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世界的に注目 フェラーリMT仕様

AUTOCAR JAPAN編集部の上野太朗君から「マニュアルのフェラーリF430スパイダーが3290万円で売りに出ていますが、なぜこんなに高いのですか?」という質問が入った。

【画像】ただでさえ美しいのに…… さり気なくMT搭載 注目/高騰のフェラーリ4選【ため息】 全36枚

流通するほとんどを占める2ペダルのF1マティック(セミ・オートマティック)のF430スパイダーは、1300〜2000万円程度で販売されているだけに、疑問に思うのは当然といえる。


2000年代に登場したフェラーリF430、599、612に設定されていた最終世代のマニュアル・トランスミッション(以下MTと称す)車が、世界的に注目を集めている。

2000年代に登場したフェラーリF430、599、612に設定されていた最終世代のマニュアル・トランスミッション(以下MTと称す)車が、世界的に注目を集めている。

近年F355のMT仕様が高騰して注目を集めたが、その2世代あとのモデルにもMT仕様があり、愛好家から密かに注目されているのである。

そこで近代のフェラーリ・ロードカーからMT車が消滅した背景と、最近の価格動向をお伝えしたい。

昔のフェラーリは「体力勝負」だった

現在販売中のフェラーリ・ロードカーは、量産モデルからプレミアム・モデルまでのすべてが、2ペダルのデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)のみの設定となる。

1990年代初頭にフェラーリが作るスーパースポーツは、MTでパワーステアリングも備わらず、それなりの技量と体力が無いとドライブできないクルマといえた。


現在販売中のフェラーリ・ロードカーは、量産モデルからプレミアム・モデルまでのすべてが、2ペダルのデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)のみの設定となる。ステアリング裏のパドルで変速する。

しかし、1991年にフェラーリに就任したルカ・ディ・モンテゼーモロ社長は「誰にでも乗れるフェラーリ」という指針を掲げ、その一環として開発されたのがF1マティックだった。

1989年にF1マシンのティーポ640で初採用され、ステアリング裏のパドルで変速するという先進的なメカニズムは、すぐさま他のF1マシンにも波及するほどだった。

フェラーリはF1マシン直系のメカニズムを、ロードカーで実用化したのがF1マティックである。2ペダルでパドルシフトが採用され、レーシーなイメージが売りだった。

F1マティックはMTをベースに変速とクラッチ操作をアクチュエーターでおこなうもので、ATモードも備わっていた。まず355 F1としてデビューしたのは1997年のことだった。

F1マティックの導入により乗りやすくなり、世界中で人気を博し好調な販売を記録し、スーパースポーツに欠かせぬ装備となった。そのためライバル各社も2ペダル化を急ぐことになったほどである。

F1マティックは登場して以来、販売台数のほとんどを占めるようになる。ワンメイクレース用の360チャレンジでも採用され、走りを突き詰めたFXXにも使われていた。

MT仕様が終焉を迎えたワケ

こうしてフェラーリのロードカーは、ほとんどがF1マティックとなる。F355の次世代となる360モデナの生産実績を見ると、F1マティックが全体の約4分の3以上を占めていた。

しかし2008年にカリフォルニアの登場により状況が一変する。デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)が採用され、以後登場するモデルはすべてDCTとされたのである。

MTをベースにするF1マティックは、MT仕様を容易に作ることができたが、AT専用で開発されたDCTでは、その構造からMT仕様にすることができないのである。

こうしてF1マティックを採用する最後のモデルとなったF430、599、612スカリエッティが、フェラーリで最後となるMT仕様が設定されたモデルになったのである。

F430、599、612スカリエッティの時代はF1マティックが標準であり、生産台数のほとんどを占めていた。MT仕様は、特注扱いでごく少数が作られるだけに留まる。

さり気ないMT仕様

このように最終世代のMT仕様はごく少数だけが作られるにとどまる。筆者の調査によればF430が最も多く約1500台、599が30台、612スカリエッティが199台となる。

