ESAの二重小惑星探査機「Hera」が深宇宙で2回目の軌道変更に成功 到着は2026年11月
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)は2026年3月17日付で、「Didymos(ディディモス)」と「Dimorphos(ディモルフォス)」からなる二重小惑星に向けて飛行中の二重小惑星探査ミッション「Hera(ヘラ)」の探査機が、目的地到着に向けた最後の主要な軌道修正操縦を完了したと発表しました。
2024年10月の打ち上げから約1年半。地球を守るプラネタリーディフェンス(※)の一環として実施されているHeraミッションは、いよいよ二重小惑星到着が8か月後に迫っています。
※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み。惑星防衛、地球防衛とも。

4週間かけて一連の軌道制御を完了
2025年3月に火星スイングバイを終えたHera探査機は、全行程で予定されていた2回の大規模な深宇宙マヌーバ(軌道制御)のうち、2回目となる「DSM-2」を2026年2月から3月にかけて実施しました。
3回のエンジン噴射と1回の小規模な修正噴射に分けて行われたDSM-2で、探査機は合計123kgの推進剤を消費し、秒速367mという大幅な速度変化を達成しました。ESAによると、DSM-2のエンジン噴射で得られたエネルギーは、静止した物体を超音速まで加速させられるだけの量に匹敵します。
また、この機会を利用して、Hera探査機の頭脳となる制御ソフトウェアの遠隔アップデートも実施されました。このアップデートによって、探査機の小惑星近傍での自律航行や、搭載されている2機の小型探査機を放出する際の監視機能などが大幅に強化されています。
深宇宙を飛行中の探査機は光の速度で約10分もかかるほど離れていた上に、探査機へソフトウェアを送信する速度は一般的な家庭用インターネット接続のわずか10万分の4(0.004%)という極めて低速な通信環境でしたが、約3時間かけたアップデート作業は無事成功したということです。
NASAミッション「DART」の衝突跡を調査
Heraミッションの最大の任務は、2022年9月に実施されたNASA(アメリカ航空宇宙局)のミッション「DART(Double Asteroid Redirection Test=二重小惑星方向転換試験)」の成果を詳細に調査することです。
DARTもプラネタリーディフェンスの一環として計画されたミッションで、Didymosの衛星であるDimorphosに無人探査機を意図的に衝突させることで、将来地球に衝突するおそれのある小惑星の軌道を探査機の意図的な衝突によって変更する「キネティックインパクト」と呼ばれる技術の実証が行われました。

実際に、DART探査機の衝突によって軌道が変化したDimorphosの衛星としての公転周期は、衝突前の約11時間55分から33分15秒短くなったことが確認されています。また、Didymosも含めた二重小惑星系としての太陽を周回する約770日の公転周期も0.15秒短くなったとする研究成果が発表されています。
公転周期がわずかに短縮 NASA探査機「DART」の衝突は二重小惑星全体に影響していた(2026年3月9日)
ESAによると、Hera探査機はDART探査機が衝突した後のDimorphosを訪れて、衝突で形成されたクレーターの形状や、小惑星の正確な質量・構造を調査する予定です。Heraミッションによる調査を通じて、キネティックインパクトを科学的な裏付けにもとづいた再現可能な地球防衛技術へと進化させることが期待されています。

2機の小型探査機と協調して観測を実施
また、Hera探査機は2機の小型探査機「Milani(ミラーニ)」および「Juventas(ユウェンタス)」と協調してDimorphosの観測を行う予定です。MilaniとJuventasはどちらも6UサイズのCubeSat規格を採用した小さな探査機で、Hera探査機に搭載されており、小惑星近傍に到着してから放出されます。
イタリアで開発されたMilaniは、反射光のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)をもとに小惑星の化学組成を調べる分光観測や、小惑星の周囲に漂う塵(ダスト)の量・成分を特定する調査を行います。
ルクセンブルクが中心となって開発されたJuventasは、小惑星としては初となる低周波レーダーによる内部探査を実施します。このレーダーはあたかもレントゲン撮影のように、直径約150mのDimorphosの内部を100mの深さまでスキャンして、小惑星の構造を三次元的に可視化するために搭載されています。また、Juventasは数日間の観測を実施した後、最終的に小惑星表面への着陸にも挑み、搭載された重力計を使ってDidymosから受けるDimorphos表面の重力の変化を直接測定する予定です。

二重小惑星到着は2026年11月の予定
今後のHera探査機は、2026年10月から一連の精密なエンジン噴射を開始し、巡航モードから会合モードへと移行します。約3週間にわたる慎重なアプローチを経て、当初の予定よりも1か月早い2026年11月にDidymos - Dimorphosの二重小惑星とランデブーを果たす予定です。
Heraミッションは、地球に衝突する可能性もあるNEO(Near Earth Object=近地球天体)の監視と対策を行うESAのプラネタリーディフェンスオフィスの取り組みの中核をなすものとなります。ミッションを通じて得られた小惑星の内部構造や精密な質量データは、将来の地球を守るための貴重な情報となることが期待されます。
【▲ Hera探査機の飛行経路を解説した動画(英語)(Credit: ESA)】
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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