ヤクザの「指詰め」はどれぐらい痛いのか…暴力団幹部が語る「心臓の鼓動に合わせてズキンズキン」という現実
※本稿は、尾島正洋『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

■「指詰め」は実際どのくらい痛いのか
暴力団社会では不祥事や不始末があった際のケジメとして「指詰め」が行われることがある。自ら手の指を切断することで、謝罪の意や誠意を示す。かつては組織を脱退する際にも行われていた。暴力団幹部らは「ヤクザの社会での伝統的なケジメ」と口を揃える。
指定暴力団幹部「自分が指を詰めたのは10代後半のまだ若いころだ。指を詰めた日は、夕方あたりから心臓の鼓動に合わせて指先が『ズキン、ズキン』と痛み、3日間ほどは本当に痛かった。
関東地方のある組織に志願して入門し事務所に出入りするようになったが、『部屋住み』と呼ばれる住み込みでの行儀見習いが身につく前に、事情があって離れることになった。わずかな期間だったので、申し訳ないという気持ちから指を詰めることにした。
自分で包丁を右手で持って左手の小指に当て、親しい友人に包丁の上部にハンマーを振り下ろしてもらった。痛みはあったが、一発でスパッと切れた。すぐに病院で治療してもらい、麻酔が効いてくると痛みはさほどでもなかった。病院ではまず切断した指の先端の骨を削ったうえで、縫い合わせた。当初は麻酔が効いていたが、切れてくると痛みが続いた。事務所を訪ね切断した指を親分に手渡して詫びた。
自ら志願しておきながら短期間で抜けたことが指を詰めて詫びを入れるほどの不祥事かどうかは不明だが……。親分に気持ちを伝える目的もあったが、やはりヤクザをやっていくには指を詰めていたほうがカッコいいという考えや、指を詰めていることへの憧れという気持ちもあった。いまからすると、若気の至りかもしれないが。」
この幹部は、その後、違う指定暴力団の二次団体の組長の盃を受けて組織に入り、首都圏各地で活動を続けている。
■自分の小指を食いちぎったヤクザも
別の指定暴力団幹部「指を詰めることは、不祥事、不始末があった際のヤクザのケジメ。ヤクザは『すみませんでした』の一言では済まない。
あるヤクザがミスをして1000万円の穴をあけてしまい、幹部から『どうするんだ。責任を取れ』と追及される事態になったとする。このご時世、1000万円を作れと言われても、そう簡単には作れない。そうなると『それで済むなら』と指を詰めることになる。」
警察当局の捜査幹部OB「かなり昔の話だが、東京のある組で、若い衆が下手を打ったことが原因でカネをめぐって大問題が発覚した。この若い衆が殺されてもおかしくないほどの大きなトラブルだったようだ。
この組の親分が若い衆を呼び出して『どうなっているんだ』と詰問した。『責任を取れ。すぐにケジメをつけろ』と迫ったところ、若い衆はその場で自分の左手の小指の先端に噛みついて歯で食いちぎってしまったという。これには親分も参ったらしい。
最近は変わってきているが、昔は『その程度の不始末で詰めるのか』というぐらいに、問題があると何でもすぐに指を切っていた。だから、指が何本もないヤクザは結構いる。」
■指詰めを強要して逮捕されるヤクザたち
暴力団対策法には、指詰めを禁ずる規定がある。違反行為には中止命令が出され、それでも是正されなければ再発防止命令となる。
福岡の道仁会系暴力団では、次のような事例があった。31歳の組員が「組を辞めて、まじめにカタギになって仕事をしたい」と申し出た。これに対し同会幹部は、「そんな理由で辞められると思うなよ。辞めたいのなら、指の1本でも持ってこい」と指を詰めることを強要し、脱退を妨害したとして2013年11月、中止命令を受けた。
さらに2014年8月にも別の28歳の組員の脱退を妨害し、指詰めを強要していたため、福岡県公安委員会が2015年3月、再発防止命令を出した。2016年5月には、富山県警が山口組系暴力団幹部ら4人を傷害と監禁容疑で逮捕している。
組員の男性が、六代目山口組から分派した神戸山口組に合流しようとしたことに怒り、組幹部らがこの男性を拉致した。車に乗せて連れまわした挙げ句、富山市内の山中で暴行し男性の指を切断する重傷を負わせた。
2014年1月にも同様の事件で逮捕者が出ている。組を抜けようとした27歳の男性を車で拉致して名古屋市内の事務所に連れて行き、男性の左手の小指をノミとハンマーを使って切断したとして、山口組系幹部らが傷害容疑で逮捕された。

