【今週はこれを読め! SF編】未解決事件を追う、ベテラン警察官と高度AI〜ジョー・キャラハン『瞬きすら許さない』
英国推理作家協会賞で最優秀新人賞を受賞したミステリ。作者にとってはこれがデビュー作にあたる。
ベテランの警察官と新しく導入された高性能AIとが協力して、捜査にあたるSFミステリだ。AIであるロックのキャラクター性がひと昔のSFを彷彿とさせて面白い。空気を読まないところとか、過度に論理的なところとか、「スタートレック」のスポックの初期設定みたいだ。というか、スポック以上に融通の利かないところが、かえって愛嬌になっている。
いっぽう、人間のほうの主人公キャット・フランクは、偏見と汚職まみれの男性組織だったウォーリックシャー警察のなかで、女性として叩きあげで警視正にまで登ってきたベテランだ。タフに仕事をこなし、家では母親としてひとり息子のカムのことをつねに気にかけている。約二年前に最愛の夫を亡くし、カムともども精神的なピンチにあったが、どうにか持ち直して、職場に復帰したばかりだ。そのキャットに与えられたのが、人工知能捜査体ロックのテスト----つまり現場で使いものになるかの試験----である。
キャットはAIに対して懐疑的だ。機械はデータを集めたり分析したり、確率の計算は得意だろうが、捜査に必要な直感もなければ判断もできない。しかし、このプロジェクトは内務大臣肝煎りなのだ。やらなければならない。
ロックに実体はないが、ホログラムで姿を現出できる。細身の黒人男性で、整えられた口髭と顎髭を生やしている容姿がスタンダードだ。また、センサーによって周囲を感知する。はたから見れば、ロックという存在がそこにいて普通に会話をしているのだ。
ロックの捜査実証テストとして、未解決事件のなかからふたつの失踪がピックアップされる。
一件は、ストラトフォード・アポン・エイヴォン(シェイクスピアで有名な町だ)に両親と暮らす、白人の演劇青年ウィル・ロビンソンの失踪。およそ五ヶ月前、友人たちとパブで会うはずが、その場にあらわれず、行方がわからなくなっていた。
もう一件は、貧困地域ハンズワースで育ちながらも成績優秀で大学に進学し、政治学を学んでいた黒人のタイロン・ウォルターズの失踪。およそ四ヶ月前、大学の寮で同級生に目撃されたのを最後に、姿を見た者はいない。
なにかというと統計データを持ちだすロックに反発を覚えながらも、キャットは彼と議論をすることで、自分の推理を深めていく。そして、現場を検証したり証言を集めたりと、身体を使った泥臭い捜査を地道に積み重ねるのが、彼女の基本ポリシーだ。それにロックも同行し、AIならではの場を弁えない口出しをして、キャットを苛つかせる。
ロックのほかに、キャットの部下として捜査をおこなうメンバーがふたり。ひとりは、法律の学位を持つ、南アジア人ライアン・ハッサン警部補。彼は有能で協調性はあるが、組織で上をめざす気まんまんの野心家だ。もうひとりは、十八歳からウォーリックシャー警察に勤務している、二十四歳のデビー・ブラウン部長刑事。彼女は他人に親切だが、気が弱いところがある。
そして捜査チームではないが、ロックを開発したオコネド教授。彼女は黒人で、史上最年少で国立AI研究所の教授となった。きわめて聡明で、おそろしく人づきあいが悪い。
キャットが夫の死という辛い過去を背負っているのと同様、ハッサンもブラウンもオコネド教授もそれぞれに事情を抱えていることが、だんだんとわかってくる。いっぽう、ふたつの失踪事件の背後にも、それぞれの事情(とくに家族の問題)があって、いくつかの人間ドラマが、互いを対照するように全体の物語を構成していく。自然な盛りあげかたで、じつに巧みだ。
思わず唸ったのは、キャットの息子のカムがロックをいたく気に入ってしまい(カムとってロックはクールな存在だ)、自宅で、キャット、ロック、カムの順にソファに坐って、一緒に映画を観るシーン。それが『ターミネーター2』なのだ。
ミステリとしての妙味は、いっけんまったく接点がなさそうな別々の事件であり、たんに数ある未解決事件のなかからピックアップしただけのはずだった二件の失踪が、捜査のなかで結びついていく展開だ。キャットの直感とロックの分析が、大きな謎へと切りこんでいく。そこに何重にも障害が立ちはだかる。
本書は好評を博し、すでに第二作、第三作と続篇が発表されており、第四弾も今年に刊行予定とのこと。引きつづいての邦訳を待ちたい。
(牧眞司)
