「再生可能エネルギーへのシフトを支えるのは石油」という皮肉。環境にやさしい都市「NEOM」の闇
環境保全は誰のため? リサイクル、再生可能エネルギー、カーボンオフセット―。
すべて超富裕層が潤うための虚偽、巨大マネーのためのグリーン・ビジネスだった!
「サステナビリティ・クラス」とは、高学歴で可処分所得と意識が高い「いい人」たち。エコや倫理的正しさをSNSでアピールし、「環境」を意識した高額商品を買う余裕がある中流階級だ。彼らが「地球の未来のためだ」と思ってやっていたことは、実はグリーン・ビジネスに加担し、弱者を追いやり、格差を広げる原因になっていた……。新たな植民地主義ともいえる「グリーン・ビジネス」の実態を、豊富なデータをもとに明らかにした著書『欲と偽善のサステナビリティ』。サステナビリティの名のもとの「欲と偽善」を、気鋭の研究者が暴くセンセーショナルな意欲作より、一部の章をピックアップしてご紹介。
石油が支える「再生可能エネルギー」ビジネス
これはテック業界だけの話ではない。現在、再生可能エネルギーへのシフトが大いに注目されているが、実際のところ、この動きを支えるのは世界中で進む石油とガスの巨大投資だ。フランスの石油大手トタルエナジーズのCEOパトリック・プヤネが2022年8月に話しているが、同社は石油とガスの利益があるので、他の(もっとグリーンな)事業のリスクテイクが可能になるのだという――「安心して事業展開できるのも、キャッシュフローがこれだけ回っているおかげである」。だから、リスクの高い洋上風力発電への投資が可能なのだ。その結果、世界各地が記録的な気温や降雨量や干ばつで苦しんでいても、石油とガスの採掘量は増え続ける。こうした矛盾もウォール街なら珍しくない。
この手のことはすべて、人間のためだ、サステナブルだと言われている。でも、サステナブルという言葉は、今となっては何の意味もなしていないではないか。ブルントラント委員会が1987年に発表した報告書『地球の未来を守るために』によると、サステナビリティとは「未来の世代のニーズを満たす能力を弱めることなく、現在の世代のニーズを満たすこと」だと定義されている。志は実にすばらしい。しかし、その定義はすぐさま、いろいろな意味に解釈されるようになった。例えば、どのようなニーズが持続する価値のあるものなのか明確に記されていないので、「将来にわたり豊かであり続けたい」という富裕層のニーズも含まれることになる。概念が曖昧であるからこそ、「サステナビリティ」は温存されたのだ。
2023年、アラブ首長国連邦(UAE)のスルタン・アフマド・アル・ジャーベルは、同国で開催される国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の議長に選ばれて間もなく、こう明言した――「今取り上げたすべての問題に共通する脅威は、資本です」。他の何よりも利益を追い求めるから気候変動が生じていると言いたいのか? いや、その逆だ。UAE国営石油会社のCEOも担うアル・ジャーベルが言わんとしたのは、資本投資が石油の消費削減よりも必要とされているということだ。「昨年[2022年]、全世界で1兆4000億米ドルがクリーンテクノロジーに投資されました。今必要なのはその4倍の投資です」。化石燃料が気候変動の原因として名指しされたのは、国連の気候変動会議ではCOP28がはじめてだが、その宣言は遠回しで、化石燃料からの「移行」を「呼びかける」にとどまった。強制力はなく、今後も化石燃料の採掘を継続する余地さえ残したのだ。
「サステナビリティを重視するのは、資本主義者だから」
想像してほしい。例えば、奴隷制度廃止論者が廃止運動を繰り広げる代わりに、「移行」を「呼びかける」としたら、どうなっていただろうか。奴隷制度を終わらせようとしている人たちが、廃止を任意にしていたら、今も奴隷制度は残っていただろう。化石燃料の採掘もそれと同じだ。石油会社の経営陣にとってサステナビリティとは、地球を破壊するあらゆる行為を可能な限り長く続けることなのだ。
とはいえ、決して鵜呑みにはしないでもらいたい。2022年1月、世界屈指の資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクが、サステナブルであることはステークホルダーの利益になると述べている。「『ステークホルダー資本主義』は、政治の問題ではありません。社会的あるいはイデオロギー的な問題でもありません。社会問題を喚起するようないわゆる『woke(意識高い系)』でもありません」と書簡に記したのだ。
「弊社がサステナビリティを重視するのは、環境保護主義者だからではなく、資本主義者であり、弊社のお客様の受託者であるためです」。フィンクやアル・ジャーベルにとって、市場が気候変動の問題を解決するための最善のツールなのは、間違いなく、市場自体を維持しなければ市場の利益が生まれないからだ。化石燃料に依存する経済を発展させて気候変動という問題を生み出した世界市場が、今度はその問題を解決するという。フィンクやアル・ジャーベルが口を滑らせたのは、多くの権力者があえて口にしないことだった。つまりサステナビリティとは、決して重要な何かを変えることではなく、すべてこれまでと同じように維持するために、必要最小限の微調整を行うことを指すという事実だ。
