(※写真はイメージです/PIXTA)

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定年後の限られた年金でやりくりするなか、突如として家計を圧迫する税金や保険料の負担増。実は、過去に受け取った一度限りの臨時収入が、翌年以降の支出に影響を及ぼすケースは少なくありません。ある男性のエピソードから、見落としがちな「所得」と「公的負担」の仕組みについてみていきます。

想定外だった「収入扱い」の現実

都内近郊で夫婦で暮らす田中恒一さん(69歳・仮名)。中堅メーカーに長年勤務し、65歳で定年退職しました。年金は月18万円ほど。退職時には「節度ある生活を続ければ問題はない」と考えていました。

実際、生活は堅実でした。食費は月6万円台、光熱費は季節によって上下するものの月2万円前後。外食は月に数回程度に抑え、旅行も年に1度あるかどうかです。生活全体としては月25万円前後の支出に収まっており、貯蓄を取り崩しながらも「多少の余裕はある」という認識でした。

しかし、その認識はあっという間に崩壊します。ある年の6月、自宅に届いたのは市区町村からの「住民税決定通知書」と「介護保険料決定通知書」でした。いずれも毎年送られてくる書類ですが、その年は金額が明らかに増えていました。

住民税は前年の約6万円から約12万円へと倍増。さらに介護保険料も年額約9万円から約15万円へと上昇し、単純計算で年間約12万円の負担増となっていたのです。月に換算すると約1万円ですが、実際には国民健康保険料の変動なども重なり、体感としては「毎月2万〜3万円ほど余裕が消えた」感覚だったといいます。

当初、田中さんは制度変更による一時的な増加だと考えていました。しかし、通知書の内訳を確認するうちに、その原因が過去の収入にあることに気づきます。それは退職時に受け取った企業年金の一時金。約300万円を一括で受け取り、その多くを生活費や住宅関連の支出に充てていました。

この一時金について、田中さんは「すでに受け取って使ったお金」という認識を持っていました。受け取った時点で完結していると考え、その後の税や保険料への影響は想定していなかったといいます。しかし実際には、この一時金の一部が所得として扱われ、翌年の住民税介護保険料の算定に反映されていました。

田中さんは日々の収支や預貯金の動きを把握していましたが、「過去の一時的な収入が、後から負担増として影響する」という仕組みは認識していませんでした。結果として、支出の総額は大きく変わっていないにもかかわらず、固定的な負担が増加し、生活の余裕は徐々に失われていきます。

「一度受け取っただけのものが、あとから効いてくるとは思っていませんでした」

現在は支出の見直しを進めていますが、一度上がった負担はすぐには元に戻りません。老後の家計は、毎月の収入だけでなく、過去の選択によっても左右される――その現実を田中さんは実感することになりました。

一時的な収入が「後から効く…」制度の仕組み

田中さんのようなケースは特別ではありません。総務省『家計調査 家計収支編(2025年)』によると、65歳以上の無職夫婦世帯では、実収入が25万4,395円、可処分所得が22万1,544円であるのに対し、消費支出は26万3,979円となっており、毎月4万2,434円の赤字が生じています。

もともと月4万円以上の不足が発生する状況のなかで、税や保険料の負担が数万円単位で増加すれば、家計は急速に悪化していきます。背景にあるのが、「前年所得課税」という仕組みです。

住民税は、その年の収入ではなく前年の所得をもとに計算されます。また、介護保険料も所得に応じて段階的に設定されるため、所得が増えれば翌年度の保険料も引き上げられます。総務省や厚生労働省の資料でも、住民税が前年所得に基づいて課税されること、介護保険料が所得区分によって決定されることが示されています。

つまり、退職金や企業年金の一時金など、一度限りの収入であっても、その影響は翌年の負担として現れるのです。特に注意が必要なのは、「単発の収入だから影響は一時的」と捉えてしまうこと。実際には、所得の増加として扱われることで、税や社会保険料といった固定的な負担が引き上げられ、生活に継続的な影響を及ぼします。

老後の生活設計では、毎月の収支だけでなく、「一時的な収入が翌年以降にどう影響するか」まで含めて把握することが重要です。見落とされがちな制度の仕組みを理解することが、想定外の家計悪化を防ぐための鍵となります。