電動サルーンの「新基準」 フォルクスワーゲンID.7へ試乗 286psで約600kmを実現
テスラ・モデル3のフォルクスワーゲン版?
クルマへ詳しくない人へ、新しいハッチバック・モデルを説明する時、フォルクスワーゲン・ゴルフは1つの指標として便利だった。パサートの場合は、ゴルフより大きく高級感があるフォルクスワーゲンと伝えれば、大まかに理解してもらえた。
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では、ID.7はなんと例えれば良いだろう。テスラ・モデル3のフォルクスワーゲン版、という表現だろうか。ヒョンデ・アイオニック6にも近いが、まだ充分には知られていない。バッテリーEVの時代になって、クルマ全体が変化していると実感する。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
ID.7の成り立ち自体は、さほど複雑ではない。基礎骨格は、フォルクスワーゲン・グループのMEBプラットフォーム。ID.4もベースとしているものだが、見た目は大きく異なる。フォルムは低く滑らかで、空気抵抗を示すCd値は0.23と優秀だ。
リアの駆動用モーターは、改良を受けた最新版。インバーターやトランスミッションも新しいという。効率が高まり、パワーも増し、286psの最高出力を発揮する。
フロントに2基目の駆動用モーターを追加した、四輪駆動のID.7 GTXも追加予定。こちらは、339psを得るようだ。
駆動用バッテリーの容量は2種類あり、プロ仕様で77kWh。プロSでは86kWhへ増える。急速充電能力は、前者で最大170kWまで。後者で200kWまで対応する。航続距離は、プロで621kmと不満ない数字を得ている。プロSでは、700kmまで伸びる。
価格は、英国では5万5570ポンド(約1005万円)から。同社としては、若干お高めだ。
広々とした車内 内装のプレミアム感はほどほど
ID.7のボディサイズは大きく、全長が4961mm、全幅が1862mm、全高は1538mm。モデル3より約300mm長く、約100mm高く、BMW i5へサイズ感は近い。
大きさを活かし、車内は広々。リアシート側にもゆとりがあり、長時間を快適に過ごせるだろう。フロントシートの座面位置は、内燃エンジン・モデルほど低くないものの、適度な包まれ感があり好ましい。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
荷室容量は532L。大きなテールゲートが備わり、荷物の積み下ろしもしやすい。フラットなフロアを活かし各部へ収納が設けられるなど、空間が効率的に利用されている。
フォルクスワーゲンは、プレゼンテーションで「プレミアム」という表現を用いていたが、実際のインテリアは言葉へ追いついていない印象。BMWなどの水準には届いていない。比較的目立つ場所に、安っぽいプラスティックが多用されている。
実際に押せるボタンは限られ、大部分の車載機能はタッチモニターを介する。ステアリングホイール上にはタッチセンサーが配されているが、うっかり触れて、意図しない機能を動かすこともありそうだ。
インフォテインメント・システムを動かすコンピューターは高速化され、反応は素早い。インターフェイスもアップデートされ、殆どの機能には2回タップすればたどり着ける。メニュー構造は、もう少し論理的でもいい。
エアコン用タッチセンサーにはイルミネーションが内蔵され、夜でも扱いやすくなった。オプションのパノラミック・サンルーフは、ワンタッチで透明度を変更できる。素早く日光を遮れ、頭上空間も犠牲にならない。
狙い通りの優れた操縦性 乗り心地も快適
ID.7は長距離移動が想定されているだけに、シートは素晴らしい。試乗車にはオプションのエルゴアクティブ・シートが組まれていたが、本当に快適だった。柔らかくしっかり体を支えてくれ、ヒーターとベンチレーションが備わる。ベロア生地も心地良い。
走行フィーリングは、フォルクスワーゲンのMEBに共通する。0-100km/h加速を6.5秒でこなす、286psをしっかり引き出せる。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
回生ブレーキの制御は滑らかだが、惰性走行やワンペダルドライブには対応しない。Dではエンジンブレーキのような減速が得られ、Bではシフトダウンした時のように少し強くなる程度だ。ペダルの感触が少し人工的ながら、ブレーキは漸進的に利く。
ステアリングレシオは可変式で、反応はダイレクト。シャシーマウントには新しいラバーのブッシュが用いられ、従来以上に振動を遮断する。アダプティブダンパーは、ホイールの動きに応じて適した減衰力を発揮。硬さ自体も、15段階から調整できる。
フォルクスワーゲンは、より優れた操縦性を狙ったと想像できるが、その結果が表れている。ライバルと比べても、優秀といえるほど。ただし、同社最高の仕上がりにまでは達していないが。
乗り心地も快適。ダンパーをソフト側へ振れば極めてマイルドになる。ただし、強い衝撃を受けると若干上下動が大きくなり、浮遊感も伴う。ハード側へ振ると、姿勢制御が見違えて引き締まる。
他のモデルを評価する指標になり得る
全体的な操縦性はニュートラルで、高速コーナーでも姿勢はフラット。スポーツ・モードではスタビリティ・コントロールの特性も変化し、後輪駆動らしい反応を楽しめる。
だが、濡れた路面ではパワーを余す場面も。タイヤはグリップ力に長けたブリヂストン・ポテンザ・スポーツを履くが、雨が降るフランスのロータリー交差点での立ち上がりでは、トラクション・コントロールがなだめていた。

フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)
ステアリングホイールは、フォルクスワーゲンとしては重め。感触も薄い。可変式ではないダンパーに固定レシオのステアリングが組み合わされたID.7なら、印象は違うかもしれない。
電費は、高速道路から市街地、峠道まで交えて、平均で5.8km/kWh。77kWhの駆動用バッテリーの場合、現実的な航続距離は450km前後と考えられる。驚くほど足が長いわけではないものの、クラストップの能力といえる。
果たして、ID.7にはキラリと輝く特長が欠けているかもしれない。それでも、良く練られた仕上がりにある。i4ほどの完成度ではないとはいえ、車内は遥かに広く価格はお手頃。モデル3のように、淡白な白物家電的な印象もない。
オリジナルのゴルフのような、話題はさらえないかもしれない。だがフォルクスワーゲンらしく、他のモデルを評価する時の指標になり得る仕上がり、といえるだろう。
◯:広々とした車内 従来のID.モデルより向上したインテリア 優れた航続距離
△:高めの価格 内装の品質と車載機能の使い勝手 ブランドの水準へは届いていない乗り心地と操縦性、外界との隔離性
フォルクスワーゲンID.7 プロ(欧州仕様)のスペック
英国価格:5万5570ポンド(約1005万円)
全長:4961mm
全幅:1862mm
全高:1538mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:6.5秒
航続距離:603-621km
電費:6.1-7.0km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2172kg
パワートレイン:AC同期モーター
バッテリー:77.0kWh(実容量)
急速充電能力:170kW
最高出力:286ps
最大トルク:55.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)