サウジアラビアの環境にやさしい都市
サステナビリティがどのようにして「見せかけ」になったのかを示す例として、サウジアラビアで進行中の出来事を見てみよう。サウジアラビアが世界第2位の石油生産国(第1位は米国)であり、個人が豊かになるのなら、世界を犠牲にしてもいいと考えていることは一瞬忘れてほしい。その代わりに注目してもらいたいのが、「人類の未来のプロトタイプ」などと謳われるサステナブルな新都市「NEOM」だ。
このNEOMの構成要素にTHE LINEと呼ばれるプロジェクトがある。これは平行に並ぶ建物に囲まれた砂漠の巨大都市で、当初の計画では、建物は高さ1640フィート(約500メートル)、幅650フィート(約200メートル)で、全長は100マイル(約160キロ)を超える予定だった。アカバ湾と紅海に挟まれたサウジアラビアの砂漠地帯に位置するこの都市には900万人が暮らす予定で、外部からの影響が最小限に抑えられており、全面が鏡張りなので、まるで蜃気楼のように外の風景と溶け込み合う。そのうち渡り鳥もきっとこの都市に入るのはあきらめて、別の飛行ルートを選ぶようになるだろう。
プロモーション動画によると、この都市はゼロエミッションで、車や車道がないという。公園や樹木に溢れ、高速鉄道網を使えば都市の端から端までわずか20分で移動が可能だ。建物には垂直方向に農場が並び、レタスやマイクログリーンが栽培される。栽培にはエネルギー集約型のUVランプが不可欠だが、この大量のランプ群のエネルギー供給源はいうまでもなくグリーン水素である。低炭素電源を利用して水素分子を充填するエネルギー技術で、充填された水素は輸送も可能になる。
THE LINEは、NEOMのプロジェクトの一部にすぎない。NEOMは2025年に運用開始予定で、予算は5000億米ドル。全てのエネルギーが太陽エネルギーと風力エネルギーとグリーン水素で賄われる。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が求めるのは、よくあるグリーンシティではない。労働者や介護者や警察官の役割を担うロボットで溢れた街だ。空飛ぶ車、暗闇で光り輝く浜辺、砂漠に植えられた何十億本もの樹木、巨大な人工の月など、SFファンタジーの世界を思い描いているのだ。加えて、2030年までに住民100万人に水を供給するという目標のもと、再生可能エネルギーを利用した海水の淡水化など、これまでに一度も実証されたことのない水資源のサステナビリティ化に向けたテクノロジーも登場するらしい。
メガシティ建設のために住む場所を追われた人々
NEOMでカーボンニュートラルの実現を支援するのは、RWEの元CEOピーター・テリウムのような人物たちだ。RWEは多国籍エネルギー企業で、欧州屈指の規模を誇る火力発電所をいくつも稼働しており、2018年の二酸化炭素排出量は欧州で最大だ。華々しいクリーンエネルギーチームにはその他にも、ロイヤルダッチシェル(当時)の元物流責任者フランク・バーチャウ、RWEとブリティッシュ・ペトロリアムの両社で20年以上の経験を持つ広報の達人アンドレアス・シュトーツェルが名を連ねる。彼らが在籍していた企業は、気候変動の大胆な取り組みで「高評価」を誇るところばかりだ。この驚異のグリーンプロジェクトには批判的な意見を持つ人たちもいる。2つの町に住む2万人のハウェイタット族だ。彼らは、メガシティ建設のために、何の補償もなく住む場所を追われたのだ。
NEOMのウェブサイトを見ていると、英国のSFドラマ『ブラック・ミラー』のような、テクノロジーが人間と自然を永遠に結びつける様子を描いたプロモーション動画ではないかと錯覚してしまう。きらびやかな世界は今や「エコフレンドリー」の象徴である。強制退去させられた多くの人々は、億万長者たちと仲良く生きていく外国人労働者のために場所を譲らなければならないが、そのおかげで、人類はこの先、より良い暮らしを手にできるのだ。また都市生活を効率化するために、消費の好みやパターンが細かく記録されるので、楽しいと感じられそうなこと(例えば、新しい投資機会のチェック)に時間を使えるようになる。自由時間でさえ最適化だ。話題性があり、流行の先端で、気候も中立、そんなTHE LINEのような場所ではおそらく全てが厳しい監視の対象になる。
建築家のフィリップ・オールドフィールドによれば、THE LINEの建設(信じられないほど膨大な量のガラスや鉄鋼、コンクリート、さらにはレアアースも必要)で排出される二酸化炭素の量は20億トンにおよび、英国の現在の二酸化炭素排出量の4倍以上に相当するという。しかしそんなことは一切気にしなくていい。いったん建設されれば、エコロジカル・フットプリントはロンドンの46分の1になるらしいのだから。「グリーン」な効率性は洗練された新しい効率の形だ。とても新鮮でとてもクリーン、格まで違って見える。(翻訳:保科京子)
