動悸が止まりません…年金月17万円・68歳元部長に届いた「箔押し封筒」の恐怖。「10万円」が消えた夜のため息
現役時代にどれほど活躍していても、定年後の生活が思い描いた通りになるとは限りません。ふとしたきっかけで突きつけられるのは、老後のシビアな現実と、自由にならないお金への葛藤です。ある男性のケースをみていきます。
「部長、乾杯の挨拶を」かつての部下からの招待状に、冷や汗が止まらない
「白い封筒に、金の箔押しで『寿』の文字。現役時代なら『おぉ、めでたいな!』とすぐにスケジュールを確認したけど……今は動悸が止まりません」
都内在住の工藤隆さん(68歳・仮名)。60歳で定年を迎えた会社では営業部長として手腕をふるい、定年後は65歳まで関連会社で顧問として働きました。
事の発端は、かつて弟子のように可愛がっていた元部下からの結婚式の招待状。「晩婚ですが、ようやく身を固めます。ぜひ工藤部長に主賓として乾杯の挨拶をお願いしたいのです」という電話と直筆の手紙がありました。断る理由はどこにもありません。しかし、工藤さんの頭をまずよぎったのは、「いくらかかるか」という計算でした。
「元上司、それも主賓として招かれたなら、ご祝儀は5万円は包まないと格好がつかない。さらに、今の体型に合う礼服がないから新調が必要。ざっと見積もって10万円コースです」
工藤家の現在の収入は、月約17万円の年金のみ。現役時代に組んだ住宅ローンは完済していますが、築年数が経ったマンションの管理費・修繕積立金は上がり続け、毎月4万円が飛んでいきます。食費や光熱費、医療費……毎月5万円ほどを取り崩しています。
そのような老後に備え、5歳年下の妻が堅実に貯蓄を増やしていったといいます。その金額を詳しくは知らないとはいうものの、「確か5,000万円くらいはあるはず」と工藤さん。安泰の老後かと思いきや、現在、工藤さんは毎月1万円の小遣い制だといいます。
「昨年、大病をしてかなりの出費だったんですよ。それで妻が『破産する!』と大騒ぎ。これまで以上に財布を握るようになって……月1万円の小遣いなんて、高校生みたいですよね。笑っちゃいます」
結局、コツコツと貯めていた“自分貯金”を取り崩して式に参列したという工藤さんは、披露宴で振る舞われた高級フレンチの味も、ほとんどわからなかったそうです。
「お金があって老後安泰といっても、使えなきゃないのと同じ。惨めなもんですよ」
ため息をつきながら、財布の中身を見せてくれた工藤さん。小銭しかなく、コーヒー1杯飲めるか飲めないかという状況。そこには営業部長として手腕を振るっていた面影など1ミリもありませんでした。
「元会社員」の年金分布、最も多いのは月17万〜18万円の層
「現役時代は部長だった」というプライドと、「年金生活者」という経済的現実。このギャップに苦しんでいるのは工藤さんだけではありません。
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』から、厚生年金受給者の実態を見てみましょう。資料によると、厚生年金(第1号・男子)の平均年金月額は16万9,967円。
さらに、受給額の分布(月額階級別受給権者数)を見ると、男性の場合、月額17万〜18万円を受け取っている人が約103万人と最も多く、次いで月額18万円〜19万円の人が約102万人となっています。つまり、現役時代に相応の給与を得ていたサラリーマンの多くが、この「月17万円前後」のラインに集中しているのです。
このような状況下、年金だけで生活のすべてを賄うのが難しいことは明白。だからこそ現役時代の資産形成が重要なのです。
しかし、工藤さんのように、どんなに貯蓄があっても自由に使えるお金がわずかであれば、悠々自適な老後はほど遠いものになります。株式会社プラスエイトの調査によると、50代夫婦の半数弱が小遣い制。また小遣い制の夫婦の9割以上が、小遣い制になったのは結婚当初と回答しています。
この結果を鑑みると、現役時代に小遣い制だった場合、定年を迎え、会社のしがらみから自由になったとしても、経済的には自由になれない、といえるでしょう。工藤さんのように「貯蓄はあるのだけど……」と、ため息をつく可能性が高いのです。
現役時代、どれだけ経済的自由を手に入れているか――その度合いによって、老後は大きく変わっていきそうです。
[参考資料]
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』 株式会社プラスエイト『【自分で稼いだお金なのに使えない....】8割以上がお小遣い制は結婚当初から!20代男性の約4割は家計管理に不満と回答』