この3モデルのMT仕様は、外から見る限りF1マティック仕様との差異はなく、車内を見てシフトレバーの存在を確認して、ようやくわかる奥ゆかしさが熱狂的なクルマ好きを魅了する。


F430/599/612スカリエッティ、3モデルのMT仕様は、外から見る限りF1マティック仕様との差異はなく、車内を見てシフトレバーの存在を確認して、ようやくわかる奥ゆかしさが熱狂的なクルマ好きを魅了する。    RM Auctions

センター・コンソールにはフェラーリ伝統のシフトゲートが備わり、そこから延びるシフトレバーがオーナーを出迎える。足元にはもちろんクラッチペダルが存在する。

このように伝統の味わいを残す最後のモデルだけに、新車でオーダーしたのは真の愛好家だった。そのため良好な環境で維持されていたことから、現在も荒れた個体は少ない。

ここ2年間のメジャー・オークションで3モデルのMT仕様の落札額を見ると、それぞれのモデルの希少度と人気具合が見えてくるのが興味深い。

値上がり傾向にあるF430のMT仕様

F430のMT仕様は比較的タマ数が多いため、2020年以前は邦貨でF1マティックの1.5倍となる1500〜2000万円程度で落札されていた。

これは360モデナのMT仕様と同じ傾向といえる。


フェラーリF430    RM Auctions

2021年ごろからフェラーリの人気モデルが急激に値を上げ始め、その流れに連動して最近ではF430のMT仕様は邦貨換算で3000万円オーバーが当たり前になってきた。

ボディカラー(黒が人気)やローマイレージで新車同様のコンディションなどの好条件が揃うと、これまでの最高落札額は5645万を記録している。

ベルリネッタとスパイダーとの差はあまり見られない。太朗君が見つけたF430スパイダーは、人気の黒だったが走行が3.2万kmと伸び、右ハンドルのため3290万円にとどまったようだ。

日本の中古車情報サイトを見ると、F430のMT仕様はベルリネッタとスパイダーが1台ずつ確認できた。過去に日本で何台かを確認しているので、数十台は存在していると思われる。

599は驚きの額で落札

MT仕様のモデルで注目したいのが599だ。余談だが599は本来599GTBフィオラーノというモデル名だったが、日本ではGTBとフィオラーノが既に商標登録されていたため使えず、599という寂しい名前になった経緯がある。

599GTBフィオラーノのMT仕様は、全世界で僅か30台が作られたにとどまる。そのうち20台が北米にデリバリーされたという超希少モデルだ。


フェラーリ599GTBフィオラーノ    Jasen Delgado /Courtesy of RM Auctions

2020年ごろは邦貨換算で4000万円前後だったが、2021年からのアイテムカー値上がりの波に乗り、2022年には邦貨で1億1968万円という驚きの値で落札されている。

この最高落札額は、2010年に599台の限定プレミアム・モデルとして送り出された599GTOの落札額を上回る額で、超レア仕様ならではの現実といえる。

612スカリエッティは?

2+2モデルの612スカリエッティにも6MT仕様が用意されていた。199台がマラネッロから送り出されたといわれ、そのうち30台は北米マーケット向けにデリバリーされた。

伝統的にフェラーリの2+2モデルは中古車になると弱い傾向にあるが、612スカリエッティも同様だった。F1マティックなら邦貨で1000万円前後の落札額となり、最終のHGTC仕様でも1500万円ほどで手に入れることができた。


フェラーリ612スカリエッティ    RM Auctions

ここ2年間のオークション結果を見ると612スカリエッティのMT仕様は、邦貨換算にして3500万円前後で落札されていた。

F1マティック仕様の約3倍で、2+2モデルの人気が弱いことからあまり高額にはならない傾向が見られる。

MT仕様の人気 希少性と反動

コレクターズカーの隠れアイテムといえるMT仕様の人気は、自らのテクニックを駆使して変速するという人車一体の走りを楽しめ、さり気ない希少性の高さに尽きよう。

フェラーリMT仕様の人気は、最新モデルが電子制御により走りのすべてがコントロールされるというハイテク化の反動もあり、これからも続くに違いない。