に聞こえるのはいいんですけど、ライブでそれを表現しようとすると、同期を流したりしないといけない。このバンドにおいては同期はプラスに作用しないと思っています。縛られちゃうと本当に面白くないから。レコーディングする時のアレンジやダビングも含め最低限ライブで演奏できるものにしてくれっていうことも注文していますね。
ー今の話を伺っていると、サウンド的な要請からベースの存在感が大きくなったというよりも、レイヤーを多くしすぎないアレンジにしたからこそ結果的にベースが担う部分が多くなったみたいな印象を受けました。
菅原:おっしゃる通りだと思います。ギターを重ねずソリッドにして、サウンドを全部すっきりさせたんですね。押し引きを大事にしようみたいな話もそうで。そのおかげでボトムラインがギターに被らずにちゃんと出てきて、その結果としてベースが際立ったんだと思います。
ーシューゲイザーという名前を冠しながらもそうやってグルーヴ的な強みが前面に出ている点でも、オリジナリティのある素晴らしいアルバムだと思いました。ところで、サポートのお二人はかなり長くご一緒されているようですが、やはりこのお二人の音がバンドによく合うということでしょうか。
ササブチ:今はそうですね。素晴らしいお二人だと思います。僕らがやりたい音、出したい音をちゃんと具現化してくれています。
ーベースの中村さんについては先ほども伺いましたが、佐原さんのボーカルについてはどうでしょうか。
菅原:佐原さんも、これまたシューゲイザー系では全くなくて。僕が知り合い経由で紹介してもらったんですけど、椎名林檎とかそちら寄りで、シューゲイザーのファルセット的な歌い方みたいなのは全然だったんですね。でも、彼女は吸収力とか適応力みたいなのがとにかく凄くて。投げたやつを全部拾ってくれるんですよ。斜めから言ったようなオーダーも、次のリハの時までには全部吸収してくる。それはスキルとかポテンシャルが相当高いからだと思うんですけど、かなり助かってますね。
それで、声量とかも相当あるので。シューゲイザーって、歌はウィスパーで轟音ギターにかき消されるみたいな構図がどうしてもできてしまって、うちのバンドもずっとそんな感じで来てたんですけど、佐原さんにサポートしていただくようになってからは、ライブも含めて相当いいですね。
ーということは、わりとガッツリめに声を出していただいた上で、音源やライブでは一般的なシューゲイザーの音像に通ずるバランスにまとまっているということでしょうか。
菅原:そうなんです。音源でもライブのように、あまりクリアに抜けはしないようなバランスにまとめていますね。
ーなるほど。結果的にシューゲイザーみたいに聞こえるんだけど成り立ちが異なるみたいなマジックが生まれている気がしますね。
菅原:マジックが生まれてます(笑)。彼女の対応力は本当に凄いですね。

ニューアルバム『Remains』ジャケット写真
今日のシューゲイザー拡大解釈がもたらした自由
ーそれでは、その”シューゲイザー”についての質問に移らせていただきます。2013年に一度解散した理由について、既発のインタビューでは「バンド名に”シューゲイザー”を掲げたことによってある種の縛りやプレッシャーが生じ、そこから離れたかった」「自由度を広げたかった」ということが述べられていました。しかし、特に2010年代以降になってからは、”シューゲイザー”という言葉から連想される音像や、この言葉でなんとなく括られるイメージは、どんどん拡大解釈されてきたように思われます。羊文学やkurayamisakaがシューゲイザーというタグで語られて、それはどうなのかという論争が活発に起きたりしている。そういう状況もあってか、結果として、”シューゲイザー”を掲げたままでもかなり自由な音楽活動ができるようになってきた印象があります。東京酒吐座の活動において、こうした状況を意識することはありますか。
ササブチ:解散の理由、確かにそう言いました。苦しかったことも覚えてます。当時は、なんでこんな名前つけちゃったんだろうと思っていたくらい辛かった。でもバンド名につけちゃったんだからシューゲイザーやらないと……というプレッシャーも感じるようになりました。言うならば、自分達の引き出しの狭さに尽きると思います。今思うと、そこにぶつかっちゃったのかな。先が見えなくなったし、このバンドをやる意味もわからなくなった。
ー引き出しの狭さというのは、シューゲイザーという看板のもとで出せることの少なさということでしょうか。
ササブチ:そうですね。ずっとこれやらないといけないのかなと思った時に「地獄かも」と思ってしまいました。そこから個人的に色々な仕事をやってアプローチの勉強をしてきました。
自分達が解散した2013年頃までの話と今とでは、シューゲイザーと呼ばれているものの解釈自体が全然違うと思うんですよ。今それをやっている人たちも、シューゲイザーをやろうと考えてやっている訳ではないみたいなんです。でも、出来上がった音を聴いたら「バキバキのシューゲじゃん」と思ったりもします。
それで自分たちのことに話を戻すと、僕らはたまたまバンド名をそうつけちゃったからしょうがないかなと。あと見せ方の一つとして、うちのバンドは猫が毎回アルバムのジャケットに出てくるんですけど……。
ーそもそも、なんで猫なのでしょう?
