『ばけばけ』写真提供=NHK

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 あらゆるエンターテインメント作品の中で、「朝ドラ」というのはもっとも視聴者層が幅広い。毎日放送されるのだから、人々の目に触れる機会はそれだけ多くなる。そしてこの「朝ドラ」に俳優たちが刻む好演が、また次なる作品に出演するきっかけにもなっていく。

参考:濱正悟、『ばけばけ』で引き出された初めての“顔” 「居心地が良くて集中できる環境でした」

 残すところあと少しとなった『ばけばけ』(NHK総合)にも、じつにさまざまな俳優たちの好演が刻まれた。ヒロイン・トキを演じる髙石あかりだけではない。ヘブン/八雲(トミー・バストウ)の親愛なる友である、錦織友一という人間の魂までも表現した吉沢亮の演技には、かなり鬼気迫るものがあった。

 ここでは、トキとヘブン/八雲の日常をより豊かなものにする人々を演じた、円井わん、濱正悟、杉田雷麟、野内まるの存在を振り返ってみたい。

■円井わん(サワ役) トキの幼なじみであるサワを演じた円井わんは、このドラマをはじまりから支えてきた俳優だ。サワはトキと同じく貧しい家庭の生まれで、ふたりはずっと苦楽をともにしてきた。しかし、トキがヘブン/八雲と結ばれたことにより、彼女らの間には溝ができてしまった。円井ははじまりからカラッとした演技でサワを体現し続けていたものだが、あの一連の流れの中で表現した“内なる葛藤”が見事だっただろう。発する言葉は淡々としているが、その表情からはどこか無理をしているのが分かる。円井が立ち上げたサワというキャラクターは、たんなる“幼なじみ役”にとどまるものではなかったのである。彼女の存在が、『ばけばけ』の世界をより深く濃いものにしたのだ。

■濱正悟(庄田多吉役) そんなサワの物語に関わってきたのが、濱正悟が演じる庄田多吉だ。濱といえば『舞いあがれ!』(2022年度後期/NHK総合)でヒロインの航空学校の同期という重要な役どころを担っていたことが記憶に新しいが、今作でもまた、大切なポジションをまっとうすることとなった。サワの前に現れた多吉は、まさに“好男子”といえる人物。物腰が柔らかく、とても誠実だ。円井とのかけ合いは初々しくて愛らしく、濱の表現する優しさと温かさが、サワの頑なな心をほぐしていく。彼の存在があってこそ、円井の演技も輝いたのだといえるだろう。サワと多吉が結ばれて、本当によかった……。

■杉田雷麟(丈役) 杉田雷麟が演じたのは錦織友一の弟であり、ヘブン/八雲の教え子である丈。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年)などの強い作家性を持った作品から、『ガンニバル』シリーズ(ディズニープラス)といった刺激的な娯楽作品の軸にもなる杉田は、やはり「朝ドラ」にも適応してみせる。『ばけばけ』ではつねに物語の展開や、ほかの俳優たちの演技を支えるポジションを担い続けてきた。彼は主役も張ることのできる器の持ち主だが、作品の世界観に溶け込み、脇に徹することもできる。演じるうえでのポジショニングが正確なのだろう。それは丈の友人・正木清一を演じた日高由起刀も同じ。だから彼らが「熊本編」に登場することも、すんなりと受け入れられたのだ。

■野内まる(ウメ役) 野内まるが演じるウメもまた、『ばけばけ』の世界になくてはならない存在だった。トキやヘブン/八雲がお世話になった旅館の女中であり、トキにさまざまな暮らしの手立てを教えた人物だ。野内は俳優としての活動をはじめてからまだ数年の若手俳優だが、現在は『冬のなんかさ、春のなんかね』(日本テレビ系)でも主人公の友人役を好演中であり、『阿修羅のごとく』(2025年/Netflix)や日曜劇場『御上先生』(2025年/TBS系)などの話題作にも登場している。“期待の新人”の枠にいるのは明白で、今回の「朝ドラ」で示した快活さは、より多くの作り手たちの目に留まる契機となったはずだ。これから続いていくであろう彼女のキャリアにおいて、『ばけばけ』は重要な一作になるに違いない。

 あるときには静かな、またあるときには大胆な、いくつもの俳優たちの演技が生まれる瞬間に立ち会うことができた。もちろん、ここで言及した4名の演技者たちの存在のみによって『ばけばけ』が成立しているわけではない。そのことは付記しておこうと思う。とはいうものの、3月30日から4夜連続で放送される『ばけばけ』のスピンオフ作品で主演を務めるのは、円井と野内である。このことがすでに、彼女たちの評価の高さを物語っているのはたしかだ。(文=折田侑駿)