健康で長生きするにはどんなコツがあるのか。福島県立医科大学医学部の大平哲也主任教授は「通勤など日々の暮らしのなかに仕組みとして運動を入れ込むといい。そのためには『家選び』がとても重要だ」という――。(第3回)

※本稿は、大平哲也『10000人を60年間追跡調査してわかった 健康な人の小さな習慣』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■秋田の農家に肥満が増えた理由

CIRCS研究を行うなかで、秋田の農家の人たちに肥満が増えていることがわかりました。

かつて、農業従事者は身体活動量が大変多かったため、肥満はほとんど見られませんでした。ところが、整地・播種・収穫などの作業に機械が使われるようになり、運動量が減ったことが大きく影響していると思われます。

そして、もう一つ、暮らしの環境が変化したことも見逃せません。

もともと、農家の住む地域は鉄道が整備された都市部から離れており、移動には車を使う習慣があります。農作業以外の運動量は案外、多くないのです。

加えて、最近では、車で行けるところにショッピングモールのような大型スーパーができました。そこに出かけては、缶コーヒーや清涼飲料水などを大量に買いして毎日のように飲んだり、種類豊富な菓子類をあれこれそろえて多食するようになったりしたことも肥満化に輪をかけました。

実は、私たちの運動量というのは、個人の意識の高さや従事している仕事内容によって変わるのはもちろん、「どこに住んでいるか」がかなり左右するのです。

図表1は、都道府県別で見た1日の平均歩数です。

出典=『10000人を60年間追跡調査してわかった 健康な人の小さな習慣』

男性で見てみると、東京都は平均8600歩。埼玉県、千葉県、神奈川県もすべて平均が8000歩を超えています。一方で、東北地方の岩手県、宮城県、秋田県はいずれも6000歩台です。

四国でも、徳島県は男女ともに7000歩未満、高知県は6000歩未満と、やはり鉄道の便がいい都会の人のほうがよく歩き、地方の人は車を使ってしまい歩かない傾向が見てとれます。

■福島に引っ越したら体重が2キロ増えた

もちろん、これはあくまで都道府県別の話であって、たとえば、高知県でも駅に近くて動きやすいところもありますし、東京都だって車で移動するしかない辺ぴなところもあります。要するに、何県に住んでいるかが問題なのではなく、どういう場所に住んでいるかが重要だということです。

私自身、大阪から福島に引っ越してきたばかりの頃、通勤を車に替えたら、毎日の歩数が1万1000歩から3000歩に減りました。

さらに、街の食堂のご飯の盛りの多いことや、味付けが濃いことで食べすぎてしまい、あっという間に体重が2キロ増えました。

その後、「これはいかん」と思い、階段の上り下りを増やしたり、食事量を調節したりして元に戻しましたが、意識しなければどんどん太ったことでしょう。

これは、私が大阪から移動してきたから気づいたことで、ずっと福島にいたなら「これが普通」と思っているはずです。

車で移動する人たちに囲まれていれば、それが普通。

自分の足で歩く人たちに囲まれていれば、それが普通。

前者の場合でも、よほど強い意志を持って「自分は歩く」と決めて生活できれば問題ありません。でも、どちらかを選べるならば、後者にすることで強い意志などなくても自然と運動量は増えます。

写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

■家は駅から徒歩15分がベスト

これまで述べてきたように、わざわざジムに入会するよりも、通勤など日々の暮らしのなかに仕組みとして運動を入れ込んでしまったほうがいいのです。

それを考えると、「家選び」がとても重要になってきます。

働き盛りの頃はどうしても運動量が減りがちです。したがって高齢者は別ですが、働き盛りの頃(実は最も運動量が少ない頃)に住むのは、駅から早歩きで15分くらいのところが理想です。

あるいは、会社から15分のところでもいいでしょう。とくに、地方の不便な場所に勤め先がある場合、車での通勤が当たり前になっていると思います。こういうケースでは、思い切って勤め先から歩いて15分のところに引っ越すことを考えてみてください。

いずれにしても、少なくとも10分以上は歩かねばならないところにしましょう。というのも、運動は10分以上続けないと効果が期待しにくいからです。

借りるにしても買うにしても、駅から15分も離れると、駅前の物件より格段に安くすみます。健康になるだけでなく、経済的にも余裕が持てます。

■60歳までに「筋肉を蓄えておく」

なお、この15分というのが絶妙なところで、あまり駅から離れてしまうとバスや車に乗りたくなります。これまた運動の機会を逃してしまいます。バスに乗らなくてはならない距離ならば、自転車を使うなどしたほうがいいでしょう。