ササブチ:東京酒吐座を最初にやり始めた頃に、1stアルバムを作るにあたって、ジャケットをどうしようか相談していたら、「シューゲ界隈で売れてるアルバムは、みんな猫を載せてるぞ」って話になって。だったら猫にすればいいんじゃないかって(笑)。それにあやかればなんとかなるかもしれないぞ、というだけの話なんですね。でも今度は「猫のバンド」と言われるようになった。これも自分の中で色々な葛藤もありました。
ただある日、話の中で「その猫はバンドのアイコンと捉えればいいんじゃない?」と言われてから、自分の中でスッと落とし込めたことがあったんですね。それと同じように、バンド名にシューゲイザーっていうものが付いていても、死守するところを外さなければ何やってもいいんじゃないかなって思えるようになったんですよ。だから当時みたいに悩むのではなく、自由にのびのびにと言いますか(笑)表現ができるようになったのかなと思います。
1stアルバム『crystallize』(2011年)
3rdアルバム『月世界遊泳 (Moonworld Playground)』(2022年)
ーそう思えるようになったのはいつ頃だったのでしょうか。
渡辺:自分的には、CQ(東京酒吐座の3人が中心になって2014年に結成されたバンド)をやれたのが大きかったんじゃないかと思います。この3人がいるので当然シューゲイズのような印象もありつつ、その上でいろんなことをやれて。なので、自分は2019年に再結成しないかとなった時に結構吹っ切れたというか、あえてシューゲイズに寄っていくのもいいかなと思えました。自分もNINとかデフトーンズとか聴いてましたけど、以前はシューゲイザーの枠で「デフトーンズに影響受けてます」みたいなバンドはそんなにいなかったんですね。当時は、そういう(ジャンルの外から来たような)人間がシューゲイザーをやろうかとなった時、冷やかしっぽい感じがあったんです。でも、そういう人間だからこそできるアプローチがあるんじゃないか、ということを再結成後は意識できるようになった気がします。
ササブチ:僕なんかは、再結成以降にジャズ界隈の人たちと交流を持ったり、プレイするようになるんですけど、そこでノイズを多用する方もいらっしゃるんですね。美川さんなんか専門家みたいな感じだし、内橋和久さん(アルタードステイツ、Ground Zeroなどで活躍してきた日本の即興音楽シーンを代表するギタリスト/ダクソフォン奏者)のエフェクターの使い方も面白いじゃないですか。これもある種、聴き方によってはシューゲイザーの一種になるかもしれない、と思うようになったんですね。そういうイベントに出てプレイしたり、いろんなカード(セッションにおける参加者の組み合わせ)を聞くようになってから、まだまだ落とし込み方があるなとも思うようになりました。
ー確かに。裸のラリーズや灰野敬二さんの作品をシューゲイザー的な感覚で聴く人も少なからずいますからね。
ササブチ:そうですよね(笑)。
ーデフトーンズの「Rosemary」(2012年のアルバム『Koi No Yokan』収録曲。リリース当時はシングルカットされなかったが、2026年4月時点でYouTubeでの再生数が6400万回以上に到達)がシューゲイザーとして認識され、TikTokでものすごくバズったみたいな近年のリバイバル傾向を見ても、10年前と今とでは状況が大きく変わっていると感じます。
ササブチ:相当変わってきていると思いますよ。
Wispとの共演秘話、この先の展望
ーだからこそ、東京酒吐座の時代が来てるんだなと思います。そういう状況もあってウィスプとの対バンも実現したのだと思うのですが、これはウィスプ側からの指名だという話を聞きました。
ササブチ:そうなんです。その時は僕、別の現場とかがあってツアーの真っ最中だったんですけど、ちょうどその日はお休みで、家でゴロゴロしてたんですよ。それで、携帯電話を見たらメールが来てて。「こういう共演について興味ありませんか?」みたいなメールだったんですね。僕はそれを見て、よくできたスパムメールだなって思ってたんですよ(笑)。最近のスパムメールはこんなことまでやるのかって。
ーあ、この時点でウィスプのことはご存知だった。
ササブチ:もちろん。全然知ってましたよ。それで、エージェントの方にこんなメールが来たんだよって報告して、いろいろ調べていただいて。蓋を開けてみたら本物だったという。そういう経緯です(笑)。
ーなるほど。先方から声をかけてきた理由って、その時点ではわかりました?
