安曇野へ移住して16年『80歳、私らしいシンプルライフ』より

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2025年下半期(7月〜12月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2025年9月24日)********元『装苑』編集長・徳田民子さんが、安曇野に移住して16年。「第2の人生」を自分らしく楽しむために、たくさんの物を手放し人生をリセットしていきました。たどりついたのは《シンプルって、心地いい》ということ。四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣などを語った、徳田さん初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』より、一部を抜粋して紹介します。

【写真】64歳のときに長野県安曇野市に移住。完成したばかりの新居の前で

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移住をきっかけに暮らしをシンプルに。必要なものはそう多くないと気づきました

暮らしをリセットしたくて長野県安曇野市へ移住。この田舎暮らしを始めてから、もう16年がたちました。

移住の大きなきっかけは、もともと「定年退職後は東京の都会から離れて田舎暮らしをしてみたいね」と、夫婦で話し合っていたから。

また、私自身、50代に入った頃から、次第に気持ちの変化がありました。それは、いつの間にかたまってしまったたくさんのものを減らすことができたら、きっと心地よい。

心持ちも軽くなって身軽になって、また何か新しいことが始まる。そんな気持ちの変化がだんだんと大きくなっていたんです。そうした思いも自分の背中を押してくれていたのかとも思います。

もちろん定年退職後も大好きなファッションにかかわる仕事は長く続けていきたいと考えていました。

だったら東京でそのまま暮らしていたほうが仕事はしやすかったかもしれません。ですが、それよりも、新しい生活をしてみたい、という気持ちのほうがワクワクする。そのほうが絶対に楽しそう!と思ったからです。

2年くらいの準備を重ねて、64歳の秋に移住しました。都内のマンション暮らしから地方での田舎暮らしへ。そう、移住は、新しく始まるこれからの暮らしに必要なものを見直すいい機会になったんです。

新しく住む場所は、自分の目の届く、小さな家にしようと決めていました。さて、どうやってものを減らすかが大問題です。

私は、残す基準としてシンプルに、「使うものだけ」と、決めました。

シンプルって、心地よい!

使うものだけがあって、それもすべてフル活用している状態って、とっても心地がいいものだと思いませんか。

シンプルって、心地よい!それも、「今」必要なもの、使うものだけを残すこと。移住によってこの選別作業を楽しく進めることができました。

処分したものの代表は、東京のマンション住まいで使用していた大きな食器棚。そのまま田舎の家へ置いたのでは、まるっきり浮いてしまいます。

だって安曇野は、周囲の雑木林や畑がひろがるのんびりとした自然に囲まれた場所です。そこに私たちが建てる新しい家は、簡素な木造、平屋建ての小さな家。

そこにつるんとした硬質素材の重厚感ある食器棚はまるで似合いません。また、食器棚のほかにダイニングテーブル、椅子なども処分しました。

大好きな衣類も3年着ていないものは処分、などルールを決めて思い切って分別。

そうやって選別をしてみると、必要なものって実はそんなに多くない。この選別作業は自分を見つめ直すとてもいい機会になりました。

中古の家を購入するつもりが見つからず、イチから建てることにしました

どこに住んで、どんな家で暮らすのか。当初、「ここで暮らしたい!」と具体的な候補地があったわけではありませんでした。自分たちが思うままに、まずは、物件探しから始めました。

気になる町の不動産屋の情報を調べては、週末、夫婦でドライブがてら物件探しによく出かけたものです。

ある時期、関東近郊の海沿いの町が気に入って、真剣に家探しをしたものの、実際に調べてみると、家は素敵でも環境がいまいちだったり、環境はよくても物件が少なかったり。

予算もありますし、なかなか条件に合う家は見つかりませんでした。

安曇野との出会いはそんなとき、実はまったくの偶然でした。

たまたま信州へドライブで遊びに行った際、カーブを抜けた先の橋を渡ったときに突然、北アルプスのパノラマ、雄大な山並みが眼前に広がって。

そのとき、一瞬で「わあ、こんなところに住みたい!」って思ったんです。夫も同じように感じていました。

夫婦で意見が一致したこと

そうです。第2の人生の地は探して探してたどり着いたわけでなく、こんな不意の出会いで簡単に決まったんです。

景色を見た瞬間、「住むならここ」って、夫婦で意見が一致したことは本当によかった。

ただし、すぐに住めるような、金銭的にもちょうどいい中古の家は見つからず。そんなときにまた、現在の土地との出会いがありました。

我が家の土地は、初見では田んぼの跡地と雑木林の状態でした。まだ宅地として認可されていない土地でしたが、「よかったら見てみますか」と、松本の不動産屋に紹介してもらいました。

場所は、なだらかな丘陵地で、周囲は別荘や地元の人が暮らす住宅などが混在するのんびりとしたのどかな場所です。

田んぼの跡地と雑木林ということで、まず造成して更地にし、本当にイチから家づくりをしなくてはなりません。

ただ、更地にもなっていない自然の雑木林という土地の佇まいを見たからこそ、気に入ったのかもしれません。

林に残っていた自生の大きな山栗の木など、気に入ってわざわざ新居の庭へ残した木もありました。

憧れていた、まさに自然に囲まれた場所での土に触れる暮らしに向けて、イチからの家づくりでした。

我が家の南の庭の向こう、つまり隣接地は今も雑木林のままです。その借景もとても気に入っています。

※本稿は『80歳、私らしいシンプルライフ』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。