■サボりや遅刻でも指を失う
ささいなことで指詰めさせられた事件もあった。
山口組系の会長が、上部組織の事務所の掃除や電話番など、いわゆる「事務所当番」を組員の男性に言いつけていたにもかかわらず、男性がサボったことに激怒。男性にノミとハンマーを手渡して自ら左手小指を切断させたとして2008年5月、強要容疑で兵庫県警に逮捕された。
遅刻で指詰めを強要されたケースもある。山口組系組長は、組員だった男性に大阪府内のスナックに車で迎えに来るよう命じていたが、到着が遅れたことに立腹し、事務所で「ケジメとして指を落として辞めろ」と脅して左手小指を切断させた。この組長は2013年2月、強要容疑で逮捕されている。
数年前に引退した関西地方で活動していた指定暴力団元幹部「昔は、組を抜けるとなると指詰めは当然のように行われていた。ただ、その後のカタギとしての生活に大きな支障をきたすと認められた場合は、手の指を落とすことは免除された。その代わりに、右足の親指を切断していたという話を聞いたことがある。」
■指詰め事件が増加しているワケ
1995年9月、東京の暴力団組長らが、所属していた上部組織から身代金として5000万円をだまし取ろうと自作自演の誘拐事件を計画。共犯者の組員に「組長が誘拐された」と上部組織の本部に電話させて現金を用意させようとした。

事件を起こすにあたって、組長は自らの小指を切断していた。切断された指を上部組織に示して、誘拐されたと信用させることが目的だったと見られる。実際に拉致されたと判断した警視庁が捜査を始めたため組長らは計画を断念して逃走していた。誘拐偽装の際に、事情を知らない女性を監禁していたことも判明し、組長らは2カ月後に監禁致傷容疑で逮捕された。
1995年はすでにバブルが崩壊し、暴力団対策法が施行されたばかりで、シノギに対する規制が強化された時期だ。自らの指を詰めることでカネを得ようとした苦肉の策の誘拐偽装だった。
捜査幹部OB「そもそもヤクザは何かしらの被害に遭っても警察には届け出ないものだ。しかし、暴力団対策法が施行されてしばらくすると、『ヤクザを辞めたい』という組員が多くなってきた。抜け出す際に指詰めなどの制裁にあう恐れがあったため、警察に相談に駆け込むケースも増えた。暴対法施行後は、指詰めを事件として摘発することが結構あった。
さらに2011年までに全国で整備された暴力団排除条例の施行の効果が大きく影響している。暴対法のうえに暴力団排除条例で、収入を確保できなくなってきただけでない。スマートフォンを持てない、銀行口座を開設できないなど経済活動から排除されたため、ヤクザはさらに苦しくなった。それで『辞めたい』となって、指詰めなどの事件の摘発が増えているのだろう。」
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尾島 正洋(おじま・まさひろ)
ノンフィクション作家
1966年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学政経学部卒。1992年、産経新聞社入社。警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、主に社会部で事件の取材を続けてきた。2019年3月末に退社し、フリーに。著書に『総会屋とバブル』(文春新書)、『山口組分裂の真相』(文藝春秋)。『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)がある。
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(ノンフィクション作家 尾島 正洋)
