【尾形 拓海】 ウマ娘が「ABEMAの危機」救った…?”優秀すぎるクリエイター”たちが続々とサイバーエージェントに集結するワケ
株式会社サイバーエージェントは今年2月6日に、2026年第1四半期の連結決算を発表しました。連結売上高は前年同期比14.0%増の2323億円、営業利益は181.8%増の233億円となり、売上・利益ともに第1四半期として過去最高を更新する、好調な滑り出しとなっています。
今回の決算で最も注目すべきは、長年にわたり先行投資フェーズにあった「メディア&IP事業」の収益構造が大きく変わったことです。売上高は、前年同期比12.5%増の626億円、営業利益は前年同期比246.1%増の49億円と二桁成長を継続し、大幅な増益を記録しました。中でも、AbemaTVは、「2016年の開局以来初めて四半期ベースでの営業黒字化(0.5億円)」を達成しています。
同社はこれまで、ネット広告事業とゲーム事業でキャッシュを生み出し、その収益を原資に、メディア&IP事業を中長期の成長エンジンとして育成する戦略を取ってきました。今後は、メディア&IP事業と広告事業で利益を積み上げつつ、ゲーム事業でのヒットを狙い、高収益なビジネスモデルへと転換していく方針を掲げています。
この戦略の根幹にあるのが、コンテンツIPです。AbemaTVの会員を維持・拡大するには視聴者を惹きつける魅力的な作品が不可欠ですし、ゲーム事業でヒットを生み出すにも、やはり優れた作品の力が必要です。同社の今後の成長は、強いコンテンツIPをどれだけ生み出せるかにかかっているのです。
本記事では、サイバーエージェントのIP戦略に迫ります。まずは、同社がどのようなIP戦略を描き、その実現のためにどのような組織を構築しているのかを整理します。
目指すのは「ウマ娘の再現」
ゲーム事業においてサイバーエージェントが狙っているのは、メガヒットとなった「ウマ娘 プリティーダービー」の再現です。
「ウマ娘」は、同社の業績を飛躍的に押し上げた大ヒット作品です。21年通期決算で、連結での営業利益は前年同期比208.1%増の1043億円と過去最高を記録しましたが、そのうちゲーム事業の営業利益が964億円を占めており、それを牽引したのが「ウマ娘」でした。
同タイトルの累計実績で見ても、モバイル版の世界累計収益は3周年時点で24億ドルを突破していると分析されています。国内だけでなく海外でも支持を集め、2025年6月にはSteamの「シミュレーションゲーム販売数」で世界1位を獲得しています。
同社のIP戦略の根幹は、この「ウマ娘の再現」にあります。他社が権利を保有するIPを借りてゲームを制作するライセンス型ではなく、自社が100%権利を持つオリジナルIPを再現性高くヒットさせて運用することが、同社が目指しているIPビジネスの形です。
サイバーの下に名クリエイターが集結
オリジナルIP創出のために、同社は漫画、Webtoon、実写、アニメ、そしてM&Aと、様々なメディアや手法で事業を構築しています。
漫画領域のMANGA APARTMENT VUYは、漫画家志望者向けの育成型シェアアパートです。居住費や光熱費を無料で支援し、創作に集中できる環境を提供するもので、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』などを担当した編集者・林士平氏が寮長兼プロデューサーを務めています。ヒット漫画の原石を自社で発掘・育成し、IPの種を上流から押さえにいく施策です。
STUDIO ZOONは、Webtoon作品を企画から制作・プロモーションまで一気通貫で手がけるスタジオです。世界で急成長しているWebtoon領域でのIP創出を狙っています。
BABEL LABELは、映画『新聞記者』やNetflixシリーズ『イクサガミ』を手がけた藤井道人監督が所属する、実写作品を企画・制作する映像スタジオです。STUDIO ZOONと連携して、Webtoon原作の実写化にも取り組んでいます。
Project PRISMationは、AbemaTVが手がけるオリジナルアニメ企画で、個人や少人数チームの企画をパイロットフィルムとして制作し、シリーズ化の種を発掘するプロジェクトです。まだ世に出ていないクリエイターの才能をいち早く取り込み、アニメ発の自社IPとして育てていく狙いがあります。
M&Aも積極的で、2024年7月には『Fate/Zero』の共同制作でも知られるクリエイティブスタジオ、ニトロプラスをグループに迎えています。ビジュアルノベルからアニメ・ライトノベルまで幅広いIP展開の実績を持つ同社の参画は、グループのIP創出力を底上げする存在になるでしょう。
「今日、好きになりました。」に見る稼ぐ力
同社のIP事業ポートフォリオは、「原作・マンガ → 映像制作(アニメ) → 配信・マーケティング → 興行・MD → グローバル」という上流から下流までカバーしたバリューチェーンとして設計されており、これらの事業を通じて創出されたオリジナルIPは、このバリューチェーンにのって連続的に収益を創出します。
その最もわかりやすい例が、AbemaTVオリジナルの恋愛リアリティショー「今日、好きになりました。」シリーズです。「卒業編 2025 in ソウル」編は、女子中高生の2人に1人以上が視聴しているという人気ぶりです。「夏休み編 2025」は2016年の開局以降に配信されたすべてのAbemaTVオリジナル番組における週間視聴者数の最高記録を更新(配信時点)しており、会員増に強く貢献していると予想されます。
AbemaTV内の展開だけでなく、「青春祭」と銘打った大型リアルイベントも開催され、会場限定グッズやファン参加企画で興行収入を生んでいます。ファミリーマートの「ファミマプリント」ではブロマイドやファンサボードが販売され、コンビニの店頭がグッズ販売チャネルになっています。さらに、小学館からはコミカライズ版も刊行されており、一つのIPが配信・イベント・物販・出版と、複数の収益源に同時に広がっていることがわかります。
このように、同社は「ウマ娘をモデルケースとして、様々なメディアでオリジナルIPを創出し、上流から下流まで網羅したバリューチェーン全体で収益を重ねていく」IP戦略を推進しているのです。
つづく【後編記事】『グーグル、アマゾンすら敵わない…「サイバーエージェントとネトフリ」意外なふたり《強さの共通点》が見えてきた』では、サイバーエージェントのIP戦略の核であり最大の競争優位性でもある要素――『コンテンツ企業としての感性』と『インターネット企業として技術』を高いレベルで両立させていること――について解説します。
【つづきを読む】グーグル、アマゾンすら敵わない…「サイバーエージェントとネトフリ」意外なふたり《強さの共通点》が見えてきた