ササブチ:何もないですよ。書いてあったのは日程だけでした。
ー実際に会ってお話ししたタイミングは……。
ササブチ:ライブ当日、終わってからですね。かなりバタバタしてましたから。向こうは一生懸命お話ししてくれましたが、やっぱり昔から聴かれてたみたいで、大好きですって言われました。すっごい端折って言ってますけど(笑)、通訳していただいて。とてもありがたいことですよね。

ウィスプと東京酒吐座の対面写真
ー東京酒吐座という日本を代表するバンドとの共演、みたいなこととは別に、2組のキャラクターが互いを補い合うような対バンだったのが素晴らしかったです。ウィスプを観た人の多くが言っていることとして、シューゲイザーの一般的なイメージからは考えられないくらいボーカルがクリアに抜けてくるというのがあって。その一方で、バンドサウンドにはデフトーンズに近いメタル寄りの質感がある。そういった要素の各々が東京酒吐座と違っていて、その対比もすごく良かったなと感じました。皆さんは実際にウィスプを観てどう感じられましたか。
ササブチ:僕たちのやり方とは真逆じゃないですか。こっちは、アンプを鬼のように並べて壁のようにドカンと出すっていうやり方。でも向こうはすごいミニマムで、足元もラインでみたいな、外側で音を作る手法だとは思うんですけど。今はこういうやり方もできるんだねって言いながら観てましたね。
菅原:3人とも言っていたのが、音源どおりだねってことで。逆に凄いというか、今なんだなあと思いました。僕らにとっては生ならではのライブを聴くのが当たり前だったけど、今の若者にとってはそうじゃなくて。Z世代はライブ会場に行って音源と全く同じ音響で盛り上がれるっていう。物差し自体が違うというか、こういうカルチャーになってるんだなと思いました。だから、ウィスプを聴くようなZ世代の人たちに、僕らの昔ながらの、生音でこうやるってのがどういうふうに伝わるのかな、楽しみだね、みたいなことは対バンが決まってから話していたんですけど、現場で観てみてまさにでしたね。あんなに歌が聞こえるシューゲバンドって普通はない(笑)。その一方で、あのパッケージをちゃんと生でやって、本物が歌ってちゃんと届くっていう意味では、あれはあれで正解なのかなって気がしましたね。
渡辺:イメージを100%伝えるための努力というか、そこに100%振り切ってるんだなって。新しい見せ方というか、今らしい見せ方というのか。良くも悪くもライブ感がなくて、でもムラがない。どこの会場に行っても、そういうのを聞きたいっていう人たちにちゃんと届けられるようなやり方を知ってるなっていうところで、自分らにはその発想がなかった。逆に言えば、変なところで勝負しなくても、自分達らしさを出せば別の意味でちゃんと伝わってくれるだろうなっていう変な安心感もありました。
ーそうですね。ニューアルバムの話で出てきた、同期音源から離れる(グリッドに縛られない)みたいなことも含めて考えると、東京酒吐座のリズムアンサンブルはタイトに噛み合いつつ絶妙に揺れていくというのがあって、そういうところも確かにウィスプと真逆だなと感じました。こういう対バンが実現したことは本当に意義深いことだったなと思います。
ササブチ:僕らもすごく楽しかったですね。
菅原:お客さんもあんなに入ってて、凄いなって感じでした。
東京酒吐座がゲスト出演した、ウィスプ初来日公演のフルライブ動画
ー今後のライブ活動についても伺いたいんですけど、これからアジアツアーが始まるんですよね。4月19日の東京公演を皮切りにアジア各地をまわっていく。もともとアジアでも東京酒吐座の音楽はかなり聴かれていたというか、そういうデータや手応えはあったのでしょうか。
ササブチ:自分たちは知らなかったんですけど、話を聞くとすごく聴かれているみたいです。なんでこんなに知ってるんだろうと思うことの方が殆どですが。あとは、やっぱり僕らみたいな音の出し方をするバンドってあんまりいないみたいなんです。それで、あちこちの国でライブをすると、我々がどんな機材を使っているかってことにお客さんもすごく興味があるみたいですね。特にギターの人たち、みんなお店(エフェクターボード)が大きいじゃないですか。東京酒吐座は一人あたりのお店が大きいから、お客さんがいつも写真を撮っていてすごいですよ(笑)。
菅原:やっぱり日本と感覚が違いますよね。バンコクのフェスなんかではモッシュが起きて、シューゲイザーでそんなことがあるのかって(笑)。
ー今までアジア各国のバンドと共演されてきて、自分たちや日本のバンドと現地のバンドとで違いみたいなことって意識されましたか。
ササブチ:それはないですね。ただ、全然違うジャンルの人とかでも一緒にやってみたいなというのは思います。どこでどういう化学反応が起きるかわからないじゃないですか。こればっかりはやってみないとわからないので、面白そうだと思ったことはやりたいです。
ーこれから特に共演してみたいバンドやアーティストっておられますか。
菅原:ブチさんがさっき言ったように、面白ければ(ジャンルは)なんでもいいかなと思っていて。シューゲイザー系とかポストロック系に限らず、オファーお待ちしております(笑)。
ササブチ:ウィスプとの1月の対バンはゲストだったから、あえて音量的にも大人しめのライブにしたので、次回はガチモードの東京酒吐座で一緒にやりたいですね。15周年の節目にアルバムが作れたのは良かったし、せっかくなのでそれを携えていろんなところに行きたいです。

東京酒吐座
『Remains』
発売中

REMAINS Tour 2026
4月19日(日)東京・高円寺HIGH ※終了
5月16日(土)韓国・ソウル
5月23日(土)タイ・バンコク
5月24日(日)香港
https://linktr.ee/tokyoshoegazer
