同店の一部店舗において、対面販売ではなくお客が至近距離で手に取れる販売スタイルにしたことは、憧れの食べ物を身近に感じさせ、購買意欲を刺激したことは間違いありません。

 しかしながらそれと引き換えに、食品企業にとって大きなリスクとなりうる「衛生面でのリスク対策」が重視されることになります。これは注目される店であればなおさらで、心理的にも不安感や不快感を抱かせないことが大切です。

 なお、今回の騒動に関しては、ネットニュースサイトの「J-CASTニュース」が運営企業への取材内容を掲載しています。記事によると広報担当者は、話題となった陳列台について「日常的に清掃・衛生管理を行っている」とし、今後の運用改善も含めて検討すると回答。またデザインについても「お風呂や浴槽などを想起させるタイルではなく、キューブの組み合わせをイメージしたデザイン表現」であると説明しています。

◆お客は、“記憶”を背負って食べている

 そしてもう一つの理由として考えられるのは、食べ物は“味”だけで評価されるものではないという根源的な事実です。

 例えば同じ食べ物であっても、いつ食べるか? 誰と食べるか? どこで食べるか? によって味が左右されることは誰もが想像できるでしょう。実はそれに加えて、私たちの“記憶”や“思い出”が大きく影響を与えることがあるのです。

 例えば幼少期に叱られながら食べたものが苦手食材になってしまったことはわかりやすいかもしれません。また自分が不快感を抱く空間やシーンを思い出した時に、ごちそうを食べる気にならないことは誰もがイメージしやすいのではないでしょうか。

 つまり私たちは、無意識の中で、“過去の記憶や思い出”を背負って食べているのです。

 このように考えていくと、負の記憶を想起させない完璧な店舗デザインは存在しないかもしれませんが、致命的になるような負の共感を生むリスク排除は、企業の対策次第で軽減することはできます。

 今回の炎上理由を、消費者の声が正義になりやすい時代だからと片づけてはならないと思います。食は食べる人の健康だけでなく、これまで生きてきた人生に対しても入念な配慮と敬意を持って提供されることも重要です。

 多くの人々の心を強く感動させるような大ヒットを生むためには、お客がワクワクできること、圧倒的なおいしさを体験すること、手頃に購入できることに加えて、「安心できること(不安・不快にならないこと)」が求められているのではないでしょうか。

<文/食文化研究家 スギアカツキ>

【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12