ただし、自転車は有酸素運動にはなっても、自重がかからないので骨密度を増やすことはできません。また、若い男性の場合、自転車は生殖機能に影響を与える可能性があるので注意が必要です。

すでに駅に近いところに住んでいる人ならば、1駅分歩くというのもいいですが、考えてみるととても損。駅に近い物件は家賃も高いのに、そこに住んでわざわざ1駅歩くくらいなら、駅から離れた家賃が安い物件に移ることも検討しましょう。できれば、途中に坂道があればベストです。

エレベーターのない団地に住むなら、低層階ではなく、4階や5階を選びましょう。日常的に使うスーパーなどの施設についても、歩いて15分を念頭に置いてください。

私たちの筋肉は加齢とともに落ち、とくに、後期高齢者になると大きく減ります。そのため、60歳くらいまでに筋肉を蓄えておくことが大事になってきます。会社勤めをしているときに、通勤時間を使って筋肉を増やしておくのは非常に有効なのです。

要するに、生きているだけで運動してしまう仕組みをつくってしまえば、自然と運動量が増えるのです。

■近くに公園があると運動量が増える

近くに公園があるところに住んでいる人は、そうでない人と比べて運動量が多くなる傾向にあります。家探しをするときは、大きめの公園が近くにあるかを確かめましょう。

緑豊かで気持ちのいい公園があれば、なんとなく散歩したい気分にもなるでしょう。

また、そうした公園では、地域主催の運動イベントがよく開かれます。私が朝にジョギングしているコース途中にある公園では、6時半になるとラジオ体操が始まり、その後しばらく、いろいろな体操が行われています。

写真=iStock.com/Isbjorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Isbjorn

こうしたものに出勤前に参加するのは、一日の始まりとして最高です。

さらに、最近の公園には、腹筋台などさまざまな健康器具を置いてあるところが増えました。それを利用してちょっと筋トレするだけでもいいでしょう。

行政で、ウォーキングマップを作成しているケースもあります。比較的安全で、気持ちよく歩けるルートが紹介されています。

いずれも、市区町村の広報誌やホームページなどで調べるとわかります。住んでいる地域のサイトで探してみてください。こうした方法を活用し、お金をかけることなく賢く運動する機会を増やしましょう。

■タワマンは健康に悪い

働き盛りの頃は、駅から歩かねばならないところに住んでほしいのですが、定年を迎えるような年代になったら、今度は「便利な場所」に移ることをおすすめします。年齢を重ねると、どうしても出かけるのがおっくうになってきます。でも、家にこもっていれば運動量も減り、人とのコミュニケーションも減り、要介護へまっしぐらです。

駅に近い便利な場所に住んでどんどん外出し、映画やコンサートに行って刺激を得たり、イベントに参加したりしてください。

また、年代にかかわらず、家の周囲の夜の環境を調べておくことも大事です。

街灯の少ないところに住んでいると、夜はなかなか出歩けません。会社の帰りが遅い時間になっても、夕食後でも、安心して歩けるところを選びましょう。

大平哲也『10000人を60年間追跡調査してわかった 健康な人の小さな習慣』(ダイヤモンド社)

ちなみに、流行のタワーマンションの高層階は、健康面を考えるとあまりおすすめはできません。

高層階では、なにかにつけエレベーターを使うことになり、しかも、それがなかなかやって来ません。結果的に、エレベーターを待つのが面倒で出歩く回数が減ります。もちろん、エレベーターを待っている時間がストレスになります。

さらに、高層階では絶えず、気がつかないレベルの微細な揺れが起きており、それが健康を阻害するのではないかという論文も出ています。

これから選べるならば、タワマンであっても5階くらいの低層階に住み、階段を使って行動するといいでしょう。

----------
大平 哲也(おおひら・てつや)
福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授
1965年、福島県生まれ。福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。同大学健康増進センター副センター長。大阪大学大学院医学系研究科招聘教授。福島県立医科大学卒業、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員、大阪大学医学系研究科准教授などを経て現職。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。
----------

(福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授 大平 哲也)